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- 相場の学び方 その4:林 康史
- 相場の学び方 その4:林 康史

マネーも相場も、心理なくしては語れない
近時、注目されている経済学の一分野に、行動経済学と呼ばれる分野があります。行動経済学は、いわば、心理学を取り込んだ経済学で、簡単にいえば、人は不確実性下では合理的な判断をするとは限らないという立場にたつ経済学です。
過去のバブルや金融危機を見れば、心理の問題がいかに経済現象に影響を与えてきたかがわかります。また、お金や投資に関して、人は心理バイアス(注1)から逃れ難いことも事実です。金融を学び、考える際にも、人間心理についての理解は欠かせないと思います。
連載の最初に、相場を学ぶ柱のひとつは心理だと述べました。今回は、それを紹介したいと思います。
注1 心理学では、「偏見、先入観」の意味で用いられる。もともとは「布目に対して斜めに裁断した布地」のことで、直線的なものを斜めにわけるという心象から、「偏見」という意味で使われるようになった。
第1節 「囚人の思索」問題
お金や相場と心理の問題について述べる前に、まず、次の問題を考えていただきたいと思います。
問 4名の囚人がいる。階段室のC、Dは自分より低い位置の囚人の姿は見える。囚人らは帽子を被せられているが、その色は教えられていない。「黒と白の帽子が2つずつある。囚人のうち1名でも自分の被せられている帽子の色がわかれば全員が釈放される」という情報が囚人らに伝わった。必ずわかる囚人はいるか、また、いるとすれば誰か?
私が「囚人の思索」と名づけている問題ですが、金融市場と心理を考えるのに好適と思われます。
次に読み進む前に、しばらく考えてみてください。すぐに正解がわかる人は稀です。頭の体操といった本であれば、中級か上級とされる問題かもしれません。1時間考えてもわからない人も多いかと思います。
この問題が難しいのは、意外にも、「神」の視点から俯瞰しようとすると、正解が見えてこないということにあります。囚人そのものの視点に立たないといけないのです。
私たちは、こういう問題に接した場合、通常、各囚人の立場で考えてみます(注2)。まずAの立場になってみて、「わからない」と判断します。次にB、Cと感情移入していくわけです。ここまでで、情報が不十分だと判断しがちです。
そして、Dに感情移入した段階で(あるいは、最初から、Dが他の囚人よりもわかりやすい位置にいると考えて、それ以外の答えを検討しない人もいるかもしれません)、自分の帽子の色がわかる場合とわからない場合があるとわかります(BとCが同じ色なら自分の帽子の色がわかりますが、異なる色であれば自分の色はわかりません)。
ここまでは一瞬にたどり着くかと思います。そして、わかる場合とわからない場合があると結論づけます。
しかし、本当にそうでしょうか。BとCの帽子が異なる色でしたら、Dは答えがわりませんから、黙ったままですし、誰も釈放もされません。そして、それがCにとって貴重な情報となります。
この問題が難しいのは、Cの立場になったうえで、Dの考えに思いをめぐらすという二重の感情移入が必要だからです。ここまで読んで、正解がわからない人は、85ページの囲みを読んでください。
この問題は市場の縮図ともなっています。Dが著名な投資家としますと、Dがある株式を買っているという耳寄り情報を得たCは、Dの真意や考え方を思量することなく、Dの行動のみを情報として、同じ株式を買うかもしれません。いわゆる群集行動(注3)です。こうして、市場にユーフォリアが生じ、それが昂じてくるとバブルになるわけです。この問題における囚人の立場は金融市場の参加者と似ているのです。
注2 こうした感情移入して考える発想術は類比法と呼ばれる。
注3 市場での群集行動は、それが起こる背景や状況により、いくつかに分類される。 1.「ケインズの美人投票」:美人コンテストで、100名の写真から美人6名を選び、それが投票者全体の平均とあっていれば賞品がもらえるとする。賞品が欲しいなら、自分の好みではなく、他者の好みを推測して投票する(そうしないと賞品がもらえない)。株式市場もそれに似ているとケインズは述べた。 2.名声モデル:例えば、アナリストは予測を外せば名声を失うが、他のアナリストも同時に間違えば自分だけが名声を失うことはない。 3.情報のカスケード(雪崩):トレンドは個人が自分の情報を無視して他人の行動に注目することで始まる。人々が状況の変化を感じれば、流れが起こる。
