パウエル・プットとトランプ・スランプに目新しさはあるか[雨夜恒一郎]

FX攻略.com ズバリ!今週の為替相場動向 2019年8月26日号

先週のドル円相場

先週のドル円相場は、週後半に行われるジャクソンホール会議を控えて様子見ムードとなる中、「パウエルFRB議長の講演はさほどハト派的にならないのでは」との見方を背景に、一時106.74円まで上昇した。しかし中国が米国製品750億ドルに対する報復関税を発表し、トランプ大統領がこれに応酬する形で新たな関税措置を発表するとツイートすると、一気に106円台を割り込み105.26円まで下落した。

パウエル・プット

パウエル議長の講演は、利下げサイクル入りまでは示唆しなかったものの、「経済は望ましい状況だが、著しいリスクが迫っている」、「景気拡大維持へ適切に行動する」、「世界経済減速の追加証拠を確認した」などハト派色を強める内容だった。これを受けて、米国債市場では利回りが低下し、2-10年債利回りが再び逆イールドとなる場面が見られた。FF金利先物は9月の利下げを100%確実視し、12月の追加利下げも8割近く織り込む水準となった。パウエル・プット(予防的利下げ)に対する期待が高まっていることを示しており、これはもちろんドル売り材料だ。

トランプ・スランプと中国不要論

トランプ・スランプ(貿易摩擦による景気減速懸念)はもちろん株安・円高要因だ。今回トランプ大統領が発表した新たな措置は、すでに課している第1弾から第3弾の制裁関税(計2500億ドル分)の税率を10月1日から25%から30%に引き上げ、9月1日から予定していた第4弾の税率を10%から15%に引き上げるというもの。いよいよ生活必需品すべてに影響が及ぶという警戒感はもちろんだが、トランプ大統領のツイート「中国は不要だ。率直に言って中国なしの方がはるかに良い」、「偉大な米国企業に対し、中国の代替先をすぐに探し始めるよう命じる」は強烈だった。このツイートの後、NYダウは一時前日比745ドル安まで急落した。

目新しさは乏しい

こうした状況を背景に、市場ではドル円は105円を割り込むとの予想が支配的で、100円を目指すとの見方も少なくない。確かに材料をそのまま解釈すればたいていはそのような予想になるだろう。FRB利下げガー、米中貿易摩擦ガーと言ってドル安・円高を唱えるのは簡単だ。だがそれを本稿の結論とするのは、ありきたりすぎるし面白くない。

景気減速に対応してFRBが9月と12月に利下げを行うことはだいぶ前からコンセンサスになっており、ジャクソンホールでのパウエル議長の発言もそれを追認したものだ。また米中の報復関税の応酬も、貿易協議が暗礁に乗り上げている以上不可避であり、予期可能であった。乱暴に言えば、税率が25%から30%になっても、市場へのインパクトという意味では大した違いはない。パウエル・プットもトランプ・スランプもこれまでの延長線上にあり、要するに目新しさは乏しいのだ。目新しくない以上、新たな弱気相場入りの引き金を引くとは考えにくい。

米国株式市場は、これまでも数々の米中衝突を乗り越えて高値を更新してきた。そして今回の下落は今月のレンジの範囲内である。ドル円もしかりで、重要ポイントの105円を割り込んではいない。「下落すべき材料に対して想定以上に下落しない」のは、潜在的な買い勢力の存在を示唆している。トランプ大統領のことだ。株式市場を暴落させるような愚挙に出るとは思えないし、おそらく米中協議で勝算があるか、殴ってからさするような戦略があるのだろう。株式市場・ドル円ともにここから過度の弱気は禁物であり、従来通り、105円付近は買い妙味ありと考える。

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雨夜恒一郎(あまや・こういちろう)

20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報をFX会社やポータルサイトに提供中。

Twitter:https://twitter.com/geh02066

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