●聞き手:蛯沢路彦(編集部)
ポートフォリオを組んでから成績好転
蛯沢 ますよしさんは、EAで初期資金50万円を1800万円まで増やした実績があると伺っています。まずは、EA運用を始めたきっかけから教えてください。
ますよし もともと20年前くらいから株や商品先物をやってきて、今までの投資歴は全てシステムトレードでした。それなので、FXについてもシステムトレード、EAでやろうという理由ですね。
蛯沢 20年も前からシステムトレードを続けているんですか! というか、システムトレードという概念があったんですね。その魅力といいますか、メリットは何でしょう?
ますよし 勝つためには手法、資金管理、マインドが必要です。でも、20年前、10年前は手法の情報がなかなか表に出てきませんでした。その点、今はEAがたくさんあって、自分で手法を考えなくて良いというのが、一番の魅力だと思います。
蛯沢 FXでEAを初めて使ったのは、いつごろなんですか?
ますよし EAを使い始めたのは5年以上前ですが、そのころはただEAを買っては、うまくいかずに止めてを繰り返していただけでした。自分でEAを作るというのも試して、といっても自分ではプログラムを書けないので、ロジックを用意して業者に作ってもらうというのをやっていましたが、こちらもうまくいきませんでしたね。その後に本格的な運用になってうまくいったのは、2017年末からです。
蛯沢 2017年末から成績が好転したというのは、どのあたりに理由があると考えますか?
ますよし EAを一つ二つで動かすよりは、10個、20個といった数のポートフォリオで運用し始めたことです。ポートフォリオを組むことでトータルのドローダウンを抑えられるし、それでいて利益も増やせます。そこが理由だと思います。
蛯沢 20個のEAを動かすとなると、選ぶのも大変そうです。どういう基準でEAを買っていますか?
ますよし 世の中にはいろんな意見がありますが、私はリカバリー・ファクター(RF)を重要視しています。RFというのは、純利益を最大ドローダウンで割って求めます。リスクに対して、どれだけのリターンが期待できるか、という指標ですね。RFは、純利益が大きくなれば数値が大きくなるし、ドローダウンが大きくなれば数値が小さくなります。これしか見ていないというと言い過ぎですが、それに近い感覚でやっています。
蛯沢 ポートフォリオを組むにあたって、EA同士の相関性を調べる人もいますが、そのあたりはいかがでしょうか?
ますよし 相関性はもちろん見ていますが、それに先立つEA選びの判断はRFですね。
蛯沢 RFを主軸にするという考え方は、ご自身で考えたんですか? それとも20年前からのセオリーなのでしょうか?
ますよし 自分で考えました。20年前に商品先物をやっていたころからですね。当時はRFという言葉はなかったと思います。
蛯沢 RFを主軸として考えるメリットは、何でしょうか?
ますよし 単純にRFを上げるためには、純利益を増やさないといけませんし、ドローダウンを抑えなきゃいけません。つまりRFが良いというのは、純利益が大きく、ドローダウンが小さい、良いEAだという判断ができます。
蛯沢 なるほど。確かに、RFのみで優秀なEAの判断ができそうです。その他に、EA選びの注意点はありますか?
ますよし 最近の傾向で、バックテストを20年とか、長期でやっているものもありますが、個人的にはそこまでの長期は参考にしていません。というのも、20年前は日本で個人投資家向けのFX会社が現れ始めたタイミングで、スプレッドが今とは別次元の広さでした。そのような時代から0.5pipsで済む時代に移り変わって、市場の動き自体も変わってきていると思うんです。それなので、あまりにバックテストの期間が長いと、かえって最近の相場の動きに対応できないEAになってしまうんじゃないかなと。
蛯沢 それでは、どれくらいのバックテスト期間が参考になると思われますか?
