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これからの外国為替場の行方 第131回(月刊FX攻略.com2021年3月号)[田嶋智太郎]

これからの外国為替場の行方 第131回(月刊FX攻略.com2021年3月号)[田嶋智太郎]

※この記事は、FX攻略.com2021年3月号(2021年1月21日発売)の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

いよいよアフターコロナの新しいフェーズへ!?

 ついに、新型コロナウイルスワクチンの接種が英国と米国、カナダで始まった。ことに、米国は感染者数が世界最多であることから、全米で段階的にもワクチン接種が始まることによって、今回のパンデミックが終息に向かうとの期待は大いに高まっている。

 仮に、今後もワクチンの深刻な副反応が大いに問題視されるようなことにならなければ、いよいよアフターコロナの時代の到来が現実のものとなってくる。つまり、パンデミック下とはまったく異なる新たなフェーズがいよいよ訪れることとなるわけである。

 結果、コロナ下にあったときとは相場の“顔つき”も一変することであろう。当然、各種の材料に対する投資家の捉え方、相場の反応も違ってくるに違いない。言うまでもなく、コロナ下での状況がかなり「特別」であり「異常」だったのである。

 例えば、コロナの禍によって世界中の国や地域における金利の水準が、ほぼゼロからマイナスの水準まで低下した。外国為替レートの変動要因として格別に重要なものの一つである金利が、どこを向いても「ほとんどない」という前提で、市場は暫く相場と向き合ってきた。それでも、市場では各国間の微々たる「金利差」の拡大・収縮に注目し、それを売買の「口実」として丁重に扱ってきたのである。

 むろん、コロナ下においてのみ通用する“常識”やパターンというものも少なからずあったように思われる。たとえば、それは「リスク選好のドル売り」、「リスク回避のドル買い」などといった極めて単純な条件反射の繰り返し。ある識者は、これを「パブロフの犬のよう」と評している。

 無理もないのは、2020年3月のコロナ拡大期において実際にドル需給が極度に逼迫したという出来事があったから。以降は先行きの不透明感が強まるたびに、とりあえずドルを確保しておいた方が良かろうといった考え方が市場に広まるというパターンが繰り返された。

 もちろん、コロナ下では、その時々のムードや期待、失望、不安などといった要件以外に、確たる判断材料がなかなか見当たらなかったことが大きい。コロナ下で人々がすがった相場の材料というのは、巨額な財政出動やワクチンの早期実用化への期待、あるいはウイルス感染の急拡大、再拡大に対する恐れや失望であった。

 そして、ようやく今、アフターコロナの時代が訪れようとしている。いや、執筆時点では訪れると「期待」されている。

米国経済は明らかにバブル化。いずれインフレ傾向は強まる

 米アップルが2021年1~6月にスマートフォン「iPhone」の生産計画を前年同期比30%増の最大9500万台とする方針を取引企業に伝えているとの話題が、執筆時の株式市場を賑わしている。2020年秋に売り出した初の高速通信規格「5G」対応機種の販売が伸びていて、なかでも上位機種の「12Pro」と「12Pro Max」の販売が好調であるという。

 発売当初、これらの上位機種は「スペックも販売価格も高すぎて、実際に購入するのはごく一部のマニアなどに限られる」とされていた。それにも拘らず極めて好調に売り上げを伸ばしているのは、一つに足下の株高が一因と見ていいだろう。

 実際、執筆時の米株市場においては、NYダウ平均もナスダック総合指数も、ともに史上最高値水準で高止まりしており、結果的に多くの米個人投資家の懐を大いに潤していることは想像に難くない。

 そんな米国では、依然として住宅販売も好調に推移し続けており、全米住宅建設業者協会(NAHB)とウェルズ・ファーゴが毎月発表している「NAHB住宅市場指数」の11月分は90と、3か月連続で過去最高を更新する運びとなった。さすがに、米国内でウイルス感染の勢いが増した12月のデータは86と、前月分を下回ることになったが、それでも過去の経緯からすれば十分に高い水準と言える(図①)。

