FXトレーダーのための「大人の経済」基礎講座|第6回 米国経済指標の攻略法〜ソフトデータで先を読む〜[雨夜恒一郎]

ファンダメンタルズ(分析)を体系的に学ぶことができる当企画。今回はいよいよ実践編として、ソフトデータを駆使した米国経済指標の攻略法について教えていただきます。ファンダメンタルズ分析に必要不可欠な知識ですので、要点を外さずにしっかりと押さえておきましょう。

※この記事は、FX攻略.com2017年11月号の記事を転載・再編集したものです

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まずは経済指標を正確に理解すること

今回は内容を掘り下げ、実践で役立つ米国経済指標の攻略法について述べていきたいと思います。少々小難しい理屈が出てきますが、辛抱して最後までお読みいただければ幸いです。

ファンダメンタルズ分析の基本は経済指標を読み込むことです。特に世界経済の中心である米国の経済指標は、世界の金利動向を決定づける最大の要因であり、為替市場や株式市場にも直接的・間接的に大きな影響を与えますので、しっかりとトレンドを押さえておくだけでなく、指標の持つ意味や正しい読み方を理解しておくことが重要です。

ハードデータとは?

米国では毎日のように多くの経済指標が発表されますが、それらは大きく二つに分類されます。「ハードデータ」と「ソフトデータ」です。

ハードデータとは、実際の経済活動の結果を集計したデータです。統計の種類、作成機関、調査対象などによって算出方法は異なりますが、ベースとなるのは生産量、売上高や価格、およびその伸び率といった客観的・具体的な数値です。ハードデータの代表格は国内総生産(GDP)です。GDPは一国の経済が生産したモノとサービスの総量ですから、究極的なハードデータといえるでしょう。ファンダメンタルズ分析を生業とするエコノミストの究極的な使命は、GDP伸び率を予測することにあるといっても過言ではありません。

ところがハードデータは、調査対象からデータを回収し、集計し、足りない部分を推計し、さらに必要に応じて季節調整する…といった手順を踏みますので、どうしても発表するのが遅くなってしまいます。また米国の場合、GDPは四半期に一度しか発表されませんので、速報値であっても当該四半期が終わった翌月の下旬まで待たねばなりません。貿易収支のように発表が翌々月になるものもあります。これではトレードに活用するには遅すぎます。

米国で最も早く発表されるハードデータは雇用統計(このため米国雇用統計は非常に注目されます)ですが、それでも原則として翌月の第一金曜日です。ハードデータに属する経済指標はあくまで「結果」であり、リアルタイム性や先行性を求めることはできません。

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ソフトデータとは?

そこで注目したいのが本稿のテーマであるソフトデータです。ハードデータが経済活動の客観的・具体的な数値であるのに対し、ソフトデータは企業の現在の業況や将来の見通しなど「感触」や「意識」といった主観的データを集計したものです。

調査対象者は「業況が良い・悪い」などアンケート方式で答えれば良く、実際に帳簿からデータを抽出したりする手間も不要のため、比較的早く集計できるのが特徴です。ハードデータと違って事実による裏付けがなく、ある意味回答者の「気分」の統計のため、実際の景気循環と一致しないこともありますが、それでもハードデータより早く景気動向を明示することがあるので重宝します。

なおハードデータは中央銀行や官公庁が発表するものがほとんどですが、ソフトデータは民間の調査機関が発表するものも少なくありません。

ミシガン大学指数

米国で最初に発表されるソフトデータは、ミシガン大学消費者信頼感指数で、その月の第2もしくは第3金曜日には速報値が発表され、最終金曜日には確報値が発表されます。文字通り、ミシガン大学の研究グループが行う調査で、速報は300人、確報は500人を対象としたアンケート調査(楽観もしくは悲観)を、1964年を100として指数化しています。早く発表されるだけに注目度・影響度も結構大きいのですが、サンプル数が少ないためブレと修正幅が大きいのが特徴です。

地区連銀の景気指数

次に発表されるのは、NY連銀製造業景気指数(カレンダーによってはミシガン大指数より先になる場合もあります)で、地区連銀の一つであるNY連銀が当月の15日ごろに発表する指標です。毎月1日に、NY州にある約200の製造業の経営者に対して、仕入価格・販売価格・新規受注・出荷・入荷遅延・在庫水準・受注残・雇用者数・週平均就業時間などの各項目について、前月との比較や6か月後の予想を「増加または好転」「変わらず」「減少または悪化」から選択してもらい、「増加または好転」とした回答から「減少または悪化」とした回答を差し引いて指数化したものです。

このように「良い」から「悪い」を差し引いた指標をディフュージョン・インデックス(DI)といい、ゼロが好不況の分岐点となります。これらの指数の先見性はなかなかのもので、その月の経済指標の先行指数として市場から注目を浴びます。

ちなみにNY連銀の他にもいくつかの地区連銀が独自の景気指数を発表しており、フィラデルフィア連銀が発表する製造業景気指数やシカゴ連銀が発表する全米活動指数なども時々市場を動かすことがあります。