心理学と経済学~ベルヌーイの誤謬
2002年、プリンストン大学の心理学者ダニエル・カーネマンは、主に故エイモス・トヴァスキーと共同で行った、不確実性のもとでの意思決定の心理に関する研究によりノーベル経済学賞を受賞しました。とくに、注目に値する点は、心理学者がはじめてノーベル経済学賞を授与されたことです。
経済学と心理学は別々の歩みを始めて以来、交差したことがなかったのですから、この受賞は注目されるものでした。
経済学と心理学は根本的には、人間の思考、感情、行動の理解への関心を共有しています。しかし、過去80年ほどの間、この2つの学問分野はその理解を獲得するためにまったく別々の道を歩んできたのでした。
それ以前には、経済学は、物理学者兼哲学者兼数学者であるダニエル・ベルヌーイの合理的行為主体モデルを採用していました。ベルヌーイのこのモデルは、人は合理的かつ冷静に経済的利益を追求する、ということを前提としたものです。
彼の考えは要約すれば、人は決定に至る前に(特定の行動手順がもたらす利益はかかった経費を上回るといった)入手可能な証拠について、冷静かつ合理的な評価を下し、これに基づいて意思決定を行うというもの。
ベルヌーイによれば、正しい決断とは、個人の経済的利益を最大化し、費用を最小化するものです。合理的行為主体モデルの中核となるこの仮説は、欠陥があることを立証する証拠があるにもかかわらず、ベルヌーイが最初にその考えを提唱してから250年間、あまり変わることはありませんでした。カーネマンは、ベルヌーイの定理におけるこの誤りを「ベルヌーイの誤謬(ごびゅう)」と呼びました。
心理学は、経済学とは別のモデルを採用してきました。これは意思決定における合理的過程、知覚的過程、情緒的過程の間の相互作用を強調したモデルです。とくに、人間の意思決定にはあらゆる形の誤謬や先入観がかかわってくる傾向があるというもので、このモデルの内容の多くはカーネマンらによって実証されました。
カーネマンとトヴァスキー、そのほかの同僚たちの先駆的な研究の多くは、人が意思決定に使用する経験則(つまり、単純かつ有効な、経験に基づく法則)に焦点を当てたものでした。
スペクラトゥールのススメ
社会学者・経済学者のヴィルフレド・パレート(Pareto, Vilfredo Marchese. 18481923)は、人には、考え抜くことが好きな「スペクラトゥール」と、いわば指示を待つ「ランチエ」の2種類のタイプがあると述べています。
スペクラトゥールというのはラテン語で、英語のスペキュレーター(投機家、相場師)の語源ですが、そもそも、この言葉は「考え抜く人」という意味です。また、ランチエは「年金生活者」の意味で、自分ではあまり考えようとはしないで、指示を待つというタイプの人です。
パレートは、スペクラトゥールがいろいろと考えて、ランチエがそれに賛同して世の中が動いていくのだと述べました。よいスペクラトゥールが多いと、その会社や世の中はよくなっていくし、ランチエばかりだと向上はしないということです。
本文の「囚人の思索」問題をスペクラトゥールとランチエの観点から考えてみますと、囚人Cがスペクラトゥールであれば、囚人らは釈放されるし、ランチエであれば、何ら進展はないということになります。その意味で、「囚人の思索」問題はCがスペクラトゥールかどうかを問う問題なのです。
さらにいえば、この問題を出された読者がスペクラトゥールかどうか、問われているのです。読者のなかで、すぐに答えを思いつかず、しかも、考えることを面倒がって早く答えを知りたいと思った人は、ランチエのタイプです。自分のためにも、また、社会のためにも、自分の「スペクラトゥール度」を高めるべく努力していただきたいものです。
人は合理的、市場は効率的
伝統的な経済学は、「人は合理的」、「市場は効率的」を前提に発達してきました。
一般的には、合理的という言葉は、論理的や賢いといった意味で使われることが多いのですが、現在の経済学では、通常、一貫して(異なった状況下でも)満足(効用といいます)するように考え行動することを指します。