ますよし 5年くらいじゃないですかね。10年でも長いかなと思います。今後のことをいえば、AIの参加者が増えてきたら相場の動きも変わるので、それに対応したEAを探さなきゃいけないと思っています。
シストレ億り人は検証ガチ勢だった
蛯沢 続いて、みんなが知りたいであろう話を伺います。FXでのEA運用を50万円でスタートして、1800万円まで増やしたのだとか。
ますよし そうですね。ただ、1800万円から900万円までドローダウンして、その後は出金するなどして、今の残高は400万円となっています。
蛯沢 50万円をそこまで増やすには、どうやったんでしょうか?
ますよし まず、EAの数、種類を多くしました。そして、ある程度のリスクをとりました。EAの数を多くすれば、ポートフォリオの相乗効果が発揮されます。例えば、EAが1個の場合と、違うタイプのEAを10個揃えた場合で考えると、後者のドローダウンは10倍になるわけではなく、3倍~5倍に抑えることができます。単純な足し算にはならないわけです。ドローダウンを小さく抑えることができますから、そういう意味でEAの種類を多くするというのが一つのポイントになります。
ちなみに、一つのEAを、ちょっとパラメーターをいじってもう一つ設定したとしても、それらはほとんど同じですから、相乗効果はありません。違うタイプのEAを組み合わせる必要があります。
蛯沢 タイプの分散が必要だということですね。
ますよし 先ほど、1800万円から900万円に減ったといいましたが、その理由の一つが、ドローダウン時に同じタイプのEAがかなりあったことなんです。その当時は、70個~100個くらいのEAを同時に回していたんですが、そのうちの約三割がいわゆる朝スキャタイプ(アジア時間の早朝にスキャルピングを行うタイプ)のEAだったんです。ある日、起床したら、かなりの数の朝スキャが同じ方向にエントリーしていて、数分間で100万円増えたり減ったりしてしまう状況でした。結果としてそれで大きくやられて、口座資金を減らしてしまったんです。
そこからの教訓は、同じタイプのEAを運用しても相乗効果は薄いので、分散しないといけないということですね。そのために、Excelにバックテスト結果などのデータを落とし込んで、いろいろと検証しています。このEAを増やしたら、ドローダウンを増やさずに利益を増やせるとか、研究しているわけです。
蛯沢 ポートフォリオの検証を、Excelでやっているんですか! 多くのEAユーザーが利用している検証ソフト、クオントアナライザー(QA)は使いませんか?
ますよし QAは、ロット数を変えられないんですよ。例えば、AというEAは大きく儲かるけど大きくドローダウンするタイプ、BというEAはちょっとしか儲からないけどドローダウンも小さいタイプ…といった二つがあったとしても、QAに入れたら同じロットでしか検証できません。例えば10倍動く方は1ロットに抑えて、動かない方は10ロットに増やす、といった検証をしたいと思うんですが、それがQAではできないんです。
蛯沢 そんな高度な検証をExcelでやっているんですね。お仕事関係で高度な知識があったんですか?
ますよし 仕事はあまり関係ないですね。投資を20年やってきて、その間はずっとExcelを使ってきたので、関数やマクロは一通り扱えるようになっています。
蛯沢 逆にいうと、関数、マクロに詳しくないと、そのレベルの検証はできませんか?
