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スイス・フランとユーロのペッグ制について最初のニュースが飛び込んできたのは、8月12日のロンドン・タイムであった。内容としては、スイス中央銀行副理事Jordan氏が為替レートについて「一時的な対策もありうる」としてユーロとのペッグ制を示唆。

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スイスと円は同じか?

スイス・フランとユーロのペッグ制について最初のニュースが飛び込んできたのは、8月12日のロンドン・タイムであった。内容としては、スイス中央銀行副理事Jordan氏が為替レートについて「一時的な対策もありうる」としてユーロとのペッグ制を示唆。
この時点で具体的な内容までは踏み込んではいなかったものの、最高値を更新中だったスイスはこれを機に値を戻す展開となった。
また、同日、シカゴ先物市場(CME)は通貨取引の際のスイス・フランの証拠金について、43%の引き上げを発表した。同じ日に時間としてはわずか3~4時間のタイム・ラグだったと記憶するが、間髪入れないこうしたタイミングでの公示は、完全に投機筋の動きをけん制することを目的としていると受け止められる。
説明するまでもないだろうが、商業ベースで(実需を伴って)必要に迫られてスイスの取引をしているならまだしも、投機的にCMEを利用しているプレーヤーにとっては、証拠金引上げは単なる負担増以外の何ものでもないため、ポジションを縮小させるような動きに繋がる。
8月12日の時点では、それに先立って、8月2日の期限ギリギリというところで米国のデフォルト問題が何とかクリアされたものの、一難去ってまた一難。今度は米国の格下げ問題が噴出していた時期である。
また、ユーロのほうもスペイン、イタリアへと飛び火し、EFSF(欧州金融ファシリティ)が資金不足をおこすのではないのか? という疑心暗鬼のもと、イタリア国債が7月末の時点でリーマン・ショック後以上の急落を見せていた。ギリシャを助けている場合ではないかもしれない、という泥沼の状況へと進んでいたタイミングでもある。
さらには、イタリアに対する融資額が抜きん出ており、ユーロ加盟国のなかでも多くの債務を抱えるフランスにも延焼。8月に入ってフランス株式市場は下落し、CDS市場でもフランス国債が過去最高の170BP台にまで至った(この数字は保障料率となるわけだが、高ければ高いほど債務不履行のリスクが高いと考える)。 こうなると、格付け会社から目をつけられるのは時間の問題であり、サルコジ大統領は夏休みを途中返上して火消しに躍起になっていた。
となれば、投機筋はますますスイス・フラン買いに傾くわけで、買い持ちのポジションがまさにピークに達したときにユーロとのペッグ、CMEの証拠金の引き上げが発表された状態であった。従って、取り敢えずスイス・フランを売って、市場からはいったん撤収という動きになるのは当然であろう。結局、8月上旬がスイスの最高値となり、以降スイス売りが継続中である。
それまでは円とスイス・フランは双子のように「避難通貨」として選好されてきたわけだが、これで数年間続いてきた2つの通貨のシンクロがいったん切れたかたちとなった。こうした相場の「潮目」の変わる瞬間は、なかなかライブで気がつきにくいものなのではあるが、つまり数日、あるいは数週間経過した段階であらためて、あのときの相場の動きには、長期的にはこうした意味があったのかと思うものなのだが、今回に関しては、非常に抽象的なできごとが多かったので、わかりやすい。
これまでスイスと円を一緒に語るというのが相場のテーマのひとつであったわけだが、今後はそれぞれ別の材料で動くことが多くなるだろう。

実質実効為替レートを見よ

実際に、スイス・フランとユーロのペッグ制が1ユーロ=1.2スイス・フランと発表されたのは9月6日になってからとなるが、SNB(スイス中央銀行)の声明では、

テキスト

として、とくに、スイス国内のデフレ圧力を解消することを訴えていた。「ユーロ/スイス」のレートが1.2以下になれば、ひたすらユーロ買い、スイス・フラン売りを実施するというのが今回の措置になるが、無制限にスイス・フランを介入するということは、無制限にスイス・フランが市中に出回ることになる。
流動性の供給、すなわち市場に出回るフランの量をジャブジャブに増やして通貨の価値を下げる。通貨価値が下がればモノの値段が上がり、デフレ解消へと繋がる、という構図である。
避難通貨としての通貨高、デフレ解消となれば、「円」も見習えという話が出てきそうであるが、スイス・フランと日本・円は似て非なるもの、というポイントを指摘しておきたい。
以前から何度か「実質実効為替レート」の存在について、こちらのコラムでも触れてきたが、今一度簡単に説明させていただこう。
たとえば、1ドル=76円といったふだん、われわれが為替市場で目にしているのは「名目為替レート」といわれるものである。変動相場制の下では、あるひとつの国の通貨価値を他のひとつの国の通貨ではかるのが基本であるが、「ドル/円」という組み合わせであれば、これはあくまでも米ドルに対してのみの円の価値を示している。つまり、円の全体像や相対的な価値というわけではなく、あくまでも部分的な姿を示しているにすぎない。
今年の夏は連日のように「円高」のニュースが流れたが、日本では「円高」といえば、対米ドルでの為替レートだけを取り上げて語られる場合がほとんどだ。しかし、FX取引をされている読者の皆さまならご承知の通り、為替市場にはユーロがあり、ポンドがあり、スイス・フランがあり、韓国・ウォンがあるわけで、為替市場における円の本当の姿、つまり、円が通貨として本当に高いのか、安いのか、と判断するためには、米ドルだけでなく、他の通貨に対しても円がいくらなのかを考える必要がある。
そして、ある国の国力や経済力を通貨で計ろうとするならば、各国との貿易量や他の国のインフレ率なども関係してくる。
そこで、為替市場における円の本当の姿はいかなるものかを考える際に指標として、日本との貿易額のウェイトを加味して加重平均したレートに「名目実効為替レート」なるものがあり、それをさらに、各国の物価調整をした「実質実効為替レート」がある。これは対ドルや対ユーロと限定せず、円の貿易相手として比重が高い国を中心に円の相対的な姿を示しているレートと考える。
最近になって、ずいぶん「実質実効為替レート」の存在もクローズ・アップされるようになってきたようだが、FRBが算出するドル・インデックスがもっともポピュラーであり、実際にFX取引の際にご覧になっている読者の方も多いだろう。各国の「実質実効為替レート」については、BIS(国際決済銀行)のHP(http://www.bis.org/statistics/eer/index.htm)で確認でき、また、各国通貨を算出する際の通貨ごとのウェイトも表示されているので、どの国と貿易比率が多いのかなどをご覧になると、あらたな発見があることと思われる)。

