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今年春に起きた東日本大地震は、東北地方を中心に壊滅的な被害を与えたのみならず、自粛ムードや、原発事故による風評被害により、日本経済を未曾有の危機に陥れた。このような大震災の影響は、日本経済にとって明らかにマイナスと思われるが、3月17日未明に79円台で推移していた「ドル/円」が、同日午前6時過ぎには、一気に史上最高値である76円25銭になり、わずか20分で3円も円高が進んだ。

ミセス・ワタナベの悲劇:為替鬼
ミセス・ワタナベの悲劇:為替鬼

■震災後になぜ円高になったのか

今年春に起きた東日本大地震は、東北地方を中心に壊滅的な被害を与えたのみならず、自粛ムードや、原発事故による風評被害により、日本経済を未曾有の危機に陥れた。
このような大震災の影響は、日本経済にとって明らかにマイナスと思われるが、3月17日未明に79円台で推移していた「ドル/円」が、同日午前6時過ぎには、一気に史上最高値である76円25銭になり、わずか20分で3円も円高が進んだ。
通常とは明らかに違う値動きの荒さについて、海外の投機筋による、日本の個人投資家を狙い撃ちした仕掛け的な売買ではないか、との声が多数聞かれた。
日本の個人投資家のなかには、FX業者の口座にログインしてみたら、昨夜まであった円売りポジションが強制決済されて、すべてなくなっており、ビックリしたという方も多かったようだ。彼らの大半は、資産の大半を一夜にして失い、FXから退場したものも多いと聞く。
大震災によって、日本の経済状況が危機に陥ると予想されるなか、為替の世界では日本円が買われ、超円高となった理由は何なのだろうか。また、このような現象は、これからもたびたび起こるのだろうか。もしそうだとすれば、日本の個人投資家は、いったいどのように対処したら良いのだろうか。

■超円高にしたい勢力がいる

数年以上FXを経験されている読者なら気がついていることと思うが、2007年以降のここ数年は、1年に最低1回は猛烈な円高が進む時期が訪れる。
今回の怒涛の円高の前にも、ギリシャ・ショックがあり、その前にはリーマン・ショックがあった。このような「ドル/円」・クロス円の大暴落があるたびに、円売りポジションを大量に保有している個人投資家が大損し、為替市場からの退場を余儀なくされるという状況が、毎年繰り返されている。
短期間に猛烈な円高にしたいと願う勢力とは、海外のヘッジ・ファンドをはじめとする、いわゆる「投機筋」と呼ばれる勢力である。彼らは日本の機関投資家や個人投資家が動きにくい日本時間深夜~早朝にかけて、場合によっては金融機関が休みの祝祭日に、大量に円を買うことで、円高方向に仕掛けてくることが多い印象だ。
昨年のギリシャ・ショックの際の猛烈な円高も、日本はゴールデンウィークの真っ最中で、日本の投資家の大半が手も足も出なかったことを記憶されている読者も多いだろう。

■ミセス・ワタナベとは誰か

ところで「ミセス・ワタナベ」という名前を聞いたことがあるだろうか。もちろん、渡辺さんの奥さんという意味で使われているわけではない。ミセス・ワタナベとは、高度な専門知識やトレード技術をもたずに、比較的少額の資金で為替取引をしている日本の個人投資家のことだ。もしかしたら、本誌の読者の多くが、ミセス・ワタナベかもしれない。
欧米では、なぜ日本のFX個人投資家がミセス・ワタナベと呼ばれているかというと、素人でも小額から気軽に始められるFXが、日本では絶大な人気を誇っているのがその遠因だ。
彼(女)らが大挙して為替市場に参加するようになったこの数年、為替相場がそれまでとは違った不可解な値動きをするようになったといわれている。
海外の機関投資家やプロのディーラーたちは、素人同然のミセス・ワタナベの投資行動が、為替相場を動かすほどの影響力をもっている現状に驚くとともに、嘲笑と蔑視の意味を込めて、日本の個人投資家をミセス・ワタナベと呼ぶようになった。

