金融リテラシーが身につく YEN蔵の投資大学(アカデミア)|第8回[YEN蔵]

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ハードデータとソフトデータ

 経済指標には、「ハードデータ」と「ソフトデータ」があります。ハードデータというのは、具体的な数値の発表があるもので、生産や雇用など実際の経済活動の結果を示す過去の数値の総称となっています。

 ハードデータの中で代表的な指標といえば、国内総生産(GDP)です。GDPは国内の生産活動によって新たに生み出された付加価値を表したものです。その他、小売売上高、雇用統計、住宅着工件数、貿易収支、物価指標などもハードデータに含まれます。ある意味、実績の数字で、経済の成績表みたいなものです。発表される数字は過去のものになりますから、遅行指標です。

 一方、ソフトデータは具体的な経済の数値というよりも、企業や消費者の心理的な状況を調査した数字といえます。ソフトデータは景況感や見通しなどのアンケート調査を中心とした数字で構成されており、最近マーケットが注目しているデータです。

 ソフトデータは景況感指数、購買担当者景気指数(PMI)、日銀短観、消費者信頼感指数などの指標があります。ソフトデータはもともと速報性があるため、マーケットの先行きを予想する上で注目されていた指標でした。しかし、さまざまな情報がインターネットを通じて瞬時に伝達される昨今、マーケットはそれらの情報に振り回されている面もあります。

 なお、ソフトデータの調査方法は、企業担当者にアンケートを取るケースと、消費者にアンケートを取るケースがあります。いずれにせよ、現場の人間に景況感を尋ねるという方法ですから、景気の変化を比較的早くキャッチできる可能性があります。この点が、景気の転換点を捉えるのに優れたポイントといえます。

 情報を消化する速度が以前に比べて数段と早くなっている中で、ソフトデータは景気の先読み要素として利用できます。特に現状のようなハードデータの数字が弱くなっている状況では、経済の先行きを見る上でソフトデータは重要な役割を果たしています。

 マーケットはハードデータが改善してから動くわけではなく、ソフトデータが改善の兆候を見せたところで、将来のハードデータの改善を期待して動くパターンが多くなっています。あるいはソフトデータの数字が先に弱くなり、将来のハードデータが悪化することを予想してマーケットが先回りして動くというパターンもあります。最近の動きは、後者のパターンに当てはまるのではないでしょうか。

経済指標は大別すると2種類

米国のハードデータ

米国のソフトデータ

 ハードデータの代表である雇用統計について解説します。米国の雇用統計であれば、原則として前月分が翌月の第1金曜日に発表されます。前回も書きましたが、雇用統計は一般的に遅行指標と呼ばれ、経済が減速してしばらくたってから数値が悪化し始めます。反対に経済が回復すると、しばらくたってから数値が改善していきます。

 通常の経済の減速であれば、すぐに雇用が悪化することはありません。しかし、今回のコロナ禍では経済が強制的に急停止されたため、雇用が真っ先に悪化しました。ただ、その数字の変動があまりにも大き過ぎて評価が難しくなっています。

 ちなみに、米国の雇用形態と日本の雇用形態はだいぶ違いがあります。米国では週給制で働いている人も多く、ロックダウンで強制的に休業となった飲食業やエンターテインメントなどの職種においては、レイオフ(一時解雇)されて職を失った労働者が数多く存在するものと思われます。米国は日本に比べてレイオフが容易で、今回のコロナ禍で企業は雇用を維持するのではなく、レイオフして雇用保険を申請してもらうスタンスを取りました。

 続いて米国のGDPについてですが、こちらの数字もかなり時間がたってからの発表になっています。日本の場合、GDPの1次速報は当該四半期終了の1か月+10日間程度で発表され、2次速報は1次速報の約1か月後の発表になります。

 一方、米国の場合は速報値が当該四半期終了の翌月末、暫定値は翌々月末となっています。最大3か月前から1か月前までの数字を確認し、しかもそれが3か月かけて改定していくとなれば、結局確定した数字が分かるのが半年後ということになります。GDPはかなり遅れて発表されるため、短期的なマーケットの予測にはあまり効果的とはいえないでしょう。

