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今年のゴールデン・ウィークはユーロ問題で一気に喧しい状況となった。

通貨戦略というピクチャービッグ:岩本沙弓
通貨戦略というピクチャービッグ:岩本沙弓

■日本人の休みを狙った危機

今年のゴールデン・ウィークはユーロ問題で一気に喧しい状況となった。メディアの多くはギリシャのデフォルトを懸念し、それがユーロ圏の最貧国といわれるポルトガルやスペイン、アイルランド、さらには、イタリアに伝播すると危機感を煽っている。

とくに、連休気分に浸っていた日本人の個人投資家にとっては、急激なクロス円の売りが発生し、その対応で大変であったはずである。上手く回避されたことを願ってやまないのだが、そもそもギリシャ問題については、ヘッジ・ファンドのシナリオとして描かれていたので、日本人が損をしている状況というのは誠に遺憾であり、口惜しいのだが、彼らにとっては予定通りの動きということになった。

順を追ってギリシャ問題を追いかけてみると、そもそもの発端というのは、昨年の10月まで遡る。ギリシャ総選挙で発足した中道左派(マイルドな社会主義推進派)のパパンドレウ新政権が、就任早々、旧政権の統計処理の不備を指摘。2009年度の財政赤字予想を旧政権が発表していたGDP比6%から12.7%へと一気に上方修正してしまったことによる。

この数字がなぜ問題となるのか。ご存じの方も多いと思うので、詳細については割愛するが、ユーロ参加国にはインフレ率や財政赤字、政府債務などの基準が決められている。財政赤字はGDPに対して3%以内、政府債務はGDP比60%以内、というのがユーロを導入する各国の目安とされている。

2009年度の旧政権の出していた数字でも6%であるので、いずれにしてもギリシャはこの基準をオーバーしていた。それでは、基準を満たしていたことはあるのだろうか、という疑問が湧いてくるのだが、答えとしては2007年以外、すべて基準値を満たしていない、ということになる。 アテネ・オリンピック特需が消えた2005年などはマイナス7%以上となっているので、財政赤字や政府債務が問題とするなら、この時期あたりに問題として噴出してもおかしくなかったのであるが、世界的に住宅バブルの絶好調の時期に入っていたため、ネガティブな話題は封印されてしまったようだ。

それでも、財政赤字の修正発表がされた2009年10月時点では、確かにニュースとしてのインパクトはあったものの、市場はそれ程問題視していたわけではなかった。ギリシャの経済規模を考えれば、ユーロ圏全域に及ぼす影響は少ないという冷静な意見が多かったように思う。市場が安心をしていたゆえに、一度「売り」で火がつくと、強烈な売り浴びせのパワーが発生したともいえる。 ギリシャ国債が暴落を始めたのは、2009年末の格付け会社のダウン・グレードの発表後である。国債の暴落はギリシャの信用不安へとつながり、さらには、ユーロ圏全体への懸念となって、一気に噴出した状況である。

■格付け機関の唐突な格下げ

今回もいつものファンドの手口というのが2つほど見受けられた。 1点目として、翌年の市場でのトピックになるようなことは、前年の秋口に出るという傾向がある。しかも、第一報が伝えられる際には、個人投資家を含め、市場参加者のほとんどにとって「寝耳に水」である。 今までも放置してきた事象であれば、今後、市場動向に影響を及ぼす、という認識は湧きにくい。これまでもギリシャの財政は悪かったしまうわけだ。

問題になるなら、とっくの昔になっているだろう、と思っているところに、格付け会社がダウン・グレードを発表する。それによって、トピックが懸念材料にされ、坂を転がり落ちるかのごとく、金融市場で売り浴びせが発生するのだ。 記憶に新しいところでは、2007年のサブプライム危機を思い出していただければと思う。私自身もまだ金融機関のディーリング・ルームに在籍していた頃であるのだが、市場関係者であった当時、われわれが初めてサブプライムなる言葉を聞いたのが、2006年秋口のことであった。

