【ステップ5】ハード・ソフトデータで米国景気動向を読む方法

信頼性の高い「ハードデータ」

ファンダメンタルズの基本は経済指標を読むこと。世界経済の中心である米国では、実に多くの経済指標が発表されますが、それらは大きく二つに分類されます。ハードデータソフトデータです。

ハードデータとは?

ハードデータとは、実際の経済活動の結果を集計したデータです。統計の種類、作成機関調査対象などによって算出方法は異なりますが、ベースとなるのは生産量、売上高や価格など客観的・具体的な数値です。

すでに解説した貿易収支と雇用統計はもちろんハードデータです。そのほか、市場で注目度が高いハードデータには、GDP(国民総生産)、小売売上高、物価指数(消費者物価・生産者物価)、住宅関連指標(住宅着工件数、新築住宅販売件数など)、鉱工業生産などがあります。

ところが、これらハードデータは、調査対象からデータを回収し、集計し、足りない部分を推計し、さらに必要に応じて季節調整する…といった手順を踏みますので、どうしても発表するのが遅くなります。

米国の場合、最も早く発表されるハードデータは雇用統計(このため米国雇用統計は非常に注目されます)ですが、それでも原則として翌月の第一金曜日。貿易収支のように発表が翌々月になるものもあります。最新のデータと言えど、鮮度はあまり高くなく、トレードに利用するには古すぎるものもあるのです。

スピード感にメリットがある「ソフトデータ」

ソフトデータとは?

そこで今回のコラムで注目するのがソフトデータです。ソフトデータとは、現在の業況や将来の見通しなど「感触」や「意識」といった主観的データを集計したものです。

調査対象者は「業況が良い・悪い」などアンケート方式で答えればよく、実際に帳簿からデータを抽出したりする手間必要がないため、比較的早く集計できるのが特徴です。

ハードデータと違い事実による裏付けがなく、悪い言い方をすれば「気分」の統計のため実際の景気循環と一致しないこともありますが、それでもハードデータより早く景気の谷・山を的中させることも少なくありません。

なおハードデータは中央銀行や官公庁が発表するものがほとんどですが、ソフトデータは民間の調査機関が発表するものもあります。

要注目な「ソフトデータ」まとめ

主要なソフトデータを網羅

米国で最初に発表されるソフトデータは、ミシガン大学消費者信頼感指数で、その月の第2もしくは第3金曜日には速報値が発表され、最終金曜日には確報値が発表されます。文字通り、ミシガン大学の研究グループが行う調査で、1964年を100として算出されます。早く発表されるだけに注目度・影響度も結構大きいのですが、サンプル数が少ないためブレと修正幅が大きいのが特徴です。

次に発表されるのは、NY連銀製造業景気指数(ミシガン大指数より先になる場合もあります)で、地区連銀の一つであるNY連銀が当月の15日ごろに発表する指標です。

毎月1日に、NY州の約200の製造業の経営者に対して、仕入価格・販売価格・新規受注・出荷・入荷遅延・在庫水準・受注残・雇用者数・週平均就業時間などの各項目について、 前月との比較や6カ月後の予想を「増加または好転」「変わらず」「減少または悪化」 から選択してもらい、「増加または好転」とした回答から「減少または悪化」とした回答を差し引いて指数化したものです。

このように「良い」から「悪い」を差し引いた指標をディフュージョン・インデックス(DI)といい、ゼロが好不況の分岐点となります。

これらの指数の先見性はなかなかのもので、その月の経済指標の先行指数として市場から注目を浴びます。ちなみにNY連銀のほかに、フィラデルフィア連銀やリッチモンド連銀なども景況指数を発表しています。

月の後半~翌月前半には、シカゴ購買部協会、コンファレンスボード(全米産業審議会) ISM(サプライマネジメント協会)といった民間調査機関から指数が発表されます。 シカゴ購買部協会指数はPMI(Purchasing Manager Index)とも言われ、シカゴ地区の製造業の購買担当者の景況感を指数化したものです。50を上回れば景気拡大、50を下回れば景気後退と判断されます。

コンファレンスボードが発表するのは消費者信頼感指数で、5000人の消費者に対して現状と6か月後の景況感をアンケート調査したものです。1985年を100とした指数で発表されます。

