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先月号(12月号)で、スイス・フランと日本円は似て非なるものというご紹介をした際に、実質実効為替レートに触れ、相対的にみれば現状が決して円高ではないというお話をさせていただいた。今月はその続き、といってはなんだが、現状が百歩譲って対ドルでは円高だとしても、それでいったい日本経済にとって何が問題なのか、という部分をクローズ・アップしようと思う。

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  • 気鋭の経済アナリストが解きほぐす為替変動の深層(真相) 第20回:岩本沙弓
気鋭の経済アナリストが解きほぐす為替変動の深層(真相) 第20回:岩本沙弓
気鋭の経済アナリストが解きほぐす為替変動の深層(真相) 第20回:岩本沙弓

先月号(12月号)で、スイス・フランと日本円は似て非なるものというご紹介をした際に、実質実効為替レートに触れ、相対的にみれば現状が決して円高ではないというお話をさせていただいた。
今月はその続き、といってはなんだが、現状が百歩譲って対ドルでは円高だとしても、それでいったい日本経済にとって何が問題なのか、という部分をクローズ・アップしようと思う。

円高で何が問題なのか

9月20日のことになるが、野田首相は、経済情勢に関する検討会合で挨拶をし、「産業空洞化回避はわが政権にとって重要課題だ」と述べたうえで、円高への総合的な対応策について、中小企業資金繰り支援や円高メリットの活用などについても触れていた。円高対策といえば為替介入一辺倒であったこれまでを考えれば、「円高でもメリットがある」という点について、政府が少なくとも公の場で触れたことは大きな飛躍と評価したい。
そこでさらに一歩踏み込んで、そろそろ円高による日本の本当の姿をはっきりさせる状況にきているのではないだろうか、と思う次第なのである。v まずは、「円高は悪」の急先鋒としてこれまで必ず掲げられてきたのが、
[1]輸出国であるがゆえわが国へは経済的ダメージを受ける
[2]海外への工場移転が進み、産業が空洞化する

という2点ではなかろうか。これらのポイントは一見非常に的を射ているようにも思えるのだが、実は実態とはかなりかけ離れている。

「わが国は輸出国」への反駁 その1 円高で企業業績は好転

[1]への反駁として、以前このコラムや拙著でもご紹介したことがあるが、円高でも企業業績は悪化していない、むしろ、円高のピークでは企業業績は好転しているという状況がある。

図1

チャートは「ドル/円」レートと法人企業統計の売上高を重ねてみたものだが、為替レートが円安から円高へと切り替わる際には、確かに売上高は減少していく場合もあるが、それよりも特徴的なのは、過去、為替レートが円高のピークに向かう途中からは売上高がいずれも回復しているのが確認できよう。
つまり、円高によって企業活動が圧迫されているとは考えにくく、むしろ、過度な円高が進んだ段階では、企業業績は好転しているという結論をも導き出せるのである。
これは日本の多くの企業が輸出企業であると同時に、輸入企業であるということに大いに関係があると思われる。輸出にとって確かに円高はデメリットではあるが、輸入を考えた場合、その円高メリットは徐々に後から効いてくる。そのタイムラグとして、円高のピークで企業業績が遅れて好転するというかたちで表れているものと考える。

国の存亡に関わるのは通貨高ではなく通貨安

2011年10月、日韓スワップ協定の限度額が30億ドルから300億ドルへ大幅に増額された。9月中旬以降、欧州問題から他の新興国通貨同様に韓国ウォンも急落。さらなる通貨危機に陥る前に手を打ったかたちだ。
GDP比50%と高い輸出比率の韓国経済は、ウォン安で潤うはずではなかったのか? 輸出を伸ばし、外貨を稼いだならスワップ協定増額の必要はない。そして、メディアの論調に従えば、輸出に都合がいいウォン安を韓国政府も放っておけばよいはず。
しかし、実際に通貨安となれば、韓国からは短期資本が流出し、信用収縮が発生、急激な物価上昇を招く恐れがある。サムソンはやがて日本企業を打ちのめすといわれていたが、ごく限られた輸出企業によって支えられている韓国経済の実態は、日本から資金を融通してもらう必要があるほど脆弱なのだ。
通貨高で国が破滅することはないが、通貨安は国家存亡となりうるのがおわかりいただけよう。

