大きく変わった欧州の財政政策相互監視
ここまでずっと欧州と英国の経済・金融政策を中心にお話ししてきたので、今回は財政政策について触れておこうと思います。
FXを始めて間もない方はご存じないかもしれませんが、2008年の世界金融危機直後から、ユーロ圏では債務危機問題が発覚し、約5年にわたり苦しい時期が続いていました。ギリシャから端を発した債務危機は、格付けの低い南欧州各国を直撃して国債価格は暴落し、長期金利が大きく上昇しました。結果として、ユーロ加盟国の一部は自力による財政運営を断念し、欧州連合(EU)からの援助で生きながらえたという苦しい経験があります。
これら負の連鎖を断ち切るため、2012年3月のEUサミットで、ユーロ制度の抜本改革の一環として、統合の深化を通じた危機の克服を目指すことで合意。これを実現するには、加盟各国が国家主権の一部を放棄し、EUに移譲する必要が出てきました。驚いたことに、国家主権の一部移譲という前提にもかかわらずユーロ加盟国は統合強化を望み、本格的な統合のステップとして「銀行・財政・経済・政治同盟の4本の柱」を設定したのです(図①)。
財政同盟の詳細
①新財政協定(Fiscal Compact)
域内の財政規律を強化する目的で、政府間で「新財政協定」が正式に発効しました。しかし、この協定に対し英国とチェコは参加を見送ったため、全会一致を原則とするEU法に基づく条約ではなく、EUの法的枠組み外の「政府間協定」として発効。この協定の特徴は、従来の財政規律に加えて「構造的財政赤字の均衡化」を重要課題として挙げたことです。
特筆すべき内容としては、
- 財政協定に署名した国は、財政収支の均衡・黒字化を約束
- 単年の均衡予算(構造的財政赤字対GDP比0.5%以内)を2013年末までに、憲法ないしは同等の国内法に明記することを各国に義務づけている(最終的にこれは守られませんでした)
- ただし、公的債務残高対GDP比が60%を大幅に下回り、長期的な財政の持続可能性リスクが低いと判断される場合、対GDP比で1%までの構造的財政赤字が認められる
- 長期的に持続が可能な基準値を「安定・成長協定」により設定され、毎年調整がなされる
- 参加国が期限内に国内法制化ができなかった場合、EU司法裁判所がそれについて決定を下す。その判決は法的拘束力を持っており、それに従わなかった場合は最大GDP比0.1%の制裁金を課せられる
- 参加国は自国の国債発行計画を欧州委員会に報告する義務がある
これを読む限り、かなり踏み込んだ内容となっており、欧州委員会の財政監視権限が一気に強化される運びとなりました。
②ツー・パック(Two-Pack)
財政協定の前身となったシックス・パック(Six- Pack)と呼ばれる財政赤字対GDP比の設定などに代表される「五つの規則と一つの指令」から派生して、ツー・パック(Two-Pack)と呼ばれる二つの規制が導入されたのも、この時期です。
シックス・パックの導入により財政・予算に対する監視を強めましたが、そこにツー・パックを導入することにより、ユーロ加盟各国の財政・予算決定を欧州委員会や加盟各国同士が監視・調整するという体制となりました。つまり、ユーロ圏では自国の議会に提出する予算案原案を欧州委員会に提出し、他の加盟国やEU、欧州委員会がそれをチェック。最終的には、EUの承認を求めることが義務づけられたのです。
現在でもこのシステムは継続しており、欧州では毎年10月15日が予算案原案の提出期限とされています(表①)。ここで万が一問題があると認定されれば、欧州委員会は当該国に予算案改正を求めることができます。また、最悪の場合は罰金を科す権利も有しています。
2018年のイタリアの例
2018年10月15日が提出期限であった2019年予算案原案。イタリアの原案内容がEUの財政規律条件を満たしていないため欧州委員会は不合格とし、1か月後に再提出を命じました。しかし、イタリア政府は我関せずの姿勢を貫いたため、EU加盟各国の財務省代表者による協議の結果、欧州委員会は同国に対し「過剰財政赤字是正手続き(EDP:Excessive Deficit Procedure)」に入りました。
この場合、通常であれば6か月以内に赤字削減の是正に向けた計画書の提出が求められますが、同国がそれに従わない場合や計画書内容が不十分と判定された場合はGDPの最大0.2~0.5%に相当する課徴金が課されます。
このときはギリギリでマクロ経済の数字をいじって、課徴金支払いは免れました。EU加盟国中、ドイツに次ぎ2番目に多額の拠出金を支払っていた英国が抜けたため、今後のEUはますます予算不足が目立つようになります。それを考慮すると、財政規律のさらなる厳格化という話が出てきてもおかしくないのかもしれません。
※この記事は、FX攻略.com2020年5月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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