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世界でもっとも安全な通貨と聞けば、まず、スイスフランを挙げる人がほとんどでしょう。世界のどこかで突発的に戦争やテロなど起きたときには、真っ先にスイスフランが買われる、いわゆる有事の際に一時的に逃避通貨として買われることが多く見られました。

最強FX基礎講座 第40回:岡安盛男
最強FX基礎講座 第40回:岡安盛男

逃避通貨からディーリング通貨へ

世界でもっとも安全な通貨と聞けば、まず、スイスフランを挙げる人がほとんどでしょう。世界のどこかで突発的に戦争やテロなど起きたときには、真っ先にスイスフランが買われる、いわゆる有事の際に一時的に逃避通貨として買われることが多く見られました。
しかし、この数年はその特徴も少しずつ変化してきました。とくに、今年に入り、欧州債務問題の拡大や米国の格付け引き下げなどからスイスが大きく上昇しました。これは単に資金の逃避で上昇したものではなく、投機的なマネーが入ったと考えられます。
それは、「ドル/円」も同じことで、今年の「ドル/円」は市場最安値となる75円前半まで売り込まれたこともスイスと同様に、投機マネーが円買いに走ったとみることができます。
しかし、スイスは自国通貨であるスイスフランの上昇を抑制すべく、無制限の介入を行うと発表しました。これにより、スイスフランは上昇から一気に下降に転じました。スイスフランは、これまでの単なる逃避通貨から、今後はディーリング通貨として魅力が増してくるものと考えられます。
また、このような人工的な動きというのは、いずれその反動が入る可能性が高いものです。そのときは大きく稼ぐチャンスともいえます。そのチャンスを逃さないようにまず、この通貨の特徴を知っておくことにしましょう。

スイスフランの特徴

これまでは、一般的に有事の際には基軸通貨である米ドルが安全通貨として買われました。しかし、2001年の9・11テロで米国自体が当事国となった頃から、その威光が薄れてきました。まさか米国の中心都市であるニューヨークがテロに遭うとは誰もが予想していませんでした。当然、自国が攻撃されたことで、有事のドル買いとは反対に売り込まれる状況となりました。
その代わりにリスク回避通貨として注目されるようになったのが、スイスフランでした。この頃からスイスフランは、国内よりも海外の状況に影響されることが多く見られるようになります。
投資マネーというのは、利益に関しては貪欲であると同時に臆病なものです。世界が不安定な状況に陥れば、一時的にスイスフランのような安全な通貨が買われるという特徴があります。
また、現在は主要国のほとんどが低金利政策を取っていますが、スイスフランは以前から低金利の時代が長く、円と同様に、スイスを売って金利の高い通貨を買うスイスキャリートレードが多く見られます。スイスの銀行は守秘義務が固く、徹底しているためお金が集まりやすく、金利が低いのもその理由からと思われます。ただ、近年では、マネーロンダリングや国外の脱税者が増えるなどの観点から、これを撤廃させようとの動きもあります。
さらに、スイスは世界有数の金保有国でもあります。金もスイスフランと同様、安全資産であることから、似たような動きをします。

図1

スイスフランの主な変動要因

スイスフランの主な変動要因として、次の3つがあげられます。

1.有事のスイス買い
2.スイスキャリー取引
3.ユーロの影響


■有事のスイス買い
海外のテロや戦争勃発などの有事で、とくに、米国が当事者の場合は、スイスフランが買われやすいものの、状況がある程度明らかになってくれば、それほど長期化することはありません。

■低金利を背景にしたスイスキャリー取引
世界経済が安定してくると、円と同様に、スイスキャリートレードの動きが見られます。
金利と為替の動きではそれほど強い相関は見られません。それは元々スイスの金利は他の主要国より低いことから、金利狙いの動きが少ないということだと思われます。それよりも、いざというときの安全通貨というのが、スイスフランの魅力といえます。

