NY原油初のマイナスでも全体の反応は比較的穏やか
執筆時点(2020年4月下旬)の国際金融市場における最大の“事件”と言えば、それは「まさに驚天動地のNY原油初のマイナス価格」ということになるだろう。
周知のとおり、NY原油(WTI)先物5月限の価格は4月20日に一時マイナス40ドルまで急落することとなった。これは、折からのコロナショックで原油需要が世界的に激減し、実需の買いが消滅するなか、先物の限月交代に伴う売りを市場が吸収できなかったことに因る。
口さがない一部の関係者は、このときの現象を「粗大ゴミの有償処理」に例えていた。言い得て妙と思えなくもないが、冷静に考えれば「恐ろしい感染症のパンデミック(世界的拡大)下で生じた先物取引に固有のテクニカルな出来事であったに過ぎない」と捉えることもできる。
むろん、世界が共に協調して新型コロナウイルスとの戦いに挑もうとしている状況にあって、それでも直ちに具体的な対応策を繰り出すことができないサウジアラビアやロシア、米国などといった産油国のリーダーらの罪は大いに咎められるべきである。
ただ、それも言うなれば「時間の問題」ということになろう。本稿が読者の皆様の目に留まる頃までには、産油国の各リーダーが「背に腹は代えられない」とばかりに何らかの緊急対抗策をひねり出してくるに違いない。
むしろ、ここで注目しておきたいのは、NY原油先物価格が史上初のマイナス価格に陥るという実にショッキングな出来事があったわりに、金融市場全体の反応は比較的穏やかであったということである。
VIX指数の40前後はドル円も動きにくい
たとえば、NY原油先物価格が急落した日と同日のNYダウ平均は前営業日(17日)終値比で592ドルの下げに留まった。4月初旬(2日)の安値から同月17日高値までの上げ幅が3500ドル超もあったことを考え併せれば、600ドル弱の下げなど「調整の範囲内」と言える。
そもそも「NY原油初のマイナス価格」なのであるから、感覚的にはNYダウ平均が一旦2000ドルぐらい押し下げられてもおかしくはないといった程度のインパクトと言える。その実、振り返れば3月初旬以降にNYダウ平均が2万ドルを割り込んで、一時的にも1万6000ドル台前半の水準まで急落するに至った最初のきっかけは、一つに石油輸出国機構(OPEC)プラスにおける協調減産を巡る協議が決裂し、原油先物価格が急落したことにあった。
もちろん、その当時から執筆時までの間には、米国をはじめとして日欧などでも大胆で大規模なスケールの政策が其々の政府・当局から矢継ぎ早に打ち出されることとなった。そして、その点こそが今注目すべき最大のポイントであると言える。
結果、徐々に市場は安定した状態を取り戻しはじめ、一頃は80を超えていたVIX(恐怖)指数も執筆時点では40前後の水準まで低下してきている。むろん、このVIX指数が一つの判断の境目とされる40を下回る水準で安定的に推移するようにならない限り、なかなかリスク資産への投資に対して積極的にはなりにくいということも事実ではある。そして、そのためにはやはりパンデミック終息のメドが、ある程度はつくようになることが重要であろう。
よって、今しばらくドル円は上にも下にも動きにくい状況が続くと見ておくのが適当であろう。少なくとも、執筆時は直ちにドルだけが力強く買い上げられるといった状況でもない代わりに、一方で円だけをどんどん買い進むといった状況でもない。
実際、4月半ば以降のドル円は執筆時まで非常に狭い値幅の中でのもみ合いに終始し続けている。どうやら、VIX指数が40前後の水準をウロウロしているというのは、そういうことなのではないかと思われる。
SARSの事例を参考に今後の行方を見据える
はてさて、いまだ先行き不透明なコロナショックの影響と金融相場の行方について、現状においては一体どのように考えれば良いのだろうか。
3月下旬に米連邦準備制度理事会(FRB)の元議長、ベン・バーナンキ氏が米CNBCのインタビューに応えて非常に示唆に富む発言をしていた。バーナンキ氏曰く「ウイルス感染と世界恐慌とを比較して考えるのは間違っている」「世界恐慌は人為的なものだが、ウイルスは自然災害のようなものである」。この発言に筆者は強い共感を覚えた。
そうであるとするならば、今後を見据えるうえでの参考となり得るのは、世界大恐慌やリーマンショック時の事例などではなく、2002年から2003年にかけて世界で猛威を振るった「重症急性呼吸器症候群(SARS)」の事例ということになるだろう。
ここであらためて当時の状況を紐解いておくと、SARSは2002年11月に中国で集団感染が表面化し、その後は徐々に感染が世界的に拡大して、翌2003年3月に世界保健機関(WHO)が「注意喚起」に踏み切った。この間(約4か月間)、世界の株価は下がり続けたわけだが、実のところWHOから注意喚起がなされた時点がボトムで、その後は相当な勢いで上昇を続けた。