たとえば、金持ちでなくなって貧乏になったのに、寄付が好きな人のことを一般的には合理的でないと表現したりしますが、経済学では合理的ということになります。なぜなら、裕福であっても貧乏であっても、状況に関わらず寄付を好むという一貫性があるからです。効率的市場仮説(注1)という言葉からもわかるように、市場が効率だというのは仮説にすぎず、現実の世界では必ず成立するというものではありません。
こちらも前提にすぎないはずのものです。なぜ、そのような前提を置いてきたかというと、そのほうが話が簡単になり、モデルをつくりやすくなるからですが、前提を当然のことだと考えるようになると問題です。
行動経済学は、それらに対するアンチテーゼとして起こりました。人は合理的ではないことを改めて主張し直したわけです。そうした認識は次第に広がっていきました。
しかし、だからといって、市場は効率的ではないことの証にはなりません。
非合理的な行動同士が相殺されて、市場は効率的であるという意見もありえます。しかし、現実には、市場参加者のほとんどが認識していても、消えてなくならないアノマリー(注2)もあります。
合理的期待形成(注3)は、狭義には完全情報下でのお話です。しかし、現実には、情報は不完全かつ非対称だと考えたほうが現実的です。伝統的な経済学では、人は利用可能な情報すべてを用いて分析するという前提で話を進めるのですが、人は必ずしも利用可能な情報すべてを用いるとは限りません。さまざまな心理的な歪みを抱えたまま、判断するのです。
注1 市場参加者は利用可能な情報すべてを迅速に取り入れており、新規情報によって他の市場参加者より有利になることはなく、市場動向はランダムウォークになるという仮説。
注2 当然に期待されるものと矛盾する事象。たとえば、株式市場では、1月効果などの季節に関するアノマリーなどが知られている。詳細はシーゲル『株式投資 第4版』を参考にしていただきたい。
注3 すべての市場参加者は真の経済モデルを完全に把握しており、知りうる情報すべてに基づいて将来予測を行うため、市場参加者たちが予測した値と実際の値は一致するという仮説。
第2節 市場は心理で動く
社会学者ロバート・マートン(注4)は、倒産の危機にあるという間違った噂によって、ラスト・ナショナル・バンクが最後には本当に破綻したという例を解説し、「自己実現する予言(self-fulfilling prophecy)」という造語を提示しました。
人々の信念や欲望は、それを取り巻く環境を形成し、その考えを現実にしてしまうほどの強い力を秘めているわけです。
フランスの経済学者アフタリオン(注5)は、「為替心理説」を唱えました。外国為替相場は、思惑・信頼感・人気・投機・予測などといった心理的要素によって変動すると考えたのです。
第一次世界大戦でドイツがフランスに負けた際、ドイツが膨大な債務を負うというニュースが流れただけで、異常なまでのマルク安が起こり、それでドイツでは物価が上がってしまったのです。
これは通常いわれる、物価上昇によって通貨安が起こるという購買力平価説とは逆の流れでした。つまり、アフタリオンは、為替相場は人々の思考が動かすのだと喝破したのです。
噂や風聞だけでも相場は動くことがあるのです。市場は自己実現する、とか、市場の自己実現性というのも基本的には同じです。
ケインズは、「美人投票のアナロジー」(注6)を唱えました。
注4 Robert King Merton 1910~2003。ちなみに、1997年ノーベル経済学賞を受賞したロバート・マートンの父。
注5 Albert Aftalion 1874~1956。フランスの経済学者。1927年に発表した「貨幣、物価、為替論(Monnaie Prix et Change)」で為替心理説を唱えた。
注6 ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes 1883~1946)の美人投票のアナロジーは、職業的投資のアナロジーとも呼ばれ、相場の本やゲーム理論の本にもよく引用される。大衆投資家の選択の行動をミスコンに喩えたものである。これは相場の予測が「他人の予測」の予測に他ならないことを示唆したものだ。もっといえば、他人が「他人の予測」をどう予測するか、ということである(もちろん、だからといって不美人が選ばれることはないだろう。相場もまったくファンダメンタルズとかけ離れることがないのと同じである)。相場を読むのではなく、相場の読み方の読みなのだ。他の投資家の行動を読むわけであり、それ自体がひとつの情報ともなる。
