中央銀行が燃料供給しトランプ大統領が点火
前回から始まった連載ですが、前半は最近のマーケットに関しての雑感、後半は皆さまのトレードに役立つマーケットを勝ち抜くためのノウハウを書いています。
さて、最近のマーケットは材料がたくさんある中で、ドル円もユーロドルも動かない状況が続いています。ここまでの流れをおさらいしてみましょう。
まずは2019年9月に欧州中央銀行(ECB)がマーケットの期待以上の金融緩和を行いましたが、緩和打ち止め感からユーロドルはむしろ反発しました。その後は10月に米連邦公開市場委員会(FOMC)の利下げがありましたが、これも予想通りの展開になりました。そして、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は予防的な利下げの打ち止めを示唆、FOMCも金融緩和はいったん休止としました。
ここまでは既に書いたように中央銀行の金融政策が市場のテーマになっており、前回のノウハウの部分でも解説しました。
世界の2大中央銀行の金融緩和は終了し、リスク選好の動きもここで終了かと思われました。しかし、実はそこから市場はリスク選好の動きを強めて株高が続いています。
中央銀行の金融緩和は打ち止めとなりましたが、そこで株価も打ち止めとはならずに上昇しているのは、その後の材料が引き金となったからです。
やはり一番大きかったのは米中通商協議の第1段階が合意に至ったということでしょう。2019年12月12日にトランプ米大統領が「米中協議が合意に近づいている」とツイートし、米紙WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)が関税のカットの報道を行うと、ドル円は108円台中盤から109円台に上昇(チャート①)。ダウ平均は2万8000ドル台に、日経平均は翌日2万4000円台に上昇しました。
第1段階での合意とされたのは12月15日に予定していた対中制裁関税の見送り。第1段階の合意は農産品、知的財産権の保護、技術移転強要の問題、金融サービス、為替、貿易拡大、紛争処理などの9項目で、2020年1月をめどに合意文書に署名する予定になっています。
米国は対中関税の輸入品3700億ドル分のうち、第1~3弾で課した2500億ドル分の輸入品に対する関税率25%は据え置きで、9月に発動した第4弾の輸入品1200億ドル分に対する関税率は15%から7.5%に引き下げることになりました。
米国側は中国が農産品、エネルギー資源、工業品、サービスを含む2000億ドル相当の米国製品を購入すると公表しています。農産品の規模は2年間で平均400~500億ドルとしていますが、中国側からはそこまで明確に発表されていません。
今回の第1段階で合意した内容を見ると、これまで米中が争っていた項目がほぼ盛り込まれているようです。一方で、これから何段階も交渉するとのことですが材料はあるのでしょうか? さらに踏み込んだ協議になるのかもしれません。また、対中関税にしても減税されたのは1200億ドル分に対する関税を15%から7.5%に引き下げただけと、これだけを見るとトランプ大統領の圧勝にも見えますが、発表されていない内容があるのでしょうか。
マーケットが一番恐れていたのは12月15日に予定されていた追加関税の発動で、それがあったからこそリスクオンの動きに対して懐疑的でした。発動が回避されたことが重要で内容は二の次だったのですが、発表された内容では米国に有利になっていました。
結局、世界の2大中央銀行が9~10月の金融緩和に転じたことで他の中央銀行、特に新興国の中央銀行に緩和余地が生まれ緩和が続きました。そして、世界中の中央銀行が緩和に向かったので緩和マネーがあふれ、行き場を探していました。
9月までは緩和マネーは債券市場に向かっていました。もちろん量的緩和を行っている中央銀行は自国の国債を買っていますが、9月までは資金が各国の国債に向かい、債券利回りが最低水準まで落ち込みました。
米10年債利回りは9月3日に1.439%まで、米2年債利回りは10月3日に1.464%、ドイツ10年債利回りは-0.743%、フランス10年債利回りは8月29日に-0.435%、イタリア10年国債は9月12日に0.755%と、米2年債利回りを除いてほぼ9月3日前後に最低利回りまで低下しました。
しかし、9月前半を境に世界中の債券利回りは上昇に転じて、米10年債利回りは1.95%、米2年債利回りは1.7%、ドイツ10年債利回りは-0.21%、フランス10年債利回りは0.09%、イタリア10年国債は1.47%まで上昇しました(チャート②)。
米中通商協議やブレグジットといった材料、景況感が低下するなど市場が悲観に傾き、債券市場にお金が向かい利回りがかなり低下したところからだいぶ戻しています。株価のバブルはよく話題に上りますが、むしろ債券価格が上昇(利回りが低下)した債券市場の方がバブルになっていたといえるかもしれません。