つまり、世界の株価が底入れ・反転してからもウイルスの感染は暫く拡大し続けていたが、最終的にWHOが「終息宣言」を出した2003年7月よりも4か月ほど前から、すでに世界の株価は前倒しで「終息後」を織り込み始めていたのである。
これを今回のケースに当てはめた場合、仮に新型コロナウイルス感染拡大の終息宣言が8月頃に為されるとすると、世界の株価は既に上昇局面に入っていてもおかしくないということになるのである。もちろん、市場関係者の中には「これから2番底を見に行く可能性に要警戒」とする向きも少なくはない。それは、これから今年3月以降の景気データや米・日企業の決算結果、今後の業績見通しなどが明らかとなり、その多くが“実態悪”として表面化することに因るとされ、それも一つの道理ではある。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大の酷い影響は相当分がすでに相場に織り込まれている可能性が高いと見られることも事実である。また、誰もが口を揃えて「2番底」の到来を警告するといった状況にあって、果たして「実際に彼らの予想通りに事が運ぶなどということがあろうか」という思いもないではない。
より現実的には、前述したように世界の各国・地域からこれまでにも矢継ぎ早に大胆な対応策が打ち出されてきていることに注目したい。加えて、主要国がかつてないほどに協調体制を強固なものとし、ことに治療薬やワクチンの開発、医療機器の増産などで協力を約束し合っている点は見逃せない。月並みながら「強気相場は悲観の中に生まれる」。そう遠くない将来、希望の光は確実に見えてくることとなろう。
今しばらくは為替相場も株価睨みの展開を続ける
主に、米・日の株価に関わる話題が続いたが、それは目下の外国為替相場がとかく「株価睨み」の展開に終始することが多いからである。たとえ、欧米時間が終了して東京時間帯に突入してからも、時間外で取引されるダウ先物の値動きなどを睨みながら為替相場が変動するケースは多い。他に、これといった手掛かり材料が見出せない、見出しにくいということもその一因と考えられる。
米国をはじめとした主要国の経済指標や景気データは、とにかく酷い内容のオンパレード。それは、これまでに相当程度織り込んできたし、そもそも「感染症の拡大」が最大要因となって不況に陥るパターンにあっては、過去の数値・データに基づいて将来を予測できるわけもない。
経済的な数値やデータがあてにならない今は、米国内の一部の州で感染拡大がピークアウトした可能性であるとか、幾つかの治療薬で有効性が確認される可能性などが相場を動かす材料となるのも致し方ない。むろん、そこにある可能性や期待は基本的に不確実性が高いものであるということも理解したうえで、当面は相場と向き合わねばなるまい。
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手掛かり材料に乏しいときはテクニカルがより重要となる
もちろん、手掛かり材料が見出しにくい状況下にあっては、やはりテクニカル分析の手法に基づく判断もより重要となる。
前回更新分の本欄では、ユーロドルについて「やはり当面の上値余地は限られると見ておく必要がある」「チャート上の節目としては、31週移動平均線や62週移動平均線、そして(一目均衡表の)週足『雲』の存在が上値を押さえやすい」などと述べた。
そして案の定、3月下旬以降のユーロドルは、執筆時点までずっと31週移動平均線や62週移動平均線、週足「雲」といった重要な節目の上方からのプレッシャーに押さえ込まれ続けた(チャート①参照)。
加えて、目下(執筆時)の注目は下方の重要な節目である1.0800ドル処をクリアに下抜ける動きとなるかどうかという点である。同水準をクリアに下抜ければ、そこからはテクニカルに下値余地を拡げやすい。場合によっては、3月下旬安値の1.0635ドルを試しに行く可能性も十分にあると見られる。
一つのカギを握ると見られるのは、今後の欧州連合(EU)首脳会議においてユーロ共同債(コロナ債)の発行を含む「新型コロナ復興パッケージ」で詳細な合意が得られるかどうか。4月下旬に行われた会議では最終的な合意に至らず、市場は一旦ユーロに売りを浴びせた。
執筆時点では、イタリア国債の上昇傾向に歯止めがかかっておらず、それが過去の欧州債務危機を彷彿とさせることでユーロ不安を煽る格好となっている。
仮にコロナ債の発行が現実のものとなっても、欧州の財政負担が膨張し続けていることに変わりはない。むろん、将来的な財政不安は米・日にとっても他人事ではないわけで、その点は一つに「コロナ禍の封じ込めにいかに早期にメドをつけるか」にかかっていると言えるだろう。
※この記事は、FX攻略.com2020年7月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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