ユーロの影響

スイスの貿易相手国はEUが大きく占めており、09年のEU諸国からの輸入は全体の78%、輸出は59.7%となっています。そのため、「ユーロ/スイス」は「ドル/スイス」と並んで、取引が活発です。
スイスは自国通貨がユーロに対して強くなることで、輸出に大きな影響を及ぼすことから、頻繁にスイス売り介入を何度か実施しました。また、2011年の7月には、米国の債務上限引き上げがなかなか決まらず、デフォルトに陥る可能性が高まりました。最終的に上下両院で可決されたものの、次の月の8月には大手格付け会社のムーディーズとフィッチが米国の格付けを引き下げました。
また、このときは同時に、欧州債務問題が拡大したことで、この前後からスイスフランが対ドルだけではなく、対ユーロでも大きく上昇しました。まさに、ドルもユーロも買えないといった状況下で、スイスが駆け込み寺のような状況となりました。
さすがに、これだけスイスが上昇すると、スイス経済にとっては大きな打撃となるために、スイス中銀(SNB)は最後の手段として、無制限のスイス売り介入を実施することを表明しました。
とくに、もっとも関係の深いユーロとのクロスレートの上限目標レートを、1ユーロ=1.2フランに設定すると発表しました。この水準を達成するまで無制限の介入を実施することを宣言したことになります。
これまでのスイスの介入は、すべて失敗に終わりましたが、この断固とした決断を市場は素直に受け入れ、「ユーロ/スイス」はひと月後には1.2フランを回復しました。しかし、スイス中銀はこの効果に自信をもったのか、今後は、上限目標レートをさらに上の1.3フランに押し上げるのでは、といった観測も聞かれます。
さて、このスイスフランの下落は今後、さらに継続されるのでしょうか。為替市場というのはそれ程生易しいものではありません。「ユーロ/スイス」の実需ベースでの取引自体は、「ドル/円」などに比べると非常に小さく、もし投機マネーがスイスフラン買いをいっせいに始めたら、いくらスイス中銀でも抑えることはできません。
それは、1992年の秋に起こったポンド危機を見れば明らかです。「ポンド/ドル」はこのとき、2.0から数カ月で1.42まで30%近く下落しました。このときの売りの主役は、世界的に著名な投機家であるジョージ・ソロス率いるヘッジファンドがポンドに売りを浴びせたことが発端となりました。このときの彼らの収益は10億ドルとも、20億ドルともいわれました。当時の日本円で換算すると、1500億円から2500億円規模になります。
このときのポンドは、EC域内で通貨統合に向けて通貨を固定しようとするERM(欧州為替相場メカニズム)が進んでいました。ポンドは結果的に過大評価されていくことになり、そこにソロスは目をつけました。
「相場は必ず間違っている」というのが彼の持論であり、結局、ポンドは急落したので、彼が正しかったといえます。その後、97年のアジア通貨危機でも同様なことが起こりました。
今回のスイスフランの下落は、このときと同じかどうかはまだわかりません。しかし、このように通貨がその実力以上、あるいは実力以下に長く止まろうとしても、結局、いくべきところにいくものであることは、これまでの為替の動きが証明しています。

今後の「ユーロ/スイス」攻略法

ギリシャ危機が拡大し、欧州全体にソブリンリスクは拡大しました。ここにきて中核国でもあるイタリアやフランス国債が下落し、一時はドイツ債までが売られるといった状況もみられました。欧州の問題は、米国の金融機関格付けが引き下げられるなど、世界的な金融システム危機に発展する恐れも出てきました。
欧州だけではなく、これまで順調に景気拡大を続けてきた新興国でさえ、ここにきて景気減速の兆候が出始めています。このようなリスクの拡大する状況で、安全通貨のドルが買われることから、対ドルではスイスフランの下落傾向は今後も続く可能性があります。
しかし、一方で、ユーロも対ドルでは下落傾向となるため、ユーロ安のスピードがスイスの下落を上回るかどうかがポイントになります。図2をみると、「ユーロ/ドル」の下落と、「スイス/ドル」の下落の勢いがほぼ一緒になっていることから、「ユーロ/スイス」はほぼ横ばい状態です。

図2

この状態は、ユーロ安というよりもドル高がむしろ「ユーロ/スイス」の均衡を保っていると考えられます。

「ユーロ/スイス」が下落するタイミングは?

スイスフランで大きく儲けるチャンスをつかむには、フランが上昇するタイミングを見つけることです。それは、もちろん、欧州債務問題が大きな要因であることは間違いありません。ただ、「ユーロ/ドル」の下落と同時に、「ドル/スイス」が上昇してしまえば、「ユーロ/スイス」の動きはほとんどありません。
従って、ドルが上昇から下落に転じるときが、「ユーロ/スイス」の下落のきっかけとみることができます。それには、米国の景気回復がカギを握っているともいえます。その米国の景気は欧州危機が後退するときともいえます。あるいは、ギリシャなどがユーロ離脱をすることになれば、むしろ、ユーロにとっては負担が軽減し、ユーロ買いドル売りになる可能性も考えられます。

図3
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