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【ステップ4】「米国雇用統計」は世界で一番アツい経済指標

米国雇用統計の日はディーラーのお祭り

毎月第1金曜日(まれに第2金曜日になることもあります)は、米国雇用統計の発表日。米国東部時間で午前8時半の発表時間まで、世界中の市場参加者は固唾を呑んでモニターを見守ります。結果によって、ありとあらゆるマーケットが上へ下への大騒ぎ。発表直後には瞬間で100ポイント200ポイント動くことも珍しくなく、デイトレーダーにとっては月に一度の書き入れ時だったりします(後述しますが、発表直後のトレードは推奨しておりません)。

ツイッターなどSNSもお祭り騒ぎとなります。米国雇用統計の発表に合わせて、実況中継型オンラインセミナーを毎月行っているFX会社も少なくありません。

そんな米国雇用統計について、順を追って学んでいきましょう!

最も注目される「非農業部門雇用者数(NFP)」

米国の数ある経済指標の中でも、雇用統計は断トツで注目度ナンバーワンです。なぜかというと、まず実測に基づくハードデータの中で、雇用統計は最も早く発表される指標だからです。雇用が強ければ景気は強いし、インフレリスクも大きいと判断できます。雇用統計が当該月の景気を判断するにあたっての試金石、ひいては相場全体の先行指標となるわけです。

米国雇用統計は米国労働省が毎月発表します。雇用に関する様々なデータが発表されますが、最も注目されるのは「非農業部門雇用者数」(Non-farm Payroll、略してNFP)。雇用統計というと真っ先に思い浮かぶのは失業率ですが、雇用市場の短期的な変動を見るには雇用の増減を見た方が手っ取り早いからです。

NFPの数字に市場参加者が一喜一憂

米国の景気が安定している時には、通常NFPは月に20万人以上増加します。逆に景気が低迷し、企業が人員整理に動くときには、NFPは時にマイナスになります。2008年の金融危機をきっかけとした景気後退期には、月に80万人もの雇用が失われた時期もありました。このNFPが市場予想より多いか少ないかによって、世界中の市場参加者が一喜一憂するのです。また同時に発表される過去2か月分のNFPの修正値も考慮に入れなくてはなりません。

短期的な相場では、NFPの数字が予想より多いか少ないかが重要

NFPが高い伸びを示した場合、米国金利は上昇し、ドルは買われるのが通常です。しかし、あらかじめ強い数字が予想されている場合には、それを先取りして相場が動いていることがほとんどです。強い数字も「織り込み済み」になっているというわけです。

したがって、短期的な相場にとっては、NFPの絶対水準が強いか弱いかということ以上に、市場予想より多いか少ないかということがより重要になってきます。もちろんこれは雇用統計だけではなくどの指標に関してもいえることですが。

失業率とNFPのほかにも、男女別、年代別、人種別の雇用統計や平均労働時間、平均時給など様々なデータが発表されます。これらは米国労働統計局のホームページhttp://www.bls.gov/news.release/empsit.nr0.htm)で見ることができます。

FRBの二大責務

最も早く発表される指標という他に、雇用統計が注目されるもう一つの理由は、雇用情勢が米国の金融政策に大きな影響を及ぼすことです。

米国の金融政策を担っているのは中央銀行に相当するFRBです。そのFRBは自らの責務として「物価の安定」と「雇用の最大化」を掲げています。これらをFRBの二大責務(デュアル・マンデート)と言います。FRBは一時期ゼロ金利を解除するための基準値を設定していました。すなわち、消費者物価指数が2.5%を上回らず、失業率が6.5%を上回っている限り、利上げしませんという明確なガイダンスを掲げたのです。

ちなみに2014年3月には、失業率6.5%の基準値は撤廃され、「労働市場やインフレ圧力など幅広いデータを考慮する」という抽象的なガイダンスに改められています。

労働市場の質にこだわるイエレンFRB議長

米国の金融政策のかじ取りを担うイエレンFRB議長は、実は労働経済学が専門。雇用に対する思い入れは人一倍で、物価と雇用を天秤にかければ雇用を取ると公言してはばからない人物です。そのイエレン議長は、2014年3月31日の講演で「米国の労働市場のたるみは依然として存在する」と述べ、労働市場の「量」ではなく「質」が問題であることを指摘しています。

議長が懸念すべき点として挙げたのは、

  1. 賃金が上昇していない
  2. 非自発的なパートタイム労働者が多い
  3. 長期失業者の割合が高い
  4. 労働参加率が低下している

という4点。

確かに失業率はリーマンショック後のピークである10%から6%台まで低下しましたが、フルタイムを希望しているにもかかわらずパートタイムに甘んじている労働者が多く、また全失業者に占める長期(27週以上)失業者の割合はリセッション前の3倍に上っています。

つまり、一度失業するとなかなか次の職が見つからず、やむなくパートタイム労働を余儀なくされ、必然的に賃金も下がってしまうという構造です。議長によると、これらを勘案した本来の最大安定雇用となる失業率の水準は5.2~5.6%と推定されるそうです。議長が常々言っているように、「労働市場は健全な状態からほど遠い」ということになります。

ちょっとややこしい話をしますと、失業率は「完全失業者数÷労働力人口」で計算されますが、両者には「就職活動をしていない人」は含まれません。したがって、就職をあきらめた人が雇用市場から退出すると(つまり労働参加率が低下すると)、分子と分母が同じだけ減少し、失業率は計算上低下することになります。失業率の低下にもかかわらず、FRBが雇用の回復に確信を持てないでいるのはここに理由があります。

イエレン氏がFRB議長に就任したことにより、われわれは雇用統計の「量」だけでなく、「質」まで精査する必要が出てきたわけです。

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雇用統計の前哨戦「ADP」とは?

米国雇用統計は政府が集計するハードデータのうち最も早く発表されると述べましたが、実はその直前に民間企業から先行指標というべきデータが発表されます。米企業向け給与計算サービスのオートマチック・データ・プロセッシング(ADP)が発表する全米雇用調査がそれです。

番狂わせが多いのが雇用統計の特徴であり魅力

ただし、政府統計のNFPは振れが大きいうえ、数回にわたって修正されるため、当初発表段階でADPと一致するとは限りません。ADPが強かったがゆえに期待値が高まったけれど、NFPの結果は期待外れで急落ということも少なくありません。

逆に言えば、番狂わせで相場が大きく動くことが多いのが雇用統計の特徴であり、魅力と言えるかもしれません。

米国雇用統計直後のFXトレードは危険!

老婆心ながら付け加えると、米国雇用統計の発表直後にトレードしようとしても、なかなかうまくいかないものです。

われわれ個人投資家が見ている情報ソースには大なり小なりディレイ(情報の遅延)があり、高性能のコンピュータとサーバーを使ったHFT(High Frequency Trading、超高速取引)に先を越されてしまうからです。

数字を確認してから注文を出しても、その時には市場ははるか彼方まで動いてしまっていることがほとんど。ストップ注文もとんでもないレベルでつけられてしまうこともあります。雇用統計発表直後にトレードするつもりなら、そのあたりをしっかり踏まえたうえで臨む必要があります。

雨夜恒一郎の写真

雨夜恒一郎(あまやこういちろう)

20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報をFX会社やポータルサイトに提供中。

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