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商品相場の高騰は数年来続いており、今年に入ってからも連日伝わっていたが、ここにきてやや変調をきたしている。昨年終盤以降、さまざまな商品価格のなかでももっとも動いていたのは銀価格である。

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気鋭の経済アナリストが解きほぐす為替変動の深層(真相) 第15回:岩本沙弓
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■商品急落で円買い

商品相場の高騰は数年来続いており、今年に入ってからも連日伝わっていたが、ここにきてやや変調をきたしている。昨年終盤以降、さまざまな商品価格のなかでももっとも動いていたのは銀価格である。私自身が見ていた範囲ではあるが、5月になって最初の値崩れをし始めた商品も(4月末に金価格が1560ドル台まで急騰した際に、銀はすでに下落を始めていた)、今年に入ってもっとも反落した相場も銀である。
4月にS&P社が米国債のAAA格付けのアウトルックを、安定からネガティブへと変更したのが象徴するように、米国の財政赤字はここにきて一段と問題視されている。財政規律を維持するよう圧力がかかれば、これまでのように無尽蔵にドルを刷りまくり、市場に垂れ流すわけにもいかない。
そういった懸念が市場参加者の間で取り沙汰され始めると、これまでは低金利のドルを調達し、ドル・キャリーによって高金利通貨や商品を買って運用してきた資金も、いったんアンワイド(手仕舞い)をせざるを得ない状況になってくる。
結果、今まで上昇してきた市場では利入れが始まり、あるときを期にいっせいに急落という場面を迎えることになる。毎度のことではあるが、市場で何やら怪しい動きが出てくると、日本円はがぜん人気が出てくる。
ユーロが4月後半の1.48台から5月中旬には1.41台まで下落し、ドル高となっていたなかでも、「ドル/円」だけは介入後の高値85円からずるずると円高に推移し、80円~81円を推移している。震災の影響をもろともせず、やはり、困ったときは取りあえず円を買え、とばかりに、逃避資金が集まっている様子がうかがえる。

■銀価格の動向

銀価格についてだが、2008年10月には、1トロイオンス=8.45ドルだったものが、2年後の2010年10月には3倍の24ドルまで上昇していた。ここ数年は金にばかり注目が集まっていたが、同期間の金の上昇率は2倍であったため、リターンとしては、実は銀のほうが圧倒的によかったことになる。
今年の銀価格のスタートは30.7ドル、そこから31年ぶりに高値である1トロイオンス=49.45ドルを更新し、4月25日には史上最高値の49.79ドルをつけたので、年初来の上昇率はなんと62%であった。しかし、その直後から反落が始まっており、わずか10日あまりで一時30ドル台まで低下したのであるから、アッという間に高値から3分の2の水準まで値下がりした状況である。
余談ではあるが、昨年のゴールデン・ウィークはユーロ危機が騒がれ、ユーロが急落。今年はシルバーの急落ということで、例年通りではあるが、日本の長期休暇には相場はいつもひと波乱巻き起こる。日本人投資家の方で銀に手を出していた方は限られていたのではないかと思われるが、それでも休みの間だったために、損切りしようにもしきれなかったという声も聴く。
せっかくなので、銀価格の歴史的推移を少々見ておこう。これまでの史上最高値であった1トロイオンス=49.45ドルは1980年1月につけた数字で、このときは、投機相場の代表格として語り継がれる「ハント兄弟による銀買占め」によって生じた高値である。

図1

当時、テキサスの石油王であったハント兄弟がなぜ銀の買占めに走ったのか?
1970年代は、OPECによる原油生産の調整によってオイルショックがもたらされた時代である。1980年になってからのFFレート20%、日本の長期金利14%が示すように、いわば世界的なハイパーインフレに突入していったのが70年代であったといえよう。
原油に代表されるモノの値段が上がるということは、その値段を表示している米ドルの通貨価値は減価するということである(たとえば、同じ量の原油を少ないドルで変えればドルの価値は高いということになる。それに対して、ドルの価値が下がれば、これまで以上に多くのドルを支払わなければ原油を買えなくなる)。
ハント兄弟は減価していく自身の米ドル資産をなんとか食い止めたいという一念から、インフレの状況下でも価値が目減りしない商品へと目が向いた。当時の米国では、金の個人保有が禁止されていたこともあり、ターゲットは銀になったというわけだ。
銀価格は、1978年頃までは、1トロイオンス=4から6ドルのレンジ相場を推移していたが、ハント兄弟の画策が功を奏し、突如として1979年に動きだす。1979年1月の5.93ドルから、わずか1年後の80年1月に49.45ドルを見るので、この間、8倍以上の急騰を見せた(その際の金の最高値は850ドル)。
それでもハント兄弟だけでは、この一大投機相場を生み出すことは容易ではない。実は、ハント兄弟は同じように、ドル減価に頭を悩ますアラブのオイル・マネーに目をつけたのである。原油取引で手に入れたオイル・ダラーをもて余していたアラブの富豪たちと示し合わせ、英領のバミューダに投資会社を設立。わずかな証拠金で取引ができる先物取引で、銀の買占めに動きだした。ちょうどソ連によるアフガニスタン侵攻もあり(1979年12月)、商品価格は地政学リスクも手伝って高騰することになった。
一時は世界の供給量の半分にも達する2億オンスの銀を買い占めていたともいわれるハント兄弟だが、その終焉は突然やってくる。まずは、COMEXやCBOT(シカゴ商品取引所)は規制の強化を実施。証拠金を引き上げ、取引金額の上限を設定したために、取引コストが上昇。
それに対し、ハント兄弟は取引所を控訴するなど、泥沼化の様相を呈していた。銀暴落の直接の引き金となったのは、あまりの銀価格の高騰のために、退蔵されていた銀食器や銀貨が欧州の家庭から出てきて鋳つぶされ、大量に市場に出回ってきた銀の売りもののためであった。
最後の最後まで、ハント兄弟は買占めに走ったが、結局は、この売りものに押され、1980年5月には1オンス=10ドルまで、つまり、ハント兄弟が買占めを始めた時点まで銀価格は低下することになった。それにより、追加証拠金の支払いで借金がかさみ、結局は、自身の買占めポジションのコントロールができず、石油王の人生は破産で終わったのであった。
個人の投機として面白く伝わる話ではあるが、その原点にあったのが、米ドルの減価という点は非常に興味深いのではなかろうか。当時のハント兄弟、アラブのオイル・ダラー、そして、現代の投資家に共通しているのは、ありあまる、しかも、減価していく米ドルをどうするかということだ。必死に考えたうえの商品投資という構図は、どうやら今も40年前も変わっていないようだ。