円高で疲弊した町工場へ資金をばらまいたほうがよい

そもそも1ドル360円から75円台まで円高が進んできている円の歴史を鑑みれば、為替介入では円高に歯止めがかけられないのは歴然としている。それならば、無意味な資金を海外に渡して、減価していく様子を座して眺めているよりも、直接、円高によって疲弊している家庭内手工業を営むような町工場に数兆円単位で資金をばら撒いたほうがよっぽど喜ばれるし、国益に叶うというものではなかろうか。
為替介入を通じた円安を期待するよりも、問題を抱えているセクターに直接資金を投下できるという点で効率的であるとも思われるのである。

「わが国は輸出国」への反駁 その2 日本経済は内需に依存してい

るわが国が輸出国であるかどうかは、わが国のGDPに対する輸出額比率をみれば一目瞭然であるが、これも先月号で指摘したとおり、世界銀行発表の2009年データによれば、スイスは輸出の対GDP比率は51.7%と先進国中上位に位置しているが、わが国は12.5%。米国の11.2%に続いて、各国ランキングで比較すれば下から数えたほうがはやいぐらい、輸出依存度が低い国なのである。
しかも、対GDP比10%台という日本の輸出依存度は1960年代からほぼ変化していない。すなわち、日本経済は輸出よりも、8割以上というはるかに多い内需に依存している経済構造であるにもかかわらず、既存のメディアのミス・リードは甚だしい。
3・11後の原発問題で明らかになったように、実態経済がいかなるものかということよりも、大口のスポンサーが誰であるかで報道の内容もすべてコントロールされていると見てよかろう。
つまり、輸出依存度が低い以上、円高は日本経済に大きな、しかも、ネガティブなインパクトは与えようがないのである。先に見た法人企業統計の売上高への影響が限定的なのもこのためともいえよう。

景気改善問題の本質は内需にある

ところで、各種統計を見るにつけ、民間の給与所得は過去十数年下がり続けている。皆さまの実体験と重ね合わせても頷けるのではないだろうか。2000年代の小泉政権以降、世の中的にはこれまでの史上最長といわれたいざなみ景気を超える程の好景気となったといわれている。
この間の輸出は非常に好調で、1980年代後半のバブル期の40兆円をもはるかにしのぐ、倍近くの輸出額であった。それにもかかわらず、足元の景況感が好転したと実感された方は、つまり、2000年代に給与が倍近く上がったという読者の方はいらっしゃるだろうか。
輸出依存度が高ければこそ、皆さまの懐にもダイレクトに反映されるだろうが、依存度が高くない以上、給与は上がりようがない。輸出額が伸びてもわれわれの日々の暮らしには影響がないということは、それほどわが国の輸出依存度が低い証拠にもなるだろう。
内需が拡大しなければ皆さまの給与も上がらないのだ。つまり、景気改善への問題の本質は内需にあるにもかかわらず、円高にすべて原因があるような議論にも、そろそろ終止符を打つべきだろう。

海外売上比率が50%を超える企業は上場企業の7.6%

ちなみに、私の知り合いが国立国会図書館に問い合わせをし、東証上場企業のうち海外での売り上げ比率を調べてもらったものの横流しになるのだが、2011年6月発行の「会社四季報」データによれば、海外売上比率が50%を超える企業は287社、うち90%を超える企業はわずか7社に留まっている(外国企業・REITを除く)。 国内上場企業を3800社とすれば、この海外売上50%以上はほんの7.6%に過ぎず、これでわが国が輸出国とするにはあまりにも無理があろう。

「産業の空洞化」への反駁 企業の7割が海外現地生産に移転

円高になると、大企業が国内生産を海外へ移転するということが常套手段のように使われるが、これは何も新しい議論ではなく、1995年の段階でもすでにいわれていたことである。そして、遡れば、ニクソン・ショックの1971年以降、そして、プラザ合意の1985年、円が大幅に切り上がるような一大事を経て、実質実効為替レートでみても、極端な円高になった1995年までの時点で、企業は海外進出をするか否か、もうすでに腹をくくっていると考えるほうが妥当であろう。そのような合理的な判断ができなければ本当の輸出企業は生き残れまい。
その実態を示すものとして、内閣府が発表している海外現地生産を行う企業の割合があるが、すでに7割が海外に移転済みであり、今頃になって海外に移転するかどうかを決めあぐねている企業はほとんどいないと考えてもよいのではないだろうか。

