ファンダメンタル分析において欠かすことのできない経済指標。景気動向や消費動向を判断する重要な指針となりますが、その見方はエコノミストとトレーダーでは異なるようです。ディーラー歴30年以上というキャリアを持つ水上紀行さんは、経済指標をどのように見ているのでしょうか。
経済指標は予想と結果の乖離幅を見るべき
経済指標の見方は、エコノミストとトレーダーで違います。 エコノミストの経済指標の見方は、発表された経済指標の内容を吟味し、景気が良くなっているのか悪くなっているのかを分析します。それに対してトレーダーは、あくまでも経済指標の発表を収益機会と捉えています。
トレーダーは、マーケットの大勢が発表される指標に対して事前にどういう結果を期待し、どういうポジションを持っていて、結果に対してマーケットはどういう反応をするかということを予測します。
予想と実際の結果との違いが大きくなればなるほど、読みが外れたマーケット参加者がロスカット的に手持ちのポジションを手仕舞いしてきますので、相場は大きく動きます。
また、発表結果については事前予想との乖離幅の大きさが注目されており、例えば発表結果自体がマイナスでも、事前予想のマイナス幅より実際のマイナス幅が小さければ、それは良い結果と見なされ、結果がマイナスでも買い材料になります。つまり、予想と結果の違いが短絡的に注目されているに過ぎません。
ポジションの偏り具合によっては、期待した発表結果が出ても素直に反応せず、ともすると逆に動いてしまうことさえあります。
したがって、マーケットのポジションの偏りだけでなく、マーケットが何を期待していて、どうなると失望するのか、発表前にできるだけ推測しておくことが必要になります。
投機筋参入が相場動向の推測をより困難にする
月間最注目の経済指標といえば米雇用統計です。米雇用統計は、既に20年以上にわたって注目を集めている指標であり、多くのマーケット参加者が意識するイベントの一つです。
ただし、最近では良い数字だからといってドル高でスタートしたとしても長続きしなかったり、あるいは良い結果なのになぜか売られてしまったりということもあり、発表結果から相場動向を推測することが非常に難しくなっています。その原因の大部分は、米雇用統計発表後の相場に投機筋ばかりが関わっていることだと思います。
投機筋には、宿命があります。買ったら必ず利食いか損切りのために売らなくてはならない。あるいは、売ったら必ず利食いか損切りのために買わなくてはなりません。つまり、長くはポジションを持ちきれないのが投機筋です。
例として、5月5日に発表された4月の米雇用統計を挙げてみましょう。このときは、非農業部門雇用者数は21.1万人と予想の19.0万人を上回ったものの売り買いが交錯し、112円台でもみ合いが続きました。そして押し合いへし合いした末に、112.68円で金曜を終えました。
しかし、翌週の月曜は週末にフランスの大統領選の決選投票があったことから、これに話題を奪われ、113円近辺でシドニーは寄り付きました。そして、その後はジリ安となって112.40円近辺まで下げ、米雇用統計の話題は立ち消えとなりました(チャート①)。
これを見ると、最近の雇用統計のマーケットに与える影響は、極めて限られていることが分かります。単に投機筋だけがドタバタやっているだけで、米雇用統計が実のある指標とはとても思えません。
金属疲労の米雇用統計に次ぐ重要な経済指標は?
実際、相場のトレンドを作る投資家は非常に慎重ですから、一回きりの指標結果で投資判断をすることは余程のことがない限りないと思われます。
つまり、既に申し上げましたように、米雇用統計は20年以上に渡って注目されてきたことからくる金属疲労(金属材料に外力が繰り返し加わり、無数の微小な亀裂が生じて脆くなること)と、現在アメリカの雇用が完全雇用となっているため、雇用統計自体がそれほどもう影響力がなくなっているのではないかと思います。
それに代わって次の重要指標として何があるかといえば、米雇用統計以前に注目されていた米貿易収支ではないかと見ています。皆さまもご存じのようにトランプ大統領が通商問題に非常に関心を持っており、特に対米黒字国である中国、日本、ドイツ、メキシコに貿易関係の是正を強く求めているからです。
ただし、米雇用統計と状況的には変わらないと思います。投機筋が発表後の取引の中心である以上、結局は往って来いの相場、例えば上がっても落ちてくる、下がっても反発するという相場になるのではないでしょうか。投資家は今後も、あくまで一つの指標では投資判断を下さないものと思われます。
それよりも最近注目されるのは、主要国の金融政策であり、各中央銀行総裁発言の重要度が以前にも増して高まっています。彼らの発言は、直接的には分かりにくいところがありますが、その発言の真意を推理することが大事だと思います。
※この記事は、FX攻略.com2017年8月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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