■一足早く商品相場から逃げていたソロス

米国では、機関投資家の保有する株式の明細を、四半期ごとに米証券取引委員会(SEC)に提出することになっている。通称、「13Fファイリング」と呼ばれるものだが、その詳細は、企業情報サイトの「エドガー・ファイル」において無料で確認できる。(http://www.sec.gov/edgar.shtml )。
銀行・保険会社・投資信託・投資顧問・年金基金など、一任運用資産が1億ドル以上の機関投資家が該当期間、どのような投資活動に出ていたのか、この「13Fファイリング」に基づいて調べることができるわけで、発表が四半期に1度、しかも、四半期の最終日から45日以内に報告ということで、情報の鮮度としては多少劣るが、それでも、有力ヘッジファンドの動向を探るうえで注目されているデータである。
その最新版が5月17日に発表となったのだが、とくに、話題となっているのが、ソロス氏率いるファンドの金のもち高である。
ソロス氏はここ数年、"the UltimateBubble" (究極のバブル)といってはばからない程、金に対しては強気であった。ところが、今回の運用明細をみてみると、昨年の12月時点で、6億5500.9万ドル保有していたSPDR Gold Trust (金現物取引価格に連動する投資信託)のもち高を、今年の第一四半期で一気に690.9万ドルへと縮小しているのである。
金価格は2011年3月末時点まで、10四半期連続で上昇し、史上最高値を更新してきた背景には、中東での混乱、米国のQE2、そして、ユーロ圏の財政懸念、そして、先に述べた銀市場の高騰があった。とくに、4月の上昇は弾みがつき、5月2日に史上最高値である1オンス1575ドルを達成。しかしながら、直後から価格は下落し、2008年末から続いた上昇トレンドのなかでも、最大の急落を見せている。そして、結果的にではあるが、ソロスは銀相場によって、連れ高となっていた金を見事高値圏で売り逃げしたということになる。

図2

■米国ドルの崩壊、いよいよカウントダウンが始まったのか

日本のメディアでは、これまでほとんど触れられることはなかったが、そして、現段階でもテレビ等で報道されることはないが、今年に入ってから、世界中から懸念されていたのは、米国が債務上限である14兆3000億ドルに早晩達するのではないかということである。
上限に達した場合に何が起こるか。まずは、米国の政府機関、いわゆる連邦政府機関が閉鎖され、社会保障の支払など公共サービスが滞るであろうし、最悪の場合は、米国債のデフォルト(債務不履行)の恐れが生じるのだ。
基本的に、格付け会社の格付けに信用は足るのかという問題はあるが、そのリスクを鑑み、4月にS&P社は、米国債のAAA格付けのアウトルックを安定からネガティブへと変更してきたともいえるだろう。
そして、ソロスの金売却の話題とともに伝わってきたのが、米国がこの債務上限についに達してしまったというニュースである。これまでも、クリントン政権時代のことになるが、債務上限に達したことはあるので、とくに、問題はないのではないか、と思われるかもしれない。
しかし、以前と今回で違うのは、米国議会の状況である。議会の承認が得られれば、債務上限を引き上げることができ、引き続き米国債を発行して資金を調達することは可能である。しかし、現状では、この議会での上限引き上げ承認を得るのが極めて難しく、やむなく公務員の年金資金を一時流用して、取りあえず、8月までは債務不履行を凌ぐとガイトナー財務長官が発表。
米国政府の保有する資産売却まで話が及ぶと、そのなかに金が含まれるのでは? という話も登場。実際に売却に動き出すかどうかはさておき、この辺のリスクを見込んでのソロスの行動かと思う次第である。
8月までは何とか資金を工面して、米政府が新年度入りする9月以降にもつれ込むつもりであろうが、所詮は延命措置に過ぎない。年度が代わり、米国のデフォルトのカウント・ダウン開始なら再度ドル全面安も致し方あるまい。商品市況も目先いったん値崩れしているが、すぐに上昇に転じるものと考える。

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