市場は、市場参加者の心理を考慮しないことにはわからないのです。そもそも市場で取引しているのは人間ですから、そこに人間の心理状態が反映されるのは当然です。予測する際にも、このような集団の心理や思考を読むことも必要となります。
第3節 市場参加者の心理バイアス
前節では、金融市場における心理やセンチメントについて述べました。それは当然、市場参加者の心理の総体として働くわけですが、個々の参加者のバイアスという観点でも、金融と心理は深い関係があります。
ダニエル・カーネマン(注7)らが唱えたプロスペクト理論は、経済学にとって、ある意味で革新的なものでした。以下の各問で、A・Bのいずれか好きなほうを選んでください。
問1 A=80万円をもらう。B=100万円をもらうが、15%の確率で1円ももらえない。
問2 A=80万円を支払う。B=100万円を支払うが、15%の確率で1円も払わなくてよい。
問1も問2も期待値(平均値)は右下のようになります(問1は得、問2は損という違いだけです)。
注7 Daniel Kahneman 1934年~。プリンストン大学教授。経済学と認知科学を統合した行動経済学で知られる心理学者、行動経済学者。不確実性の下での人間の判断など、心理学的研究を経済学に導入したことにより、2002年にノーベル経済学賞受賞。
多くの人の直感の答えは、統計学に従うものではありません。たいていの人は、問1ではAを選び、問2ではBを選びます。これは期待値(平均値)の問題であり、Bは問1も問2も平均85万円です。
つまり、問1=A・問2=Bという組み合わせは明らかに損するパターンです。損得を考えると、問1=B・問2=Aというのが正解ですが、そう答える人は非常に少数です。
ちなみに、心理的傾向からいえば、B・Aという組み合わせを選んだ人は「金儲け上手」といえるでしょう。A・Aを選んだ人は「慎重」派。B・Bを選んだ人は「ギャンブラー」派です。A・Bを選んだ人は、相場格言の「損切りは早く、利は伸ばせ」の逆を行いがちなタイプで、残念ながら、市場での「鴨ネギ」派(実は7割以上の人がこのタイプです)。
プロスペクト理論の結論は、人は1.確実な結果を好む、2.利益を受ける場合はリスクを避けようとし、損失を被る場合はリスクをとろうとする、3.表現方法によっては選択を変える傾向があるというものです。
教訓は、「損切りは早く、利は伸ばせ」を意識的に実行することですが、もちろん、いつも、すぐ損切ってばかりというのもいただけません。
Aは独房にいますから、何もわかりません。壁が鏡張りとかいうトンチ問題であれば話は別ですが。
BもAと同じ状況です。CはBを上から見下ろせますので1人の帽子の色は確認できますが、帽子はあと3つあるので、自分の帽子の色はわかりません。
DはBとCを見下ろせますので、2人の帽子の色が確認できます。つまり、BとCの帽子がともに黒であれば、残りの帽子は白ですから、自分の帽子は白だとわかり、BとCの帽子がともに白であれば、自分の帽子は黒だとわかります。
しかし、BとCが、白と黒、または、黒と白だったら、自分の帽子の色はわかりません。Dが自分の色がわかった場合は、全員が釈放されます(その前に、Dは「わかった」と叫ぶかもしれません)。Dが自分の色がわからない場合は、釈放されません(Dは黙ったままです)。
これがCにとって貴重な情報です。自分が釈放されない(Dが沈黙している)のは、Dが自分の帽子の色がわからないからだと気づきます。つまり、Cは自分の帽子の色がBの色と違うのだ、とわかるわけです。また、釈放された場合は、Cは自分の帽子の色はBの色と同じだった、ということがわかります。
次の問題はどうでしょうか?
あなたは、デパートにいて、服とワインを買うことにしたとします。
問3 服が1万5000円、ワインが2000円で売られている。しかし、歩いて10分の別のデパートで、同じワインが1000円で売られていることがわかった。あなたなら、別のデパートまで買いにいくか?
問4 服が2000円、ワインが1万5000円で売られている。しかし、歩いて10分の別のデパートで、同じワインが1万4000円で売られていることがわかった。別のデパートまで買いにいくか?