ISM指数は、ここ数年市場で注目度が高まっている指数で、シカゴPMIと同様、企業の購買担当役員に対するアンケート調査を基にした景況感指数です。新規受注・生産・雇用・入荷遅延・在庫の項目があり、製造業と非製造業に分けて発表されます。雇用統計の直前に発表されることが多いため、特に内訳項目の「雇用」が先行指標として注目されます。

主要ソフトデータ一覧

景気ウォッチャー指数

景気ウォッチャー指数とは、「街角景気指数」とも呼ばれ、内閣府が毎月実施・公表する、コンビニやスーパーの店長、タクシーの運転手など景気動向に敏感な立場の人への調査(景気ウォッチャー調査)を基にした景気指数(DI)のことをいう。構成項目には3か月前と比較した景気の現状に対する「現状判断DI」と、2~3カ月先の景気の先行きに対する「先行き判断DI」がある。

ミシガン大学消費者信頼感指数

ミシガン大学消費者信頼感指数はアメリカ合衆国(米国)のミシガン大学のサーベイ・リサーチセンターが実施するアンケート結果を集計した景気関連の経済指標である。アンケートは景況感・雇用状況・所得に関して、楽観または悲観で回答される。なお、本指数は、現状判断指数(約40%)と先行き期待指数(約60%)で構成され、期待指数については「景気先行指数」の構成要素でもある。

NY連銀製造業景気指数

ニューヨーク連銀製造業景気指数は、「NY連銀製造業景況指数」や「エンパイア・ステイト景況指数」とも呼ばれ、ニューヨーク連銀が毎月中旬に発表するニューヨーク州の製造業における景況感を示す経済指標をいう。その算出方法はニューヨーク州の約200の製造業の経営者に対して行われ、その回答を指数化したものである。

シカゴ購買部協会指数

シカゴ購買部協会景気指数は、アメリカ合衆国(米国)のイリノイ州のシカゴ購買部協会が毎月最終営業日に発表する、製造業の景況感を示す経済指標をいう。本指標はシカゴ地区の製造業の購買担当者に直接調査を行い、その景況感を指数化したもので、50を景気の拡大・後退の分岐点としており、50を上回れば景気拡大、50を下回れば景気後退と判断される。

消費者信頼感指数

消費者信頼感指数は、アメリカ合衆国(米国)の民間経済研究所(民間調査機関)であるコンファレンスボード(全米産業審議委員会)が発表する、消費者のセンチメント(消費者マインド)を指数化した景気関連の経済指標をいう。5000人の消費者に対して現状と6カ月後の景況感についてアンケート調査を行い、現状の経済と雇用に関する2項目の平均を「期待指数」としての平均値で発表します。

ISM指数

ISM指数は、アメリカ合衆国の米国供給管理協会(ISM:Institute for SupplyManagement)が発表する指数であり、これには「ISM製造業景気指数」と「ISM非製造業景気指数」があります。特に米国の景気先行指標としてマーケットで注目されている指標です。製造業・非製造業別に調査し、1カ月前との比較を回答したものを基に算出しています。

経済指標を活用して米国の景気動向を知る

米国景気の読み方

米国の景気動向を読むには、まずミシガン大学消費者信頼感指数とNY連銀製造業景気指数でトレンドを推測し、シカゴPMIとコンファレンスボード消費者信頼感指数で補強し、ISM指数で確認をするとよいでしょう。

米国景気指標で最も注目されるのはもちろん雇用統計ですが、雇用統計の発表までに、ソフトデータによってその月の景気が良かったかどうかある程度見方を固めておくことが重要です。

日欧のソフトデータ

ちなみに、日本やユーロ圏でもソフトデータはいくつかあります。

日本では、かつて日銀短観(企業短期経済観測調査)が日銀の金融政策に影響を及ぼすとして注目されていましたが、年4回しか発表されないことや、日銀の金融政策が緩和一辺倒になったことから、このところはさほどの影響力はありません。

ユーロ圏では、ドイツのIFO経済研究所やZEW(欧州経済研究センター)が発表する景況指数が有名ですが、最近は南北の経済格差が拡大する中、各国が発表するPMIの方が注目されているようです。

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雨夜恒一郎(あまやこういちろう)

20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報をFX会社やポータルサイトに提供中。

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