米中貿易摩擦深刻化でも楽観的でいられるか?[雨夜恒一郎]

FX攻略.com ズバリ!今週の為替相場動向 2019年5月20日号

先週のドル円相場

先週のドル円相場は、米中貿易摩擦が再燃する中、リスク回避の展開となり、週初に一時109.02円と1月31日以来の安値へ下落。NYダウも一時25230ドル近辺と3月11日以来の安値をつけた。しかし週後半は、米中の対話は継続するとの見方から買い戻しが入り、110円付近へ反発。金曜日には、5月のミシガン大学消費者信頼感指数が2004年1月以来の水準に上昇したことを好感して110.19円まで上昇した。筆者は110円への戻りは困難とみていたので、少々意外な展開であった。

悪材料への「慣れ」

どんなに大きな苦難であっても、毎日のことになれば人々は慣れてくる。米中貿易摩擦に関しても、これだけ毎日メディアで報道され続けていれば、市場も反応するのに飽きてくる。米中ともに歩み寄らず、貿易協議の落としどころは見えてこないにもかかわらず、先週ドル円も株式市場も持ち直したのは、悪材料への「慣れ」だったのであろう。米中衝突を見込んだ株ショートや円ロングもある程度積み上がっていたのかもしれない。ドル円の週足でみると下ヒゲが長い陽線(たくり線)となり、買いエネルギーの存在を示唆している。

実体経済への影響

しかし米中貿易摩擦について「もう慣れた」「織り込み済み」と楽観していいものだろうか。関税引き上げ自体は想定済みだったかもしれないが、米中両国の実体経済に対する悪影響は、市場で十分消化されたとは言えない。関税引き上げが数か月で終わるのか、パーマネントなものになるのか、現時点では予想しづらいが、たとえ数か月であれ、25%もの関税をかければ米中の貿易が深刻な打撃を受けることは間違いない。トランプ大統領は関税引き上げで失うものは少なく、むしろ税収で国庫が潤うのは良いことと認識しているようだが、関税を実際に支払うのは米国民だ。制裁関税の第4弾により、中国からの輸入のほとんどが25%の関税の対象となる。衣料品や電気製品・スマホなどあらゆる生活必需品に関税が価格転嫁され、消費者の購買力は低下し、ひいては経済全体に下押し圧力がかかる。

中国の輸出は危機的状況

また中国製品は米国で売れなくなるため、中国の対米輸出は激減する。また中国に進出している海外資本(もちろん日本企業も含む)は、高関税を避けるため、生産拠点を中国以外に移すだろう。関税引き上げにより、中国のGDPが1.6~2.0%押し下げられるとの試算もある。トランプ政権が中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)に事実上の輸出禁止措置を発動したことで、同社やその周辺企業が苦境に陥る可能性も高い。

日本もマイナス成長に

「46年間経営してきて月単位でこんなに(受注が)落ち込んだのは初めて」。日本電産の永守会長CEOが、中国の景気急減速で危機感を訴えたのは2019年1月半ば。そして本日発表される日本の1~3月期GDPも昨年7-9月期以来のマイナス成長となった模様だ。結果次第では今年10月に予定されている消費税率の引き上げが見送りとなる可能性もくすぶる。

スタンスは戻り売り

すでに深刻な景気減速懸念が顕在化している中でも、株式市場とそれに追随する為替市場はいまだゴルディロックス(適温経済)という「ぬるま湯」にどっぷりつかったままだ。次のショック材料が何かはわからないが、ぬるま湯が冷や水になる前に風呂から上がっておくのが賢明であろう。今週は中期的に見た売り場を探すスタンスで臨みたい。

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雨夜恒一郎(あまや・こういちろう)

20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報をFX会社やポータルサイトに提供中。

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