スイスと日本の違い

さて、BISで公表されている各国の「実質実効為替レート」から円とスイス・フランを抽出してみた(数値は2011年7月までのものである)。すると、円については確かに「ドル/円」レートでみれば、円は史上最高値を更新しているが、「実質実効為替レート」で相対的にみると、決して最高値を更新している状況ではない。今の円高は米ドル安によって引き起こされている、ということがよく論評されるが、実際に数値をご覧になれば、その様子が実感していただけるのではないだろうか。
それに対して、スイス・フランの場合は、実際の「ドル/スイス」の為替レートでもスイスが高値を更新しているが、今年に入ってから「実質実効為替レート」でも、史上最高値を更新し続けていたという状況である。よって、このスイス高は貿易相手国としているすべての国に対してフランが強い状態であり、いわば究極のスイス高であったといえる(図1)。

図1

2つの通貨を並べてみると、円とスイスは避難通貨として選好はされていたものの、その様相はずいぶんと違っている。
さらに、詳細をみるため、スイスの実質実効為替レートと「ドル/スイス」のレートを重ねると、「ドル/スイス」レートの史上最高値の更新につられるように、実質実効為替レートの数値は過去最高値を更新。2011年7月末の125.05という水準は、著しい通貨高がここ数年で進んでいることを示しているような(図2)。

図2

スイスの貿易比率だが、BISが発表する加重比率の内訳では66.1%とユーロ圏が圧倒的に高い。

加重比率

そこで、スイス高でもっともダメージを受けるユーロ圏との貿易対策のために対ユーロでペッグ制を採用し、通貨安をはかるという手段を採用したわけである。極度の通貨高である以上、こうした通貨安の措置はある程度の効果が期待できるというわけで、市場もペッグ制の話が出てきて以来、スイスを売り戻す動きとなったといえよう。
かたや円であるが、実質実効為替レートと「ドル/円」のレートを重ねてみると、前述の通り、対ドルの円は史上最高値を更新しているものの、実質実効為替レートでは高値どころか、かなりの通貨安の水準にあるということがチャートからご覧いただけるかと思う。

図3

2011年7月末現在で、BISの実効為替レートは110.85となっている。過去を遡り、同水準を探っていくと、サブプライム・バブルが形成されていった2002年9月の120円台、また、それ以前では、1997年のアジア通貨危機や1998年のLTCM破綻の130円~140円といった円安水準と現状は同じということがいえるのである。
繰り返しになるが、対ドルはさておき、他の貿易相手国との貿易比率や物価水準などを加味すれば、相対的に円は決して高くない、ということになる。この辺りは既存のメディアの報道では敬遠されている部分であるため、ぜひ注視していただければと思う。
そして、1997年から1998年当時といえば、最近FXを始めた読者は驚かれるかもしれないが、ドル買い/円売りではなく、ドル売り/円買い介入を実施していた水準でもあるのだ。
菅政権になってから為替介入が6年半ぶりに再開され、とくに、2011年8月4日に実施された日銀による単独介入では、一日の介入額が過去最高の4.5兆円に達したとしてニュースになったが、それまでの過去最高の介入額は1998年4月10日の2兆6201億円であり、この際はドル売り/円買いが130円台で行われていたのである。
民主党政権発足以来、すでに5兆円近くのドル買い/円売りを実施しても、円高にずるずると引き戻されてしまうひとつの要因として、こうした相対的な円の水準がまだまだ円安であるため、とういうことが上げられよう。
つまり、生き過ぎた円高どころか(円高は対ドルだけであり、円の理由からというより、ドルの理由からである)、むしろ、円安の水準でさらに円を売っているともいえる。極度の通貨高ではない以上、円を売っても効果が限定的というのも、ある意味もっともなことではなかろうか。
従って、スイス・フランと日本円では置かれた状況はまったく違うわけで、対症療法としてスイスを真似したところで、効果はないという結論となる。
円高対策にはなりえない為替介入であれば、なんのための介入なのか。米国のファイナンスの手伝い、といえば聞こえはよいが、介入したところで円安に戻らないなら、輸出企業を助ける術にもなっておらず、要は借金体質の米国に資金を貢いでいるだけとなる。
これも以前から申し上げていることだが、介入でドルを買うためには、その替わり金となる政府短期証券(FB)を財務省は発行して、銀行などを通じて円を調達している。その円を売ってドルを購入しているのだ。
そして、そのFBはいつもセンセーショナルに発表される国の借金(正確には政府の借金だが)に加算されていく。こうした為替介入と政府の借金の関係が積極的に知らされない背景に、「これだけまた借金が増えてしまいました」という増税路線を敷きやすくするための材料にも利用されているのではないか、とも思いたくなるのである。
為替介入をするぐらいなら、資金を被災地へ。日本の資金は日本のために使って欲しいものである。

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