為替相場と戦い続けているからこそ、見える景色もある——ディーラー歴30年を超える水上紀行さんと、一般トレーダーの私たちとでは、相場の見え方、捉え方に決定的な違いがあるようです。その違いとは、果たして何なのでしょうか? プロの目に映る、トレンド相場とレンジ相場の実態を教えてもらいます。
知っておくべき二つの相場つき
私は、よくトレンド相場やレンジ相場についての話をします。それは、実はそれぞれの相場つきによって、天国と地獄を見たことがあるからです。そのため、二度と同じことを繰り返すまい、また読者の皆さまには同様の目に遭ってもらいたくないと思っています。
トレンド相場には起承転結がある
まず、トレンド相場からお話ししますが、上げの相場であれば、買って持ち続ける、いわゆる「バイ・アンド・ホールド」することによって、大きく儲けることができます。実際、3か月間、「米ドル/円」のロング・ポジションを持ち続けたことによって、当時在籍した銀行の歴代ディーラーの中で、一番儲けたことがありました。
しかし、それにはつらい後日談がありますので、後ほどレンジ相場のところでお話ししましょう。その前に、トレンド相場の特性をさらに掘り下げてみたいと思います。
トレンド相場には、起承転結があります。起承転結とは、文書の書き起こしで読者を話に引き込み(起)、主題を展開し(承)、視点を変えて興味を引き(転)、全体をまとめる(結)ということです。 この言葉のように、相場の世界でも、特にトレンド相場の展開では同じようなことが短期間に起き、そして繰り返されていると見ています。
トレンド相場の場合、あたかも一方向にどんどん上がっていくように見えますが、1日あるいは2〜3日の中で、例えば上げ相場であれば、新値を更新する上昇があり、その後買い過ぎからの調整的な下げがあり、今度は上を見たとばかりにショートができ、そして踏み上げられて買い戻し、新たな高値を更新する……と繰り返されることが多く見受けられます。
こうした一連の相場展開を、個人的には相場の起承転結と呼んでいます。トレンドが強ければ強いほど、この起承転結がはっきりと出ます。つまり、しっかりと売り込んでマーケットポジションがショートにならなければ、上げ続ける原動力は生まれないといえます。
私が上げで大儲けしたときも、シンガポールや香港の米系銀行が、買い過ぎだとばかりに、毎朝、強烈に売ってきましたが、本邦の機関投資家が買い続けていたため下がらず、ロンドンオープンのころには、毎日損切り的に買い戻してきました。
そういうわけで、一本調子の上げ相場でありながら、高値を買うだけではなく、押し目を買ってエントリーするチャンスもあるわけですので、そうしたチャンスを焦らずに待つことが大切です。
レンジ相場は3段階から成る
大儲けの後、大きくやられましたが、それは調子に乗ってしまったのも敗因でした。しかしそれ以前に、レンジ相場とは何たるかを、実際には分かっていなかったことが大きな原因でした。 大きく負けた後、ペナルティーボックスへ自発的に入って、敗因を徹底的に調べました。そして、レンジ相場の構造が分かりました。
これは、今でもあまり知られていないようですので、参考にしてください。レンジ相場には、3段階があります。トレンド相場の後にくる荒っぽく上下動する危険な第1段階の「乱高下期」、一定の値幅の中で落ち着いて上下動する第2段階の「安定期」、それ以上に値幅が収束し、実は新たなトレンド相場の開始が近づいていることを示す第3段階の「収束期」です。
私はレンジ相場の第1段階の荒っぽい相場で、まだトレンド相場が続いていると思い込み、上がれば買い、下がれば売りを何度か繰り返しただけで、トレンド相場で儲けた利益を大きく減らしました。
トレンド相場は先にも述べましたように「起承転結」がありますが、それとレンジ相場の「乱高下期」との違いは、脈絡なくしかも上下の振れ幅も尋常ではないため振り回されてしまい、ズタズタになるということです。
ですので怖いのは、せっかくトレンド相場で大儲けをしても、この「乱高下期」に利益を減らしたり、あるいは飛ばしてしまったりすることです。私はこの「乱高下期」でもみくちゃになり、最終的に損失は取り戻しましたが、レンジ相場の怖さを身を持って知りました。
第2段階の「安定期」はまさに安定期で、ある一定のレンジの中で行ったり来たりします。トレーディングとしては逆張りが向いていますが、期間的にはあまり長くはありません。
第3段階の「収束期」は、「安定期」以上に値幅は狭くなり、逆張りもあまり儲からなくなります。しかし実は、この収束期は大変重要な時期です。値幅が収束する意味は、レンジ相場が終了し、トレンド相場に移行するサインだからです。