■投機筋vsミセス・ワタナベ

初めのうちは、ミセス・ワタナベの不可解な投資行動に、海外のプロも苦戦させられたようだ。しかし、ミセス・ワタナベの投資パターンは、いわゆる「逆張り」が中心である。
原則的には、「ドル/円」かクロス円のみをトレードし、円高になった際には、円安方向に反転することを期待して、「ドル/円」やクロス円を買い続ける。彼(女)らとプロとの大きな違いは、専門知識やトレーディング経験はもちろんだが、杜撰な資金管理と投資スタイルにポイントがある。
彼(女)らは驚くほど高いレバレッジでトレードしており、その危険性の認識が薄いので、知らず知らずのうちにポジションを積み増していく。また、スキャルピングやデイトレードなどの短期売買よりは、円売りポジションを長期間もち越すスタイルが中心である。
いったん、円売ポジションを保有したら、利益が出るまで数日でも数週間でも耐えて、長期間塩漬けにしてでも、利益が出るまで待つのである。平日は24時間間断なく開かれている為替市場で、レバレッジを大きく利かせてポジションを取り、そのポジションを放置したまま眠るという投資スタイルは、間違いなくリスクの高い取引手法である。
オーバーナイトでポジションを大量に保有したまま夜寝てしまうと、最悪の場合、一夜にしてすべての資金を失うことすらあり得るのだから。

■超円高の狙いはミセス・ワタナベ狩り

FX業者の取引プラットフォームには、損失が一定以上に広がることを防ぐために、自動的に保有ポジションの損切りを行う「強制決済」機能がある。この機能は、FX投資家が破産しないためのひとつの措置であり、そのおかげで救われた投資家がたくさんいることも事実である。
素人同然のFX個人投資家が大半であることを考慮すると、投資家保護の観点からも、その存在意義は十分あると判断できる。しかし、その一方で、寝ている間に一方向に大きく進んだ場合、気がつかないうちに自動的に、保有ポジションの損切りを強制されるのであるから、資金管理の甘い投資家は、強制ロスカットの恰好の標的となってしまう。
この「強制ロスカット機能」が、収益機会の増大につながることに目をつけた海外の投機筋は、日本の機関投資家や個人投資家が動きにくい時間帯を狙って、大量の円買いドル売りを仕掛け、強制ロスカットを大量に発生させるというのが、今までたびたび繰り返されてきた急激な円高の要因である。
これこそ「ミセス・ワタナベ狩り」と呼ばれる投資スキームで、ミセス・ワタナベの保有している円売りポジションが強制決済された後は、驚くほど素早く円安方向に相場が反転し、結果として、ミセス・ワタナベだけが相場で大損して、悔しい思いをすることになる。

■カモられ続けるミセス・ワタナベ

為替取引は株式投資と違い、「ゼロ・サム」の厳しい世界であり、誰かが損をすれば、その失ったお金が勝者の懐に収まる仕組みだ。つまり、誰かの損は、誰かの得になるわけである。逆にいうと、誰かに損をさせなければ、儲けることができない、冷酷非情な世界ということもできる。
加えて、為替取引では何十倍もレバレッジをかけてトレードすることが多く、驚くほどの金額を一瞬にして失ったり、逆に一攫千金の可能性もある。投資のプロ中のプロと評される為替トレーダーたちが、わずかな利幅を抜くためにしのぎを削る為替取引であるが、プロのトレーダーが存在できる一番の理由は、継続的安定的に損をしてくれる人間がいるからである。
その人間こそがミセス・ワタナベであり、彼(女)の投資パターンの手の内は、プロに完全に見破られており、専門知識もなければ、トレーディング経験は素人も同然だ。加えて彼(女)は、杜撰な資金管理のもとに、オーバーナイトでポジションをもつ。プロのトレーダーにとって、ミセス・ワタナベは絶好のカモなのである。