その他のソフトデータ

月の後半〜翌月前半には、シカゴ購買部協会、コンファレンスボード(全米産業審議会)、サプライマネジメント協会(ISM)といった民間調査機関から指数が発表されます。シカゴ購買部協会指数はPMI(Purchasing Managers Index)ともいわれ、シカゴ地区の製造業購買担当者の景況感を指数化したものです。50を上回れば景気拡大、50を下回れば景気後退と判断されます。コンファレンスボードが発表するのは消費者信頼感指数で、5000人の消費者に対して現状と6か月後の景況感をアンケート調査したものです。1985年を100とした指数で発表されます。

ISM指数は、ここ数年市場で注目度が高まっている指数で、シカゴPMIと同様、企業の購買担当役員に対するアンケート調査を基にした景況感指数です。新規受注・生産・雇用・入荷遅延・在庫の項目があり、製造業と非製造業に分けて発表されます。雇用統計の直前に発表されることが多いため、特に内訳項目の「雇用指数」が雇用統計の先行指標として注目されます。 

雇用統計の先行指標

なお雇用統計の先行指標は他にもあります。有名なところでは、本家である米国雇用統計の2日前に発表される「ADP雇用報告」が挙げられます。これは給与計算のアウトソーシングを手掛けるADPという民間企業が集計しているデータで、本家とほぼ同じ集計方法を採用しているため、非農業部門雇用者数(NFP)の先行指標・前哨戦と位置付けられています。ADPが抱える約50万社の顧客を対象にしているため、データとしての信頼性はある意味本家を凌ぐともいわれています。

また、雇用統計のだいたい前日に発表される「チャレンジャー人員削減数」もチェックしておくと良いでしょう。米国のコンサルティング会社であるチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社が集計する人員削減者数のデータです。これが大きく増加しているときは、その月に米国企業で大規模なレイオフ(一時解雇)が行われた可能性が高く、雇用悪化のシグナルとなります。

米国景気動向を読み解く方法

米国の景気動向を読むには、まずミシガン大学消費者信頼感指数とNY連銀製造業景気指数でトレンドを推測し、シカゴPMIとコンファレンスボード消費者信頼感指数で補強し、ISM指数で仮説を立てると良いでしょう。

米国景気指標で最も注目されるのはもちろん雇用統計ですが、雇用統計の発表までにソフトデータによってその月の景気が良かったかどうかある程度見方を固めておけば、数字を見て慌てることも少なくなるはずです。そして、物価指数、小売売上高、住宅関連指標などのハードデータを一つずつ確認しながら、その四半期のGDPがどのあたりに着地するのかを見極めることになります。

日欧のソフトデータ

ちなみに、日本やユーロ圏でもソフトデータはいくつかあります。日本では、かつて日銀短観(企業短期経済観測調査)が日銀の金融政策に影響を及ぼすとして注目されていましたが、年4回しか発表されないことや、日銀の金融政策が緩和一辺倒になったことから、このところはさほどの影響力はありません。

ユーロ圏では、ドイツのIFO経済研究所や欧州経済研究センター(ZEW)が発表する景況指数が有名ですが、最近では南北の経済格差が拡大する中、各国が発表するPMIの方が注目されているようです。

GDPナウ

最後に、最近注目度が高まっている「リアルタイムGDP」について触れておきましょう。代表格である「GDPナウ」は、アトランタ連銀が発表している独自の指標で、ISM製造業景況指数、小売売上高、耐久消費財、個人所得・支出、国際貿易統計、住宅着工件数の6種類のデータを用いて算出したGDPの予想値です。四半期の最中に速報値が発表され、ベースとなるデータが発表されるたびに修正されるため、信憑性の高い先行指標として注目されます。最新のGDPナウはアトランタ連銀のウェブサイトに掲載されています(図①)。

出所:アトランタ連銀

NY連銀も2016年4月から、同様のデータである「FRBNYスタッフ・ナウキャスト」を発表しています(図②)。アトランタ連銀より多くのデータを採用しており、毎週金曜日に更新されるので、リアルタイム性は優れているといえます。ただ比較的新しい指標とあって、そのモデルが正確かどうかは何ともいえないところで、過去の実績を見てみると、実際のGDPからかなりの乖離が認められます。現時点では参考程度に止めておくのが良さそうです。

出所:NY連銀 

第6回まとめ

① 経済指標は「ハードデータ」と「ソフトデータ」に分類できる
② ハードデータは実際の経済活動の結果を集計したもの
③ ソフトデータは企業の現在の業況や将来の見通しなど主観的データを集計したもの
④ いち早く景気動向をつかむにはソフトデータのチェックが不可欠

※この記事は、FX攻略.com2017年11月号の記事を転載・再編集したものです

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雨夜恒一郎(あまや・こういちろう)

20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報をFX会社やポータルサイトに提供中。

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