 もちろん、GDPの短期の数字には注目しないという考え方もありますが、少なくとも短期のトレードに利用するには有効ではないと思います。

米国のソフトデータ

米国のソフトデータ

 米国のソフトデータには、ISM景気指数があります。これは、全米供給管理協会(Institute for Supply Management)が発表する景気指数で、1931年から続いている統計です。製造業300社以上の購買担当役員にアンケート調査を実施し、集計した結果が発表されます。他の国ではPMIが注目されますが、米国ではこのISM景気指数が景気転換の先行指標として知られています。

 製造業指数に関しては、米国の主要指標の中で最も早い毎月第1営業日に前月分が発表されます。生産、新規受注、入荷遅延率、在庫、雇用、受注残、仕入れ価格、顧客在庫、輸出受注、輸入の各項目を総合的に指数化したもので、指数が50を割ると景気は縮小、50を超えると景気は拡大と判断します。

 一方、非製造業指数は375社以上にアンケート調査を行い、毎月第3営業日に発表されます。公表が開始されたのは1997年で、製造業指数に比べると歴史の浅い指標になっています。

 昨年後半からは米中貿易摩擦で製造業が落ち込み、それを非製造業の好景気が支える展開になっていました。特に先進国では製造業よりサービス業のウェイトが大きいので、最近はサービス業の注目度が高まっているのです。

 米国のサービス業は、GDPに占める割合や雇用に占める割合が大きいという特徴があります。GDPでは政府支出を除いた民間経済のおよそ7割がサービス業によって占められているとされています。先進国はどこもサービス業の割合が大きいのですが、米国の7割というのは特に大きなウェイトです。そのため、もともとサービス業景気指数は注目されている指標でした。

 しかし、今年に入り新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と、それに伴う経済のロックダウンを受けて、サービス業が大きな打撃を受けました。最近は製造業が比較的落ち着いており、サービス業が大きく落ち込む流れになっています。

 これらの他に、米国では全米独立企業連盟(NFIB)中小企業楽観指数(毎月第2火曜日)、ニューヨーク連銀製造業景気指数(毎月15日)、フィラデルフィア連銀製造業景気指数(毎月第3木曜日)、リッチモンド連銀製造業景気指数(毎月第4木曜日)、カンザスシティ連銀景気指数(毎月下旬)、シカゴPMI(毎月最終営業日)などの企業景況感指数が発表されます。

 米国は広いですから地方によって景気の差もあります。ですから、このように地区連銀が景況感を発表しています。ちなみに米国にはボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、クリーブランド、リッチモンド、アトランタ、シカゴ、セントルイス、ミネアポリス、カンザスシティ、ダラス、サンフランシスコの12の地区連銀があります。

米国には12の地区連銀が存在

 これらの指標の中で特に注目されているのが、フィラデルフィア連銀製造業景気指数です。この指数の調査対象地域はペンシルベニア州東部、ニュージャージー州南部、デラウェア州に限定されており、その地域における製造業の景気がどうなっているかを調査した指標です。現状と6か月先の見通しについて調査しています。数値は0が標準になっていて、0より上であれば好景気、0より下であれば不景気と判断します。

 一方で消費者に対する調査もあります。一つは消費者信頼感指数です。消費者に対してアンケート調査を行い、消費者の景気に対するマインドを指数化したものです。民間の経済研究所であるコンファレンス・ボードが発表しています。

 アンケートの質問は現在の経済、雇用と6か月後の経済、雇用、所得に関してです。現在に対する質問は現況指数、将来に対する質問は期待指数として指数化されたものが発表されます。個人消費のトレンドを見る上で便利な指標です。

 もう一つはミシガン大学消費者信頼感指数です。基本的にはコンファレンス・ボードが公表する消費者信頼感指数と同じような指標です。

※この記事は、FX攻略.com2020年9月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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YEN蔵(えんぞう)

米系のシティバンク、英系のスタンダード・チャータード銀行と外資系銀行にて、20年以上、外国為替ディーラーとして活躍。現在はトッププロトレーダーとして為替、日経平均、日経オプション、個別株の取引を行う。投資情報配信を主業務とする株式会社ADVANCE代表取締役。ドル、ユーロなどメジャー通貨のみならず、アジア通貨を始めとするエマージング通貨でのディーリングについても造詣が深い。また海外のトレーダー、ファンド関係者との親交も深い。

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