2018年のFOMC投票権保有者正副議長以外はタカ派寄り?[安田佐和子]

経済学の博士号を持たないパウエル氏

2015年12月に利上げを開始してから、米連邦公開市場委員会(FOMC)はイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長体制下で5回の利上げを行いました。2015年と2016年の12月に1回ずつ、2017年には3回実施し、イエレンFRB議長は有終の美を飾った格好です。

2018年 、FRBはジェローム・パウエル氏を議長に迎えます。経済学の博士号を取得していないFRB議長は、1979〜1987年に議長を務めたポール・ボルカー氏以来となります。

パウエル氏は弁護士としてキャリアをスタートさせた後、投資銀行のディロン・リード・アンド・カンパニーで頭角を現し、ブッシュ政権(父)の時代には国内市場担当の財務次官に就任。民間に戻ってからは、投資会社カーライル・グループの共同責任者を務めました。2005年に非営利団体の超党派政策センターに注力する上でカーライルを退社した後、債務上限引き上げ交渉で共和党議員を説得した影の尽力者でした。そのときの功績が認められ、オバマ政権で1988年以来となる野党寄りFRB理事の指名となったわけです。

イエズス会系の高校を卒業したキリスト教徒でもあり、バチカン市国の大使を務めたフランシス・ルーニー下院議員(共和党、フロリダ州)は同窓生。卒業生にはニール・ゴーサッチ最高裁判事、フランク・ロビオンド下院議員(共和党、ニュージャージー州)、クリス・ドッド元上院議員(民主党、コネチカット州)らが名前を連ねます。ギターを弾くロックな一面を持つ他、自宅があるシェビー・チェイスからFRBまで11kmを自転車通勤してきた健脚の持ち主でもあります。

パウエル氏に対し、かつてFOMCで顔を合わせていたダラス連銀のリチャード・フィッシャー前総裁は、タカ派でもハト派でもなく「フクロウ」との評価を寄せます。パウエル氏は夕食時でもワインを2杯以上飲もうとせず、「過度に穏健(moderate to a fault)」なのだとか。

これまでの発言を紐解くと、慎重で知られるイエレン氏に近い性格と考えられます。金融政策の正常化は「緩やかであり続けるべき」、低インフレ環境に「忍耐強くあるべき」「労働市場が逼迫するのに合わせ、物価は上昇する」など、イエレン発言に即してきました。保有資産の圧縮をめぐっては「2.5兆ドルを下回るとは想定しづらい」と語り、金融市場に過度な引き締め効果を与えない見通しを示唆しています。

中道派と認識されるパウエル氏ですが、中道ハト派寄りである可能性は捨てきれません。同じくカーライル・グループ出身で、ブッシュ政権(子)で国内市場の財務次官を務めたランダル・クオールズFRB副議長(金融規制担当)も、中道ハト派寄りである余地を残します。


出所:FRB、各地区連銀、JPモルガン、各メディアより三井物産戦略研究所作成

2018年は年4回の利上げもあり得る!?

2017年12月12〜13日開催のFOMCで、参加者のFF金利見通し・中央値は2.125%と、年3回の利上げ予想で据え置きとなりました。しかし、内訳を見ると前回9月時点の見通しに変化が現れていたのです。9月の2回利上げ予想は5名に対し、12月は6名に増えていました。反対に4回以上の利上げを見込む参加者は5名から4名に減少しており、フィッシャーFRB前副議長の入れ替わりで副議長に就任したクオールズ氏の見方が反映されたと考えられます。

2018年の投票権保有者は、新たにFRB理事が就任しない限り、FRB正副議長と理事の3名、地区連銀総裁(NY地区連銀総裁はFOMCの副議長役であり常任、他4名が輪番制)の5名の計8名です。そのうちタカ派寄りはクリーブランド地区連銀総裁、リッチモンド地区連銀総裁、サンフランシスコ地区連銀総裁の3名、中道派はFRB議長、NY地区連銀総裁、アトランタ地区連銀総裁の3名、ハト派寄りは残り2名となる可能性があります。

したがって、多数決で金融政策が決定する制度上、2018年に辞任予定のNYを含めた地区連銀総裁5人が全員利上げ票を投じれば、FRB正副議長と理事の票に関係なく追加利上げを決定できることになります。成長加速局面でタカ派が利上げを強く主張すれば、足元のFOMC参加者予想中央値の年3回どころか、年4回の利上げが視野に入るというわけです。

一方、市場はまだ2018年に2回程度の利上げしか織り込んでいません。2018年にFOMC参加者が4回の利上げを示唆し、市場の利上げ見通しが修正されれば、金利上昇・ドル高・株安の局面を迎えてもおかしくないでしょう。


出所:FRBより三井物産戦略研究所作成

※この記事は、FX攻略.com2018年3月号の記事を転載・再編集したものです

安田佐和子の写真

安田佐和子(やすださわこ)

三井物産戦略研究所北米担当研究員。世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移す。金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、ストリート・ウォッチャーの視点からニューヨークの不動産動向、商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信中。2011年からは総合情報サイト「My Big Apple NY」を立ち上げ、 ニューヨークからみた アメリカの現状をリポートしている 。

公式サイト:My Big Apple NY

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