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■米ドル安で受ける米国のメリット

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  • 通貨戦略というビッグ・ピクチャー:岩本沙弓
通貨戦略というビッグ・ピクチャー:岩本沙弓
通貨戦略というビッグ・ピクチャー:岩本沙弓

■米ドル安で受ける米国のメリット

先月号で米国の超長期の通貨戦略の一例をモノの面から御紹介した。 簡単に解説をしておくと、ドルの動きをこの200年弱で見た場合、戦争・恐慌・景気後退といった米国の赤字が大幅に膨らむような経済事象が発生すると、それまでの水準から3割から5割程度の急激なドル安が進んできたという歴史的事実がある。

そこで、ドル安による米国のメリットを考えると、ドルが基軸通貨である以上、つまり、モノの値段がドル表示されている限りは、ドル安によって米国製品は輸出競争力が出てくることになり、逆に米国内に入ってくる輸入品は値段を高くすることができる。 その結果、米国の輸出産業が潤う、という仕組みである。 たとえば、本年1月の一般教書演説でオバマ大統領は『輸出倍増計画』を発表した。 今後5年で2倍という具体的な数値を示したわけだが、いうなれば輸出を倍増させることで米景気のテコ入れと、失業率の改善を目指すということである。

サブプライムバブル崩壊後の金融危機の影響を今だに引きずり、巨額の財政赤字でにっちもさっちもいかない状況となれば、とりあえず米国の輸出産業に頑張ってもらうしかないというわけだ。 そして、輸出倍増を期待しているわけであるから、当然、為替もドル安を望んでいるというシナリオは簡単に描けよう。 いつの時代も米国の財政赤字が増えれば、ドル安にして輸出ドライブをかける、というのはいささかも変わらないということになる。 さらに、話を少々飛躍して考えてみると、外国為替市場でドルが半分に減価すれば、米国の輸出も数字のうえでは倍増することになる。

つまり、あくまでもオバマ大統領の発言を元に米国の現在の通貨戦略は何かと考えれば、端的に2015年に向けては、少なくともドル高よりはドル安を目指しているということもいえるわけである。 以上がモノの面から見た、米国のドル安によるメリットであるが、それ以上のメリットがマネーの面にはある、というのが今月の本題である。 前回申し上げたように、外国為替市場で米ドル安が進めば、米国にとっては米ドルで借りている借金も目減りする効果が生まれてくる。 そのカラクリをもう少し詳しく説明してみよう。

■米国人の友人にお金を貸す場合

日本が自動車を輸出する場合、あるいは米国が牛肉やオレンジを輸出する場合など、モノが伴うと為替変動によるイメージは描きやすいが、借金をする場合のイメージはどうも湧きにくいようである。具体的に、あなたには米国人の友人がいるとしよう。その彼から「百万円貸してくれ」といわれた場合を想像してほしい。自分の懐に余裕があれば、困っている友人のために一肌脱ごうというのが心情ではなかろうか。 貴方は友人のために、百万円をどうぞ使ってくださいと気前よく差し出したのに対して、借金を願いでた本人が、「実は自分が使いたいのはドルなので、百万円ではなくてドルに替えてから貸して欲しい」といいだしたら? そんな理不尽なことを実際にいわれているのが現在の日米関係である。そして、わがままな友人のいう通り、ドルで気前よく貸しているのが、われわれ日本人であり、お隣の中国なのである。

海外から米国が円で借金をする場合とドルで借金をする場合、どう違うのか。先程の米国人の友人の例で、1ドル= 200円の場合に1万ドルの借金を頼まれたとしよう。まず円で借りた場合だが、借り手の友人が200万円をまず私から受け取って、自分で外国為替市場にて、ドルを円に替えて1万ドルにする。仮に、返済時に為替がドル安円高の1ドル= 100円になっていたとしよう。元本の200万円をそろえて私に返さなければならないので、米国の友人は2万ドルを用意する必要がある。

2万ドルマイナス1万ドル=▲1万ドルの為替差損は変動リスクとして、あくまでも借金をする米国人の友人がもつ。 ところが、現在の日米関係では逆の状況である。その証拠に、「外貨準備等の状況」として財務省のHPに毎月発表されるデータを見てみると、日本国としての外貨準備のほとんどが海外の発行体の証券と外貨預金で占められている。