状況設定や金額は少し変えてありますが、これは、カーネマンらが行った実験です。先の問では、ほぼ7割の人がいくと答え、後の問では、ほぼ7割の人がいかないと答えました。
問3も問4も、「合計1万7000円の品物を1万6000円で買うために、10分間、歩くか?」という質問であり、いずれも金銭的には同じことなのです。つまり、問3と問4で答えが異なる人は、合理的ではないということになります。
問3では、2000円が1000円で半額だということに魅力を感じるわけですが、問4では、お得感はあまりありません。
私自身も、問3ならいきますが、問4ではいかないかもしれません。そう、人はマネーに関して、さほど合理的ではありません。
これには、面白い話がありました。10年ほども前のことですが、私が、あるテレビ番組で、この問題をとりあげて街頭でアンケート調査をしました。
結果は何と、「どちらでもいく」という答えが圧倒的だったのです。これをスタジオでビデオを見せられて、窮した私のコメントは、「不景気なんですねぇ」というものでした。
しかし、これこそ、人の判断や行動が感情の影響下にあることを示しているのです。
行動経済学でいう「心の会計」(私は、カンジョウのカンジョウと呼んでいます)とは、人がお金を扱うときに、「同じ金額であってもその出所や保管場所、使用目的等によって異なった扱いをする」心の傾向を指しますが、問3と問4が一致していない人は、その傾向が強いということになります。
「マネーとマーケット適性テスト」の第5問も実は、次のような問題に置き換えられます。
自己診断テスト マネーとマーケットの適性テスト
1~10は、マネーにまつわる心理や考え方の問題で、11~20は投資や市場に関係しそうな問題です。
Step1. 自分の素直な気持ちで回答してみてください。
Step2. 自分はお金や投資のプロだと考えて回答してみてください。
Step3. 本文や関係する投資の心理に関係する書物を読んで勉強して、また、自分はプロだと考えて
回答してみてください(Stepごとに、進歩のあとが見られれば、成功です)。
01. 嫌なことは忘れて、すぐに次のことに取りかかれる
02. サイコロを振ったら、1.2.3.1.2と続いた。次は3のように感じる
03. 一度損切りした銘柄で、リベンジを果たせる人はすばらしい
04. 相場の3つの柱は、予測技術、運用ルール、それにガッツだ
05. コンサート会場の入口で1万円のチケットを紛失したことに気づいたら、チケットを買い直さないかもしれないが、コンサートに行って、入り口で1万円のチケットを買おうとしたところ、直前に1万円札を落としたことに気づいたら、改めて別の1万円札を出してチケットを買う
06. クイズ番組で勝ち進み、現在10万円を持っている。サイコロを振って、3か6が出れば5万円がもらえる。それ以外だと2万円を支払わなければならない。1万円を払って降りることもできる。次のゲ−ムに進まないで降りる
07. 競馬、競輪、パチンコ、麻雀、宝くじはすべて好きだ
08. 何をするにもルール(やり方)があれば、基本的にそのルールに従うことから始める
09. 麻雀を始めるとき、自分以外の3人の中にカモが見当たらなければ、自分がカモかもしれないと思う
10. 投資には直感は欠かせない。迷ったときは特にそうだ
11. 相場にはラッキーも大切。実力以外に運も必要だ
12. 自分のポートフォリオは1~3ヵ月に一度は見直す
13. 優れた友人が、自分の立場だったらどうするかを考える
14. 相場で大儲けしたら、パッと使う
15. 買い値は大事なので、絶対にノートに書いて記録する
16. 「もうはまだなり」という格言は、ギャンブラーの誤りを述べたものだと思う
17. A:ジャンケンで勝てば10万円もらえ、またはジャンケンを降りれば3万円もらえる。B:ジャンケンで負ければ10万円を支払う必要がある。または3万円を支払えば、ジャンケンをしなくてもよい(A、Bいずれも勝敗は五分五分とします)。このとき、Aの場合はジャンケンをせずに確実に3万円をもらうほうを選び、Bの場合はジャンケンをする
18. 美人コンテストで3名の候補の人気投票を行い、一番人気に投票した人はもれなく賞金が出る。自分の好みに従って投票するのではなく、世間一般の好みを予想して投票する
19. 5000円を投入して宝くじを買ったところ、それが当たって200万円を得た。その200万円で株を買ったら半値になった。もともと5000円だと自らを慰める
20. 自分では、3年で30%のリターンが見込める株より、半年で5%のリターンが見込める株を購入するが、親戚や友人には3年で30%の株の購入を勧める
あなたは1万円のコンサートにいきましたが、入口で……。
問5 買っておいたチケットを紛失したことに気づいた。再度、チケットを買う?