ますよし そうなってしまいますね。
蛯沢 Excelの知識が乏しい身としては、とても残念です。勉強しなきゃいけませんね。では、話題を変えまして、リスクをある程度とったとのお話でした。
ますよし 資金を一気に増やしたいという場合には、リスクを取る必要がありますね。例えば資金が1000万円あって、月に10万円、20万円稼げたら良くて、その代わり資金をあまり減らしたくない…という人は、リスクをとらずに小さなロットでやった方が良いです。そうではなく、50万円くらいから始めて1800万円にしようと思ったら、リスクをとって、レバレッジをかけないとできませんよね。
蛯沢 やはりレバレッジの力を活用するのがポイントですね。
ますよし 私の場合、EAは50万円から1800万円にしましたが、日経225先物では200万円から1億円、ビットコインは30万円から2000万円にしています。共通しているのはレバレッジを活用したことです。資金が倍になったら、ロットを倍にしていくというのを繰り返さないと、小さな資金が何百万円、何千万円と増えていきません。ですけど、どうしても資金がある程度の額まで増えてくると、倍にすることができなくなってしまう人もいるんですよ。数倍、数十倍に増えた資金を守りたくなってしまう。そういった、ある程度で満足してしまう心を、どう抑えるかが問題なんだと思います。それを解決するには、なくなっても良いと思える初期資金でやることでしょうね。
決して甘くはないEA運用の世界
蛯沢 EAの運用って、初心者からすると参入しやすくて、カジュアルなものと思われがちですが、ますよしさんの話を伺うと、すごく高度な分析をしておられます。そういう、決してお気楽ではないという面も教えていただけますか。
ますよし QAくらいは使いこなせた方が良いと思います。理想をいえば私のようにExcelでのロット数調整を含めた検証ができれば良いですが、それはハードルが高いかもしれませんね。そういう意味からすると、複数のEAを運用するにあたってのロット比率について、自分なりの考え方を持てるようになると、ステップアップしたということになるでしょうね。
蛯沢 一番重要なのは、自分で検証することですよね。ちなみに、一度組んだポートフォリオに対して、どれくらいの頻度でメンテナンスというか、入れ替えを行っていますか?
ますよし 理想は、一度組んだら一年くらいそのまま続けることです。ただ、そんな理想通りにはいきません。現実としては、月一くらいですね。自分が想像している以上のドローダウン更新とか、負けすぎているといったことをきっかけに入れ替えることが多いです。
蛯沢 理想としては、いじらないことですか。では、経済指標やイベントなどでオンオフすることはありますか?
ますよし 今までは、動かしっぱなし派でした。その理由は、雇用統計にしろ、FOMCにしろ、全てバックテストに含まれているからです。過去にもの凄く動いた相場を乗り切っての結果なので、それに基づいて回しっぱなしにするべきだと、思っていました。ですが、最近はイベントなどでスプレッドが開くリスクを回避するために、稼働を停止した方が良いと思うようになったので、そうしています。それと、経済指標発表時はボラティリティが上がるので、ロットは落とすべきだと思います。ただ、一つ一つのロットをいちいち下げていられないので、ちょっと難しいことかなとは思いながら、課題としています。
蛯沢 それでは最後にこれからEA運用を始めたいという人へ、アドバイスをお願いします。
ますよし まずはEAに慣れることが大事なので、あまり高いレバレッジをかけないで始めるのが良いと思います。あとは、続けることですね。勝っているときは気分が良くて、誰でも続けられますが、ドローダウンに直面すると止めてしまう人が多いです。どんなに優秀なEAでも、ドローダウンする時期は必ずあるので、やるからには3か月とか半年を最低限のめどにして、たとえドローダウンがあっても続けることが大事です。
蛯沢 初心者は、EAを何個くらい回せば良いでしょうか?
ますよし 初心者なら1個でも良いと思いますが、購入資金があるなら5個、10個と揃えて分散するのが良いと思います。
蛯沢 5個、10個で始めようとする場合、どんなEAが良いでしょうか?
ますよし そこは、その人の好みの問題ですね。初心者は勝率が高いEAを好むかもしれませんが、本来は勝率ってEAの性能に関係ないと思っています。RFの方がよっぽど重要です。ただ、実際に運用するとなると、低勝率のEAは精神的にゆらいでしまうこともあるのかなとは思います。そういう意味では、勝率もある程度は意識して良いかもしれません。勝率65%~70%以上のEAを選べば、運用しやすいのではないでしょうか。逆に勝率90%ともなると、最大負けトレードがすごく大きいコツコツドカンタイプになるので、注意が必要です。
※この記事は、FX攻略.com2019年8月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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