つまり、海外への借金は円ではなく外貨建てが主流であり、外貨準備がこれまでの外国為替市場での介入による円売り・外貨買いの積み上げの結果とするならば、1991年以降のデータのみではあるが、介入額では米ドルが圧倒的に多いわけで、日本国として保有する外貨の内訳も、ほぼ米ドルと考えるのが妥当であろう。

現在の日米関係と同様のパターンとなる、米国人の友人から1万ドルでの借金を頼まれた場合だが、日本人の私がまず為替市場で1万ドル相当の手持ちの円を交換する。 1ドル= 200円であれば、私が200万円を用意して1万ドルに替えて、友人に貸すこととなる。返済時に1ドル= 100円となっても、友人は借りた1万ドルだけを返してくる。 私が再度、為替市場で1万ドルを円に交換すると、貸してあげた200万円が100万円に減って私に戻ってくる。 米ドルでお金を貸して、しかも、円高のときに戻ってくれば、私は貸し損となる。

1971年のニクソン・ショック経て変動相場制に移行してからというもの、1ドル= 360円が90円まで下がってきたわけであるから、この40年間ひたすら買い続けたわれわれの外貨建て資産は目減りするだけである。 外貨を日本の一存でドルから円に換えるなどはできないため、円高に相場が推移しても手持ちのドル資産が減価していくのを、ただ指をくわえて眺めているだけという状況に今も変わりはない

■借金踏み倒しの仕組み

ところで、外国為替がドル安になろうが、ドル高になろうが、確かに損失はわれわれ日本人が被るとしても、米国にしてみれば、1万ドルの借金をしているだけだから、得も損もしているわけではない、と思われるかもしれない。ここで少し見方を変えていただこう。 私が手持ちの円を売ってドルを手に入れるためには、為替市場でドル売ってくれる誰かが必要となる。あえて極端なパターンと認識したうえでの話にはなるが、米国人の友人が借金の相手であると同時に、為替取引の相手だったとして考えて欲しい。

私は1万ドルを200円で買い、100円で売った結果、100万円の損失となる。ところが、友人は私に200円でドルを売り、100円で買い戻しができるわけだから、100万円の為替差益となる。するとどうであろう、友人にしてみれば、そもそもの借金の金額1万ドルと為替差益の100万円とで、1ドル= 100円ならば自分の借金は実質チャラになる。彼が得したぶん、私に為替差損が転がってくる。

実際の為替市場では、借金の相手=為替取引の相手になるとこはないとしても、現状の米ドル基軸通貨の下での為替システムにおいては、米ドルで米国が借金をすれば、このように非常に簡単に所得移転を日本から米国へと行うことができるということなのである。 一国の通貨で他国の通貨の価値を計っている以上、外国為替市場でドルの価値が下がれば、ドルの借金の価値も相対する外貨で目減りする効果が出てくる。ドルの価値が下がれば借金も減る、これが米ドルで借金をする米国側にとってのドル安による借金棒引きの仕組みである。

■ドル高はゆっくりと、ドル安は急激に

外国為替ではドル売りのスピード、つまり、円安に進むスピードよりも円高になるスピードが格段に速いということは、ディーラーの間では経験則からよくいわれることだ。とくに、240円台から2年余りで120円台まで、超円高が進んだプラザ合意を経験した古参ディーラーであれば、円高が体に染みついているわけであるし、この40年、円高トレンドであったので、年配者はとくに「常に円高派」という方が多いはず。

円の辿ってきた歴史的な背景を考えれば、円高では劇的に相場が変化するので、「あの人は当てた!」とすぐわかってもらいやすいという側面もあり、「為替の予想屋なら円高といい続けたほうが得」、なのである。 投資家への心理的効果の部分はさておき、なぜ円安(ドル高)のスピードは遅く、円高(ドル安)のスピードが断然速くなるのか。 これは、借金体質の米国としては、ドル高(円安)を数年かけてゆっくり進ませたほうが、海外から資金を集めやすいためである。