A=買う。
B=買いたくない。
問6 チケットを買うべく準備していた1万円札を紛失したことに気づいた。そこで、チケットを買う?
A=買う。
B=買いたくない。
これも、問5と問6で答えが異なる人は合理的ではないということになります。失くしたのがお金であっても入場券であっても、いずれも、金銭的には同じことなのです。「カネに色はない」といいますが、実は、私たちはお金に色をつけてみているわけです。たとえば、ギャンブルでの儲けはすぐにも使ってしまいます。これも「心の会計」です。
なぜ、こういったことが起こるのかというと、人は直感的には正しい統計的な判断ができないからにほかなりません。
日常生活においても、人は明らかに誤った判断を下します。統計学を使って仕事をしているような専門家でさえ、間違えてしまうことがあるのです。
人は合理的なのではなく、実は、ものごとを丸めて考えるのです。カーネマンらは、人間によるこのような判断の単純化を総称して「簡便法(ヒューリスティックス)」と名づけました。
以上のような行動経済学の視点は、もともとは学術的な研究分野として発達してきましたが、今後は金融市場の実際の取引にも応用されていくものと考えられます。
従来の理論や仮説、アノマリーなどを見直し、相場動向の理解が深まれば、予測の精度や運用成績の向上が期待できるかもしれませんし、人工知能などへの応用も考えられます。そうなれば、投資の運用ルールやリスク管理といった取引技術が進歩するでしょう。
たとえば、市場参加者としても、次のような状況のときにどう考えればよいのかという指針となるでしょう。
A株とB株をもっていて、Aは買値よりも下がっていて、Bは買値よりも上がっている(合計では含み益)としましょう。A株が下がっていることが悔しくて、A株をナンピン買い(保有株が値下がりしたときに再度、買い足すこと)したくなるのではありませんか。
しかし、その例も、服とワインの問題と同じことで、トータルで考えたほうがよいということになります。
相場でもポートフォリオ(資産の構成)全体で考えなくてはなりません。
制度設計や規制にも、また、金融教育にも、そうした視点が必要だといえます。
人間は、ホモ=エコノミカスという合理的な存在ではなく、もっと、人間的な人間としてのホモ=サピエンスという存在であると考えて、経済にアプローチすることが必要だということでしょう。
もちろん、それは、これまでの経済学と対立するものではありません。
第4節 心理バイアスへの対策
さて、ここまでに述べた以外にも、さまざまなバイアスが知られていますが、そのような傾向を受けて、私たちはどのような対策をすればいいのでしょうか。
対策にもさまざまなものが考えられますが、ここでは、ひとつだけお話ししたいと思います。上図のなかの3人は、どの人が大きいでしょうか?
