10倍制限のFX新レバレッジ規制案は見直しを[山中康司]

FX業者のリスクは本当に無くなるのか?

9月に日経新聞1面に唐突にFXのレバレッジ規制案が出てから早2か月近くが過ぎようとしています。その間、様々な憶測も出てきましたが、当初案は「想定を超える損失を抱えるリスクを避けるため」、「レバレッジを25倍から10倍程度に下げる」というもので、スイスフランショックのような突発的な事態を想定したものでした。 

その後、店頭FXと異なり金融取引所のFX(くりっく365)は清算機関の存在から業者の自己資本が痛まないとの論理で、そのまま現行のレバレッジを維持するとの話も出てきましたが、多くの人が目的は取引所取引の優遇復活にあるのではないかと疑惑の目を向け始めたのです。 

しかし、そもそも25倍のレバレッジを10倍に下げることでFX業者のリスクが無くなるのかというと、こればかりは想定を超える事態が起きてみないとなんとも言えないとしか言いようがありません。スイスフランショックの時にはスイスフランが急騰したことで、スイスフラン円は当日の東京始値(115.15レベル)から瞬時に値が飛び、一時166円台(瞬間的に値が消えたため、高値を業者によっても異なりました)にまで50円以上もの急騰となったのです。しかも変動の主犯はスイス中銀という当局側の愚策によるものです。 

この51円を超える急騰は割合にしたら44%もの変動に達し、一日の変動幅としては変動相場制移行後最大のものとなったわけです。ちなみに最も取引量が多いドル円の場合、これまでの最大の変動幅は昨年6月のブレグジットの時で、開票直後の高値106.85レベルから安値98.95レベルへと8円弱の急落、変動率にして8%(ドル安値で計算)となっています。

2つの例からも明らかなように、これまで無かったことはいつ起きてもおかしくいないですし、今後の歴史の中では44%を超えるような変動もあるかもしれません。こうした交通事故のような急変動までをいたずらにリスクと捉えることは市場取引の円滑化を低下させるとともに、これまでの金融の自由化や投資マインドの向上に反するものとしか言えません。あくまでも、レバレッジも含めたリスク対応は投資家に任せることが本筋だと考えます。 

また、この2つの例からもわかりますが、通貨ペアによって変動率は大きく異なります。一律に10倍という規制案はせっかく今年の2月に法人口座に導入された変動率をベースに最大レバレッジを変えるという理にかなった考え方を捨て去ることにもなります。この法人口座のレバレッジは金先協会による自主規制とは言うものの、当局ともなんらかの事前調整があったと思われます。

この法人レバレッジの計算法は、過去26週と過去130週の標準偏差をベースによりリスクが大きい方を採用するという考え方がベースになっていて、取引所取引におけるグローバルスタンダードのSPANと考え方を同一にするもので、リスクとレバレッジを合理的に計算する考え方と言えます。この法人レバレッジの考え方をベースに個人のレバレッジを決める考え方であるならばまだ納得できます。

他の同様の個人向け金融商品を見ても、大証の日経平均株価先物「225ミニ」は約33倍、東京商品取引所の「スポットゴールド」は約45倍とFXの25倍は決して高いレバレッジとは言えませんし、日経平均株価とドル円の変動率を比較するならば、スポットゴールドと同程度のレバレッジのほうが理に適っています。実際に通貨先物で有名なシカゴマーカンタイル取引所の円のレバレッジは約44倍と想定されるレバレッジとなっています。

レバレッジ規制討論会のアンケート結果によると…

最後に、13日に開催したレバレッジ規制をテーマに行った討論会で実施したアンケート結果を紹介します。この討論会は、レバレッジ規制案に対してFX業界で活躍する方々をパネリストとして様々な角度から意見を述べていただきましたが、スタート時点に2つのアンケートを取らせていただきました。

(1)何倍のレバレッジで取引をしているか
(2)レバレッジ規制が実施されたらどうするか
です。

その結果は、(1)が10倍未満つまり規制案に影響を受けないと考えられる投資家はわずか21%、(2)で10倍未満でも取引を続ける投資家はわずか27%でした。8割近い投資家がレバレッジ規制案の影響を受けるため、その方々の多くが海外FXに移行、あるいはFXそのものをやめるとまで答えているのです。 

FX業者や投資家を守るはずの規制案が、実際には投資家の国内FXからの逃避を助長し、それがFX業者の利益も減らす。気づいた時には世界最大のFX取引国である日本から転げ落ちる。官製のFX業界縮小を招く案はすぐにでも取り下げ投資家目線で再考すべきであると考えます。

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山中康司(やまなかやすじ)

1982年アメリカ銀行入行、1989年バイスプレジデント、1993年プロプライエタリー・マネージャー。1997年日興証券入社、1999年日興シティ信託銀行為替資金部次長。2002年アセンダント社設立・取締役。

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