ここで、実は多くの人が経験していることがあります。それはレンジ相場で、こう着しているので、上がれば売り、下がれば買いを繰り返していたところ、突然相場がワンウェイ(一方通行)に走り出し、逆張りポジションでとんでもない損失を出してしまうことです。
この「収束期」からトレンド相場への移行も、トレンド相場からレンジ相場への移行並みに非常に危険です。次の項で、この相場の移行期にいかに気づくかについて、お話ししましょう。
トレンド→レンジへの移行を知るには
上昇トレンドであれば、上昇トレンドの下値と下値を結んだトレンドラインが、単純に引けると思います。このトレンドラインをひとたび割ったら、やめるが勝ちです。しかし、それでは確信が持てないようであれば、その後の乱高下を少し体験してみることです。
その代わり、その体験にどれぐらいコストがかかるかは保証の限りではありません。少なくともいえることは、トレンドラインを割ったという事実から目をそむけないことです。
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レンジ→トレンドへの移行を知るには
前述したトレンド相場からレンジ相場への移行よりは、ある意味合理的な察知方法がありますのでご紹介しましょう。方法は、以下二つがあります。
① 複数の移動平均線の収束
私の場合、日足では5日、10日、25日、90日、120日、200日の各移動平均線を見ています(図3参照)。 このうち3〜4本ぐらいが日足近くで収束してくると、レンジ相場からトレンド相場へ移るタイミングが近づいていることを示します。
そして、複数の移動平均線が収束しきると、上か下かどちらかに相場が一方向に動き出す習性があります。 特に、寄り付きと引け値が近くて、上下にヒゲが出る、いわゆる寄せ線(よせせん)が出た翌日に動き出すことが多く、複数の移動平均線が収束してきたら、この点を見逃さないようにすることが大切です。
また、それとは別に注意しておきたいのは、収束に要する期間は思いのほか長いのが一般的ですので、次のトレンドを逃すまいと焦らないことです。一旦上げか下げかにブレイクしてからでも、相場へのエントリーは遅くはないと思っています。
② ボリンジャーバンド5日間
ボリンジャーバンド5日間(図4参照)との出会いは、かれこれ25年ぐらい前になります。ニューヨークに駐在していたある日、ある邦銀ニューヨーク支店にいたディーラー仲間の一人であるK君から電話がありました。K君は単刀直入に、「水上さん、面白いものを見つけましたよ」といってきました。それが、ボリンジャーバンド5日間との出会いでした。
ボリンジャーバンド5日間は、通常のボリンジャーバンドの20日間とか21日間とは全く使い方が異なっていて、レンジ相場からトレンド相場への移行のタイミングを示してくれるものです。 相場に乗るためには、もちろん正しい方向へのエントリーが必要です。そして、多くの方が、相場の方向性についての予測は当たっています。
問題は、この移行のタイミングです。多くの場合、入るべきタイミングより早くマーケットにエントリーするために、苦労することになります。一番悔しいのは、方向は合っているのに入るタイミングが早過ぎ、そのためにあおられて損切りした後に、意図した方向に相場が動き出すことです。
そのエントリーのタイミングを教えてくれるのが、ボリンジャーバンド5日間です。上下のバンドが収束し、そして平行になると、上下いずれかにレンジブレイクするタイミングがきたことを示します。やはり複数の移動平均線と同じく寄せ線が出ると、さらに動く可能性が高まります。このように、ある程度客観的に相場の変わり目を知ることはできます。
複数の移動平均線のところでも申し上げましたが、相場が動くというフィーリングが湧いても、実際に相場が動き出すまでには、予想以上に時間がかかるものです。したがって、まずは焦って相場に飛び込まないことです。そして、できるだけ良い持ち値で相場にエントリーすることを考えることが大切です。
なお、複数の移動平均線の収束、ならびにボリンジャーバンド5日間共に、タイミングは教えてくれても、方向は教えてくれませんので、ご自身の相場観や、他の分析ツールとの併用が必要です。
また、「緊急地震速報」的に、相場が動くタイミングが近いということを知って身構えるだけでも、意義は大きいと思います。
※この記事は、FX攻略.com2017年2月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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