■ミセス・ワタナベの悲劇

長年、為替取引をしていて常々感じることだが、日々の為替の値動きを正確に予想することは不可能である。しかし、値動きのクセといえるような大きな傾向は、毎日トレードをしていると、自然と感じられるようになる。
たとえば、1年の大半の期間は大きなレンジ相場を形成して動き、同じようなレベルをいったりきたり、繰り返していることが多い。しかし、半年に1回程度のペースで、強いトレンドが発生することがあり、それが円高方向への強いトレンドである場合は、強制ロスカットを巻き込んで、日本のFX個人投資家が大きく負ける結果となる。
つまりミセス・ワタナベは、大きなレンジで動く通常の時期に、少しばかりの利益を積み上げて調子に乗り、だんだんと投資資金量を増やすことになる。しかし、強いトレンドが生じて、急激に円高方向に相場が激動する時期に、それまでの利益のすべてを失うだけでなく、資産のほとんどを失うことになる。コツコツ儲けて、ドカンと負ける典型的な投資スタイルなのである。
結果として、ミセス・ワタナベは定期的に資産の大半を失うが、たとえ資産を失った個人投資家が為替市場から退場しても、素人当然の新たなミセス・ワタナベがFX市場に新規参入してくる。これにより、同じような構図が何度も繰り返され、ミセス・ワタナベは、為替相場でカモられ続けることになってしまう。

■ミセス・ワタナベの反撃はあるか

今後のミセス・ワタナベはどうなるだろうか? 大震災後の急激な円高により日本の個人投資家のポジションが強制決済されて、多くのミセス・ワタナベが為替市場から退場させられた後、欧米を中心とした協調介入をきっかけに、今度は急激に円安が進んだ。
現在の市況を概観すると、「今後も円安傾向が進み、『ドル/円』は100円を目指す」という見方が、どちらかというと主流となっている。確かに、ここ数カ月の円安方向への動きで、ミセス・ワタナベの反撃が一部で起きているといえるかもしれない。
しかし、私の個人的な考えでは、本格的な円安時代は当分の間訪れないと思う。「ドル/円」が100円を目指すような円安が進行するためには、欧米と日本との金利差が強く意識されるほどに広がる必要がある。
仮に、米国の格付け機関が、日本国債の格下げを発表する事態になれば、それをきっかけに、本格的な円安の進展が見られるかもしれないが、そのような展開が見られるまでは、再び海外の投機筋がミセス・ワタナベのスキを狙ってくることは、十分にあり得る話である。
日本のFX個人投資家は、海外の投機筋が強制ロスカットを狙って仕掛けてくることを常に頭に入れて、今後のポジションづくりを心がけるべきだと考える。

■いざというときに必要なもの

FXに限らず、あらゆる投資は、最終的に素人が負けて多くの資金を失い、その失ったお金をプロが山わけしているのが現実である。プロと比べて、はるかに劣った情報を頼りに、相場の予想をして投資しても、勝ち続けられるはずがないと考えるのがふつうである。
相場でいざというときに頼りとなるのは、情報でもなければ、予想でもない。トレードで勝ち続けるために必要なものは、極端な円高が訪れても相場を乗り切るトレードの腕であり、レバレッジを含めた徹底した資産管理だ。
言葉は悪いが、素人が大損するような相場ほど、大きく儲けることができるのが為替相場であり、私自身は、東日本大震災後の相場の激動時に、過去最大級の利益を出すことができた。
つまり、たとえどんな相場状況になっても、大損する投資家がいる以上、大きく儲ける投資家が必ず存在している。したがって、われわれが取り組むべきことは、単なる情報収集や相場の予想ではなく、大荒れの相場でも負けないトレード技術を身につけることである。その勝ち組に入るためのエッジ(統計的な優位性)を獲得するための努力こそ、FX投資で最も重要なことだと、日々のトレードで感じている。

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