株価も8月に底値をつけて9月から上昇トレンドが発生し、現在も続いています。債券市場に向かっていた資金が株式市場に向かっている様子が分かります。
12月17日発表されたバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの12月の機関投資家調査によると、世界株への配分は前月比10%ポイント上昇し、差し引き31%のオーバーウェイトと1年ぶりの高水準に達しました。一方でキャッシュ比率は4.2%となり、2013年3月以来の低水準となりました。
取引が多かったのは米IT、成長株ロング、米国債ロング、投資適格級社債ロングとなりました。これらの資金は12月の米中通商協議が合意される前から増加しており、米中合意でさらに加速する形となりました。
年明けの2日と3日のマーケットでは2日は上昇、3日は下落となりましたが、この2日間の相場は今年の動きを占うものではなかったのかと感じました。
1月2日のマーケットですが、簡単に説明すると株高、債券高、ドル高、円高、ゴールド高となりました。いってみれば「何でも買え」の状況です。おそらく前日に中国人民銀行が預金準備率を0.5%引き下げたことで銀行の貸し出し力が強化され、中国経済にとってプラス材料になったことを受けた資産価格の上昇が要因だと思われます。
一方の1月3日は、米軍がイラン革命防衛隊の司令官を殺害したことによる地政学的リスクの上昇からリスク回避の動きになりました。ダウ平均は233ドル安、米10年債利回りは1.87%→1.793%に低下し、株安、債券高、原油価格と金価格は上昇、為替は円高になりました(チャート③)。久々に典型的なリスク回避の動きとなったのです。
2019年は米中通商交渉の行方がリスク要因でしたが、2020年はこれに中東情勢が加わる形となりました。2020年は引き続き米中問題、中東問題のリスク要因と中央銀行の緩和による資金供給の綱引きが続くものと思われます。
金融政策について
前回は為替変動の原因になる金融政策についてお伝えしました。米国の中央銀行であるFRB(米国ではFedと呼ばれています)は、現状は政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)レートの誘導目標を1.5~1.75%としています。米国にはFed Funds(フェッド・ファンド)市場という短期金融市場があり、これは日本ではコール市場と呼ばれるインターバンク間の短期資金を融通する市場で、ここで短期金利のレベルが決まります。
通常、各国の中央銀行は短期金融市場の金利の上げ下げで金融政策を行っています。しかし、リーマン・ショック以降は多くの先進国で短期金利がゼロ、あるいはマイナスに低下して金融緩和の効果がこれ以上期待できないため量的緩和が行われました。
リーマン・ショックは住宅ローンを証券化した債券が暴落したことが引き金になりました。2008年11月にFRBは政府機関保証のMBS(住宅ローンをまとめた債券)や政府保証債券の買い入れをスタートし、量的緩和が始まりました。
2009年3月には米国債の購入スタートとMBSの購入大幅増額が決定されました。これがQE1と呼ばれるものです。QEはQuantitative Easingの略称で量的緩和を意味します。続いて2010年11月に米国債の6000億ドルの購入を発表。これがQE2と呼ばれるものです。そして、2012年9月にMBSの毎月400億ドルの無期限購入、12月に米国債の毎月450億ドルの無期限購入が決まり、これがQE3と呼ばれるものでした。
三度にわたるQEによってFRBのバランスシートは4.5兆ドルほどに膨らみましたが、米国の資産価格の上昇、景気の回復によってQEの縮小が始まり、2014年10月末にQEは終了しました。買い入れた債券で償還された資金の再投資が行われていましたが、2017年9月に再投資停止を決定したことでFRBのバランスシートは縮小を始め、2019年7月末までバランスシートの縮小が行われました。
そして、景気の減速や米中通商協議停滞による景気の減速などを受けてFRBは予防的な利下げを行うと共に、2019年10月からバランスシートの再拡大を決定しました。
直接的には短期金利の上昇が引き金になりましたが、2019年10月15日から毎月600億ドルの短期国債を少なくとも2020年4~6月期まで継続すると共に、短期金融市場でも少なくとも2020年1月まで資金供給を行っています。
一部では、この資金供給や短期国債の購入はQE4に当たるとの解説もあります。秋以降の米国株の上昇はFRBの資金供給が引き金になった可能性もあり、このような金融相場がいつまで続くかはFRBの姿勢次第となります。
※この記事は、FX攻略.com2020年3月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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