真ん中にいくほど大きく見えるのは眼の錯覚で、実は同じなのだと思った人がいるかもしれませんが、違います。真ん中の人ほど大きいのです。
では、素直に答えればよかったのでしょうか。それも違います。
正解は、実はとても簡単です。定規で計ればいいのです。金融市場でも同じことです。道具を使って計測すればいいのです。
その道具とは、金融や経済学の理論や知識ということです。そういう知識を活用して、理論的に、「できる限り合理的に考える」のです。
人の経済活動に心理学を応用した学問として、私たちにとって、行動経済学の最も大事な指摘は以下でしょうか。
人は、思考を省略しようとして丸めて考えたり、課題の与えられ方次第では、行動が変わってしまったりします。そうした人が集まっているわけですから、市場は効率的ではなく、非効率、あるいは、ノイズのある効率であると考えられます。
投資家としては、それを踏まえて行動する必要があるわけです。
自己診断テストの結果の評価
20~19 優秀
立派です! 一般消費者として、また、投資家として、
かなりのレベルにあると思われます。
少し冷たい人だと思われるかもしれませんが……。
18~16 優
いい感じ! 手堅い投資家になれそうです。
自分に足りないと思う部分の投資の心理の本を紐解いてみましょう。
15~13 良
もう少し! 慎重さと冷静さで武装しましょう。
投資の心理学といった本を紐解いてみましょう。
12~10 可
ちと自省! 部分的には心理的な問題があるようです。
まずはマネーと心理に関する入門書を紐解いてみましょう。
10 未満 不可
追試です! かなり心理的なバイアスがあります。
自分の心の問題をコントロールすべきだという認識が必要です。
※ Step2 の段階での評価です(自分はプロであると仮定して考えてみてください)。
※ Step3 の段階では、全員が17以上はほしいところです。
自己診断テスト 解説
01.×フェスティンガーの認知的不協和人間の心理的傾向を示すものですが、嫌なことや失敗したことは、そのまま忘れるのではなく、反省して覚えておいたほうがいいでしょう。
02.×次に何の目が出るかはわかりません。確率は1/6です。
03.×マーケット全体に自分のお金を投資していると考えるべきで、同じ銘柄にこだわってのリベンジは考えるべきではありません。その銘柄とは相性が悪いのかもしれません。少なくとも、その銘柄のファンダメンタルズを読めなかったから損をしたのです。それとももう読めるようになったのでしょうか?
04.×三つの柱は、予測技術と運用ルール、そして心理学(マーケットの心理)です。
05.× ○と答えた人は合理性が低いタイプです。マーケットでは、できる限り合理的に考えることが必要です。本文の心の会計のところを読んでください。
06.×次に進み、サイコロの数が「3,6」の場合は、1/3×5万円。「1,2,4,5」の場合は、2/3×2万円。次へ進むということは、(1/3×5万円)−(2/3×2万円)=3333円という式が成り立ちます。つまり、期待値では3333円もらえることになるので、1万円を払って降りるほうが損というわけです。現在の獲得賞金が10万円でも0円でも同じことです(持ち金に依存しません)。
07.×ギャンブルはほどほどに……。
08.○特に相場では運用ルールを守ることが大切です。
09.○常に冷静な状況把握をすることは必要不可欠。
10.×現実問題としては直感に頼ることもありますが、その直感とは経験に裏打ちされた瞬間の判断であるべきです。基本は理詰めで合理的に発想すべし。
11.×ラッキーや運を考えるよりも、実力を磨くことが大事です。
12.○心理的には、しょっちゅう見直すのはよくないと考えられます。一般的な個人投資家であれば、自分のポートフォリオを見直すのは1~3カ月を目安にするといいかもしれません。もちろん損切りはこの限りではありません。
13.○相場に限らずですが、人は自分のことには冷静ではいられない傾向にあります。他人の視点で、優れた人なら今の自分にどう助言するかを考えると答えが浮かぶことも多いものです。
14.×相場で大儲けしたからといってパッと使うのではなく、儲けはしばらく温存しておくべきでしょう。心の会計の観点からは、預金通帳に入れて、毎晩、通帳を眺めていれば、そのうちに浪費したり散在したりしたくないと思うようになるものです。
15.× “買い値”はむしろ忘れなければならない情報です。自分にとっての意味しかない情報です。相場も他人も、あなたの買い値には何の意味も見出してはくれません。一方、買った際に決めておく“売り値”は運用ルールの観点からは大事な情報であり、記録して実行することが大切です。
16.○ギャンブラーの誤りを戒める言葉と考えていいでしょう。反対に、アマチュア特に初心者は、「まだはもうなり」と考えがちのようです。いずれが正しいというものではなく、そう考えやすいということです。
17.×確率で考えると、Aは勝負に出て、Bは降りるべきでしょう。本文のプロスペクト理論のところを読んでください。
18.○マーケットでは、他人が「他人の予測」をどう予測するか考えることが大切です。本文のケインズの美人投票アナロジーのところを読んでください。
19.×精神衛生上は正解かもしれませんが、投資家としては誤った考え方です。
20.×自分のすることと他人への助言が違う理由がどこにあるのか……。再考してみてください。多くの場合、自分は上手、自分はラッキーと考えがちです。
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