急激な変動では、投資暦の浅い投資家などは手も足も出ないが、たとえば、米国の金利を日本の金利よりも高めに設定して、ゆっくりドル高に導けば、為替差益と金利の2つの収益を初心者の投資家でも享受しやすい。 金利と為替差益が手に入れられるような相場が数年続くと、急激な円高のリスクは忘れられ、投資家はドルを買ってさえおけば儲かるという感覚に陥る。 1998年のLTCM危機の直前には、日本人の外貨預金が活発になっていたし、2007年のサブプライム危機発生以前は、空前のFXブームであった。 重要なのは、ドル高でゆっくりと米国に資金を集め(ドル高で借金をし)、そこから一気にドル安にすることである。 日本の個人投資家が外貨資産を円に戻す際、悠長に交換している間もなく、あっという間に値下がりをすれば、その損失は個人投資家が被ることになる。当然、損失と同じ金額の収益は誰かの懐に転がり込む。

■現在の米国の戦略とは?

米国は赤字を増やすだけ増やし、その過程で、ときにドル高キャンペーンを張って自国に資金を集めてきた後に、急激なドル安が発生するような経済事象が起きて、ドルが急激に減価させるというパターンがこれまでずっと続いている。 そのプロセスにおいて、米国は多分に為替レートの変化を巧みに自国の国益のために利用してきた側面がうかがえ、景気が悪くなった段階では、モノの面では米企業に輸出ドライブをかける、借金を目減りさせる、という効果が見込めるドル安を目指すのである。 それでは、現在の状況はどうであろうか。先に述べたように、オバマ大統領は今年に入ってすぐ、輸出ドライブをかけ、景気浮揚策をとることを明言した。 そして、輸出にも都合のよいドル安政策をとれば、日本や中国の借金の棒引きにも役立つというわけである。

ちなみに、過去の経緯から申し上げると、通常4月は新年度入りということで、本邦の機関投資家や郵貯などからは新規の外債投資が出やすい時期である。 新規投資に伴う、円売り外貨買いの需要は大きいために、事実、4月に入ってからこれまでの円買いが一服し、「ドル/円」、クロス円とも底堅い展開となっている。

一方、今年は米国の中間選挙の年である。西暦偶数年の11月に行われるこの中間選挙の年の為替に関しては、プラザ合意以降、2006年を除いて、11月の選挙に向けて外国為替市場のドル・円相場では、ドル安に進むという傾向がある(図1参照)。 過去の「ドル/円」の為替レートと中間選挙の時期を取り上げてみたのが、こちらのチャートになるが、1986年(レーガン)、1990年(ブッシュ)、1994年(クリントン)、 1988年(クリントン)、そして、2002年(ブッシュ)と、いずれも11月に向けトレンドがドル安であることが確認していただけよう。

図1

余談ではあるが、民主党・共和党によって為替政策が違うのではないかというような指摘をときに耳にすることがあるが、ドルのこれまでの動きを見る限り、政権政党による違いよりも、中間選挙との相関関係のほうがよっぽど強いということがいえる。 ところで、2006年(★印の箇所)は例外的にドル安になっていない時期である。 つい最近のことなのでご記憶にあるだろうが、この時期は米国の住宅バブルがまさに最高潮を迎えるべく、最後に米景気が駆け上っていったときである。 住宅バブルによって、米国の国内景気が空前の繁栄を謳歌していたのならば、わざわざ国内の輸出産業に気を遣って、ドル安によって業績アップ、雇用増、景気の底上げをして票を稼ぐ必要もあえてなかったわけである。

ということは、明らかに景気が良いときを除いて、歴代大統領は中間選挙に向け、為替をドル安にして輸入品を締めつける、という手段を採用してきたわけである。 それによって、目に見えるかたちで雇用増を測り、国内産業を潤すことで、選挙に向けての支持を取りつけてきた戦略は毎度のこと、ということでもある。 以上のことから、目先は新規投資で本邦からの円売りが先行しやすい地合いであるものの、夏から秋口以降にかけては、中間選挙対策として再びドル安が進む公算が大きいということが、過去の経緯からいえよう。

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