図2

高品質・高付加価値企業育成の段階に

日本での産業はすでに空洞化しており、海外生産に切り替えるかどうかは、1995年や、それ以前の段階で各企業に決断が迫られていた。
従って、今残っている国内製造業は為替変動に左右されない、高品質、高付加価値の製品をつくり出している企業ということになる。それらの会社が今さら海外へと移転などするだろうか。
したがって、円高のデメリットとして産業の空洞化を論ずるのは遅れた議論になりかねない。むしろ、円高のメリットによって海外資源を確保し、こうした高付加価値製品をつくり出す日本企業の育成を考えるべき段階にきていると思われる。

産業の空洞化を為替要因にするのは問題の本質とはずれる

また、海外移転の為替要因を全否定するつもりはないが、為替レートの変動など所詮、数年で2割~3割である。それに対し、たとえば、中国の最低賃金は1カ月当たり510 元(約6800円)、2010年の中国一人当たりのGDPは4300ドル(約33万円)であり、日本の420万円とは10倍以上の格差がある。
この経済格差こそ、アジアでの低賃金労働を求めるという企業の生産拠点の最適化こそが産業空洞化の要因である。それを為替要因で片づけるのは簡単だが、本質とはズレることになる。

企業は合理性を追求している

以上の反駁にプラスして、ということになるが、財務省の発表するわが国の貿易取引通貨別比率もご覧いただければと思う。

図3

平成23年度上半期にわが国が輸出と輸入の際に使用した通貨を、その比率ごとに示したデータである。日本からの輸出の場合には、米ドルは47.7%と確かに比率は多いものの、円での輸出比率もそれに並ぶ勢いの42.2%となっている。
また、日本への輸出を見た場合には、米ドルでの取引はなんと72.1%であり、円比率の3倍以上となっている。すなわち、輸入ではメリットのある米ドルの比率を上げ、そして、輸出の際にはデメリットを最小限に抑えるべく、米ドル比率を下げるという使いわけを上手くしている様子がうかがえるのだ。
このことからも、円高、円高と半狂乱になって政府が対応を迫られるようなことはそもそもないということがいえよう。企業はとうの昔に合理的な経済行動をとっているのである。

円安になって儲かるのは、GDPの12%を占める輸出企業のみ

以上のこれまで指摘してきた点を考慮すると、円安になって儲かるのは日本のGDPの12%を占める輸出企業のみ、上場企業でいえばわずか7%の企業のみということになる。つまり、大多数の日本国民には、企業活動を通じて円安のメリットは直接的には何もない、ということになろう。
逆に、この7%の企業に勤めていない限りは、円安によるデメリットのほうが大きいといえるかもしれない。円安により輸入物価が上がり、ガソリンがリッター500円にでもなったらどうであろう。日々の生活で少なからず実感されていることと思うが、製粉最大手の日清製粉は本年4月に業務用小麦の出荷価格を10%ほど引き上げた。油脂や砂糖などの値段も上がっており、パンなどの製品に原材料費が今後転嫁されるのは必至である。
その背景には18%にも及ぶ日本政府による小麦輸入価格の引き渡し価格の上昇があり、世界的な小麦の需給ひっ迫問題と切り離せない。対ドルで円高が進んでいなければ、日本の海外での購買力は減り、輸入価格はさらに跳ね上がっていく。その行き着く先はインフレであり、しかも、給与が上がらないなかでのインフレなら、究極のスタグフレーションとなる。

円安への誘導のために日本の黒字を減らす必要があるのか?

その際には外貨預金のメリットが、という方もいらっしゃるかもしれないが、日々の生活費までも外貨預金に回す人などおられるだろうか。そして、そこまで外貨の保有比率を上げる投資行動が、通貨信認が問われている今の時代、果たして正しいといえるだろうか。
そして、そもそも論になるが、円高になるのは日本の大幅な経常黒字のなせる所以である。この黒字を減らせば、もちろん円安にはなるだろうが、その必要が本当にあるのだろうか。円高阻止のため対外純債権を減らし、国として困窮化を目的とするのは、それこそ本末転倒だろう。

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