その言葉がチラホラ、ニュースなどで出てくるようになっても、私のまわりの知り合いも、米国の住宅ローン市場全体におけるサブプライム・ローンの占める割合がわずか数%ということで、とくに、懸念する声は出なかった。わざわざ危機になる訳がないと、メールを送ってきてくれた人もいたので、当時の雰囲気をよく覚えているのだ。

それを送ってくれた当の本人にまったく悪意はなかったと思うが(その人物の人となりをよく存じ上げているので)、今から思えば、結果的には大手の金融機関などの顧客向けのレポートなどに当初、「懸念なし」と表記されていたゆえに、市場が安心してしまったという側面もあったのではないかと思われる。

サブプライムを問題というなら、2005年から2006年にかけて、たとえば、知り合いのハワイのコンドミニアムの価格が倍になった、などという日本人の私からしてみれば、羨ましい限りの、非常に羽振りのいい話が聞こえていた時期でさえも、「これって完璧にバブルだよね」という声は聞こえていたわけであり、潜在的には、相場参加者が住宅バブル崩壊の予兆を常に探していたのは間違いない。その綻びがまさか数%の最貧困層の住宅ローンから発生するとは思ってもいなかった(あるいは思わされた?)、というのが正直なところであろう。そして、翌2007年の夏の格付け機関の唐突な格下げがきっかけとなり、結果は周知の通りである。

今回も2009年10月の発表の段階では、ギリシャのデフォルトなどあり得ない、国際的な影響は限定的という冷静な声も見受けられたが、サブプライム危機も格下げで問題が表面化したように、今回も各社の格下げによって状況が一変したことが、通貨ユーロの為替レートの推移で確認できよう。

■ヘッジ・ファンドによるリーク記事

ギリシャ問題が発生し、ギリシャ国債が売り込まれ、それでも当初の売り浴びせが少し落ち着いた頃であるが、2010年2月26日、ウォール・ストリート・ジャーナルに"Hedge Funds Pound Euro"(ユーロを叩き売るヘッジ・ファンド)という記事が掲載された。

内容としては、大手の米系のヘッジ・ファンドが、戦略を考える食事会があったということで、「アイディア・ディナー」と呼ばれる、2月上旬に開催したその場で、1ユーロ=1ドルのシナリオを打ち立て、以降ユーロ売りの猛攻撃を仕掛けているとのことであった。「アイディア・ディナー」の参加者の一人のコメントとして、今年一番「大きく儲けるための絶好の機会だ」というセリフまで取り上げ、ユーロ売りを促す周到さである。

記事が配信されたのは、2009年末の1ユーロ=$1.5台から、1ユーロ=$1.35台にまで低下してきた時期であり、ユーロのチャートをご覧になっていただくとおわかりのように、下落の途中の中段もみ合いのところで、つまり、下落に勢いがなくなったところで、再度「ユーロ売り」を加速するようなリーク記事が登場したということになる。ユーロ・ショート組には、実にタイミングのよい記事だったわけである。 ヘッジ・ファンドの使う2つ目の手口が、特定の為替レートのターゲットなどをニュース・ソースに流して、今回であれば売り煽りをしかけ、その間に自分たちの利食いに利用する場合が多い。

米系のファンドが介してのユーロ売りであれば、そのユーロ売りの総額はとてつもない量であり、彼らの利食いだけで相場が戻ってしまうこともありうる。中途半端な水準で買えば、下手をすると自分たちのオリジナル・コストで買い戻しをする羽目になってしまう。そんなことをするわけにはいかない。是が非でも、今年はユーロ・ショートで一儲けさせてもらわねばと必死なのである。 そこで、大手メディアに1ユーロ=1ドルがターゲットと吹聴し、市場が動揺してさらにユーロ売りが加速した段階で、もともと1.5水準で売ったユーロを低いレートで買い戻そうとしている、ということが容易に考えられる。