米国NAHB住宅価格指数の推移

 むろん、同時に住宅価格も上昇傾向を辿っているわけで、とどのつまり目下の米国では株価と不動産価格が同時に大幅な上昇を続ける、言わば資産インフレの傾向が強まっているわけである。

 以前から述べているように、筆者はこうした状況を紛れもない「資産バブル」の様相であると捉えており、なおも拡大と延命を続けると考えている。その拡大というのは、おそらく垂直方向だけでなく水平方向にも向かいはじめている。つまり、今後はますます「全方位的なバブル」へと発展する可能性が高い。

 なにしろ、足下でこれだけ資産バブルが盛り上がっているのにも拘らず、なおも米連邦準備制度理事会(FRB)は、超がつくほどの金融緩和方針を変えていない。過去の事例を紐解くと、前出のNAHB住宅市場指数が70を超えた場合、FRBは決まって政策金利の引き上げを実施してきた。

 ところが、現在はコロナ禍が景気に悪影響を及ぼす可能性を考慮して、むしろ緩和強化の可能性をほのめかしているのである。よって、今後も米国経済のバブルは全方位的な拡大を続け、結果的に資産インフレから「全方位的なインフレ」に発展して行くものと想定される。

 そのような折、米ファイザーと独ビオンテックが共同開発したワクチンに続いて、米モデルナが開発するワクチンについても米国で緊急使用許可が下りたと伝わっている。もちろん、少々時間はかかるだろうが、次第に行動制限措置が緩められて行く可能性は高まってきている。

 結果、これまで抑圧されていた人々の消費意欲はいずれ爆発するに違いない。個人消費が爆発すれば、想定以上に消費者物価指数も跳ね上がるものと見られる。

 全体にインフレ傾向が目に見えて強まってくると、それはFRBの政策方針にも確実に変化をもたらすであろう。これまで米連邦公開市場委員会(FOMC)の参加メンバーらによる金利見通しは「2023年いっぱいは実質ゼロ」とされてきたが、そうした見通しは状況に応じて変わって行くに違いない。

暗号資産価格の上昇は通貨の信認低下が主因か?

 執筆時、足下で代表的な暗号資産(仮想通貨)であるビットコインの価格が初めて2万ドル台に乗せてきたことが話題となっている。その価格上昇は10月下旬あたりから勢いづき、僅か2か月で2倍強となった。

 このことについて、一部で「ドルをはじめとする法定通貨の信認低下が最大の要因」との解釈がなされていることはご承知のとおり。

 確かに、世界の主要中銀がバランスシートに巨大なリスクを溜め込んでいることは事実であり、全面否定はできないが、だからといって何らの裏付け資産も持たない暗号資産に世界中のマネーが雪崩を打って逃避していると見るのも少々短絡的に過ぎるのではないかと思われる。その意味からすれば、一部で目耳にする「暗号資産は金(ゴールド)と似た性格を有する」との解釈も決して正鵠を得ているとは思えない。

 正味のところ、足下のビットコイン価格の急騰は単なる投機であり、その背後には、やはり過去に例を見ないほど膨大なカネ余りがある。よく「過剰流動性の為せる業」といった解釈を耳にするが、その実際の規模とインパクトの強さは容易に言葉で表しきれるものではない。

いずれ「過剰流動性」はインフレ率に作用する?

 振り返れば、それは2008年のリーマン・ショックに端を発する。その経済的な痛手はあまりにも大きく、ともすれば信用収縮から信用崩壊、世界大恐慌へと陥りかねない状況に陥ったことも幾度かあった。

 結果、止むに止まれず世界の主要な国・地域の政策は大きく動いた。とはいえ、当時は各国・地域の政府が機能不全に陥っていたことから「財政」は動けず、動かせたのは「金融」の方だった。

 最初にイングランド銀行(BOE)が大胆に動き、次にFRBが動いた。さらに、日銀が2013年4月から異次元緩和をスタートさせ、後に欧州中央銀行(ECB)が続いた。言わば、世界の主要中銀による未曽有の量的緩和のオンパレードであり、それだけでも世界経済をバブルへと導くのに十分過ぎるほどだった。

