Trade War(貿易戦争)と米国経済成長[森晃]

本国投資法の実施でドル買いが増える

ホワイトハウスと議会の間で、税制改革が進まない。2018年中までには決まるであろうが、2017年には決めてほしいと思っている投資家はたくさんいるであろう。オバマケアと税制改革という目玉の公約は先に進まないが、規制緩和の関連法案は確実に成果を上げている。ここで法人税が引き下がれば、企業にとって規制緩和と減税との両輪がそろうことになる。ただし、企業が積極的な投資をするかどうかが経済成長の鍵となるであろう。

為替の方向性を探る上で、米連邦準備制度理事会(FRB)の人事を含め金融政策に注目が集まるであろうが、米国経済界が強い関心を持っているもの(ここでは「底流」と呼んでおく)が何であるかを知っておく必要がある。

例えば、コーン国家経済会議(NEC)委員長は「米法人税率を35%から少なくとも経済協力開発機構(OECD)の平均の23%まで引き下げ、米国への投資を促す」と発言している。実際、ブッシュ政権下で行われた本国投資法(通称:レパトリ減税)が実施される可能性が高く、そうであるならドル買いが起こる。今回、本号で取り上げるのはもう一つの底流である貿易問題である。 

米中貿易摩擦の兆し 

4月にフロリダ州にあるトランプ大統領の別荘マール・ア・ラーゴで米中首脳会談が行われた。トランプ大統領と習国家主席の間で米中の貿易問題に関して理解と解決のための進展があったが、北朝鮮の核ミサイル問題が転機かどうか分からないが、最近貿易問題にも大きく溝が広がったように筆者は感じている。

2001年、中国は世界貿易機関(WTO)に加盟した。米国は当初、貿易不均衡が解決するとの思いから歓迎ムードであった。中国政府からの「技術移転要求」を弱めることができ、多大な投資をしている米国企業には中国企業と同様の扱いがなされ、ビジネスチャンスの拡大を期待した。しかしながら、米国の期待通りにはならなかった。中国市場の大きさを生かし安価な商品を輸入するビジネスモデルのため、技術移転への要求問題については棚上げになっていた。しかし、いつまでも保留するわけにはいかず、中国政府に対して技術移転の要求を産業政策に用いないよう米商工会議所は抗議している。

ロス商務長官は米国が不公平な自由貿易を強いられてきたと一貫して主張している。例えば、米国に輸入される欧州車には2.5%の関税率がかかる(中国に輸入される欧州車には25%の関税率がかかる)。その一方で、欧州が米国車を輸入するには10%の関税率がかかっていると不公平な関税率について議論している。

日米貿易摩擦への発展はあるのか?

日本では豪州産牛肉の値段が高騰したことで、米国産牛肉の輸入が増大した。そこで、米国産などの冷凍の輸入牛肉に対し、緊急輸入制限(セーフガード)が8月1日から発動された。米国産牛肉に対しての関税率が、38.5%から50%へ引き上げられた。米国産牛肉を売り込みたいトランプ大統領にとって関税率の引き上げはどのように映るであろうか。おそらく日米貿易摩擦には発展しないであろうが、北米自由貿易協定(NAFTA)に神経質になっているトランプ大統領から、牛肉問題について突発的な発言があるのではないかと気が気ではない(※1)。  

※1 日本の自動車業界も、自動車の製造基地を米国からメキシコに移転させているためNAFTAの交渉の進捗には関心が深い。加えて、メキシコ・ペソの変動にも敏感である。

貿易赤字とドル・インデックスの関係

貿易赤字とドル・インデックス(図①)の間には、逆相関の関係があった。しかし、近年このような逆相関の関係が見られない。そのため今後のドル政策として、貿易問題はかつてよりクローズアップされるであろう。貿易赤字の問題は米国の経済成長とも密接に関係しており、米国のビジネスモデルを今後どのようにするかという問題に置き換えられる。

トランプ大統領の経済チームは、米国は3%の経済成長が可能だと議論がなされている。FRB議長候補であるテイラー教授(スタンフォード大学)、ウォーシュ前FRB理事、ハバード教授(コロンビア大学)の3人も、トランプ大統領の主張する3%成長は減税によって可能だとする論文を書いている(※2)。仮に、3人からFRB議長が選ばれるようであれば、金融政策は減税による経済成長を支援するためのツールとなるであろう。

※2 http://www.hoover.org/sites/default/files/research/docs/on_the_prospects_for_higher_economic_growth_0.pdf#overlay-context=research/prospects-higher-economic-growth

IMFレポートによる「円」の評価

貿易問題となれば、均衡為替レートがいくらになるかが議論される。米財務省は、「米国の主要貿易相手国の外国為替政策に関する報告書」を年に2回連邦議会に提出する。そして、メディアは為替操作をしている国はどこかと騒ぎ立てる。

あまり話題にならないが、これとは別に国際通貨基金(IMF)も各国の為替レートについて評価をしている。レポートによれば、円はドルに対して7%安く評価され、2015年の11%からは改善しているとの評価であった。ドル円は102円前後の水準であれば心地の良い値を意味することになる。

底流を知っておくと、大きな波に逆らうことはない。次の流れを知ることは、明日の投資につながるであろう。

※この記事は、FX攻略.com2017年11月号の記事を転載・再編集したものです

森晃の写真

森晃(もりあきら)

エコノミスト。シンクタンク(アメリカ合衆国)に所属。専門分野は、為替政策、金融政策、マクロ経済政策、金融規制。市場関係者、金融当局者、政策当局者と交流し、多方面から為替の動向について分析を行っている。