彼らが1ユーロ=1ドルといったことで、その前に彼らの利食いが入るゆえに、そこまでは下落しないと見るのが妥当だろう。逆に、彼らの投機の動きが終われば、必要以上に売られたユーロが元に戻る公算も大きい。

■ユーロが復活する理由

過去2回に渡り、このコラムで基軸通貨、非基軸通貨の立場、それぞれのメリット・デメリットをご紹介してきたように、非基軸通貨の立場は圧倒的にこの変動相場制では不利である。 ユーロ発足以前、欧州は各国がそれぞれの通貨を有していたわけで、その際、基軸通貨の立場を取れていたのは、かつて大帝国として名を馳せた時代の基軸通貨の名残り、ということでイギリス・ポンドだけであった。 その他の各国、ドイツ・マルクもフレンチ・フランも、イタリア・リラもすべて基軸通貨に合わせる非基軸通貨の立場なのである。つまり、英国以外は、すべて非基軸通貨の辛酸を嘗めてきたという経緯がある。

であるからこそ、もともと100年戦争などを起すぐらい、あるいは第二次世界大戦で敵対するぐらいの、とくに、ドイツとフランスが、文化的・国家的背景も違うにも係わらず、手を組んで米国一国主義、ドル市場主義に対抗しようとしたのが、ユーロであることを鑑みれば、今回のギリシャごときのことで、ユーロそのもののコンセプトを放棄するわけはない。

■ゴールデン・ウィークを総括すると

ユーロ危機に直面した日本人投資家は、かなりの痛手を被ったに違いない。いつもながら、ヘッジ・ファンドが使う手段であるが、日本人がお休み気分に浸っている年末年始、ゴールデン・ウィーク、お盆のシーズンは日本人のもっているポジションは狙われやすい。気もそぞろのところで、相場の急落を発生させ、あっという間に損切りをさせるのである。 古くはニクソン・ショックで、最近ではサブプライム危機で日本のお盆の時期が狙われたし、プラザ合意は秋分の日の連休中に発表され、2001年の年始のFRBの緊急利下げなどがある。偶然とはいえ、大きな経済現象が日本人の休暇の時期に重なることは実に多い。

2010年のゴールデン・ウィークの前後の為替レートの推移を見た場合、ギリシャ発の危機といいながら、「ユーロ/ドル」の下落幅が6.3%であるのに対し、「ユーロ/円」「ポンド/円」「豪ドル/円」などのいわゆるクロス円の下落率は軒並み10%以上にのぼった。 ユーロに懸念があるならば、「ユーロ/スイス」、あるいは「ユーロ/ポンド」といった通貨でのユーロ売りも顕著でなければおかしいのだが、実際には、「ユーロ/スイス」はわずか2.6%の下落、「ユーロ/ポンド」に至っては、ゴールデン・ウィーク前の水準を上回ってユーロが買われた状況である。

以上のことから、少なくとも4月30日から5月7日の期間に関しては、ギリシャ危機とはいいながらも、為替市場では日本人のもつクロス円を損切りされただけ、ということができる。そして、市場がゼロサム・ゲームである以上、日本人の損失は必ず誰かの懐に入るということになる。 ところで、今後のユーロの行方についてだが、少し視野を広げ、米国対欧州、あるいは米ドル対ユーロ、という切り口でギリシャ危機を翻って見てみると、米国のヘッジ・ファンド軍団がEUのボスたるゲルマン民族に罠を仕掛けた、という構図が浮かび上がる。

時代は変わったとはいえ、かつて世界最強の中央銀行といわれたブンデス・バンク(現在の欧州中央銀行)である。その彼らが、米国のヘッジ・ファンドごときにやられたままの状態で、黙っているとは到底思えない。ここからはユーロの巻き返しが起こるはずであろう。 ユーロ対ドルのせめぎ合いという点については、歴史動向も踏まえ、次回以降でご説明できればと思う。

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