 結果、世界の各国・地域の経済は長い時間をかけて成長の基盤を再構築することができ、そろそろ政策の「出口」を模索しようかと検討し始めた矢先のコロナ・ショックである。既知のとおり、再び世界の主要中銀は大きく緩和方向に舵を切ることとなり、各中銀の総資産は急激に膨れ上がる。

 2019年の年末時点で合計1600兆円ほどに膨張していた米・欧・日の中銀総資産は、2020年末には1.5倍の2400兆円ほどにまで一段と膨らんだ。(図②)そして、いまだ米・欧・日ともに緩和姿勢を緩めていない。

2020年末の日米中銀の総資産合計は前年末比1.5倍の約2400兆円に

2020.05.01付 日経電子版より

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2021年の世界経済は復活の道を辿り始める

 もはや、そのカネ余りの影響は誰にも想定しきれない。あまり余ったマネーは次にどこに向かうのか。むろん、世界の債券にも株式にも暗号資産にも向かう。結果として、目下は世界の主要な株式指数が軒並み急上昇している状況にありながら、一方で主要国の国債にも潤沢に資金が回っている。むろん、超低金利が長期化しているから株高なのだが、そろそろ次の展開も想定しておかねばなるまい。

 それは、繰り返すも消費性向の高まりに伴うインフレ率の上昇ということになろう。世界で経済のデジタル化が進むほど、インフレが起きにくくなっていることは百も承知だが、それ以上にカネの価値が下がれば、その分だけモノの価値は上がりやすくなる。

 2021年の年頭にあたり、今年はワクチンの効果も大いに期待され、年後半に向けて世界経済が着実に復活の道を辿り始めると見込まれる。2020年とはまったく異なるフェーズが訪れ、各国・地域の政策、金利、物価、インフレ状況なども大きく変化することであろう。

 確かに、2020年は基本ドル安の年となったが、2021年はドル高に転じる可能性も十分にある。仮に、一段とドル安が進んだならば、米国経済は輸入インフレに苛まれる可能性だってある。もとより、金融政策の主目的は物価(及び雇用)の安定である。バブル下では、多少の金融引き締めがあっても株価の上昇傾向は基本的に続く。様々な観点から、少し長い目で考察して行きたいところである。

※この記事は、FX攻略.com2021年3月号(2021年1月21日発売)の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

ABOUT ME
田嶋智太郎
たじま・ともたろう。経済アナリスト。アルフィナンツ代表取締役。1964年東京都生まれ。 慶応義塾大学卒業後、現三菱UFJ証券勤務を経て転身。主に金融・経済全般から戦略的な企業経営、ひいては個人の資産形成、資金運用まで幅広い範囲を分析・研究する。民間企業や金融機関、新聞社、自治体、各種商工団体等の主催する講演会、セミナー、研修等の講師を務め、年間の講演回数はおよそ150回前後。週刊現代「ネットトレードの掟」、イグザミナ「マネーマエストロ養成講座」など、活字メディアの連載執筆、コメント掲載多数。また、数多のWEBサイトで株式、外国為替等のコラム執筆を担当し、株式・外為ストラテジストとしても高い評価を得ている。自由国民社「現代用語の基礎知識」のホームエコノミー欄も執筆担当。テレビ(テレビ朝日「やじうまプラス」、BS朝日「サンデーオンライン」)やラジオ(毎日放送「鋭ちゃんのあさいちラジオ」)などのレギュラー出演を経て、現在は日経CNBC「マーケットラップ」、ダイワ・証券情報TV「エコノミ☆マルシェ」などのレギュラーコメンテータを務める。主なDVDは「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX入門」「超わかりやすい。田嶋智太郎のFX実践テクニカル分析編」。主な著書は『財産見直しマニュアル』(ぱる出版)、『FXチャート「儲け」の方程式』(アルケミックス)、『なぜFXで資産リッチになれるのか?』(テクスト)など多数。最新刊は『上昇する米国経済に乗って儲ける法』(自由国民社)。
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