為替にとって金利はファッションか[森晃]

12月中旬、米国の高校生、大学生、大学院生はファイナル・テストのために必死になって勉強する。教師は、そのテストの採点と成績付けに追われる。それが終われば、楽しいクリスマス休暇が始まる。

そして、年が明ければ2018年がスタートする。筆者は、ニューヨークのタイムズ・スクエアのカウントダウンを生で見たことはない。いつもCNNで見る。テレビで見ても、それは圧巻である。拙文を読んでいただいている読者の皆さまに感謝すると同時に、2018年も素晴らしスタートが切れることを希望する。

※この記事は、FX攻略.com2018年3月号の記事を転載・再編集したものです 

2017年から学ぶこと

2017年のマーケットは、マーケットのリスクではなく、政治的なリスクや地政学的なリスクをにらみながら取引する1年であった。しかしながら、これらのリスクは、相場に大きく影響しなかった。

株式市場は、熱からず、冷たからずの『ゴルディロックス』相場が続き、投資家にとって投資利益を得るには素晴らしい1年であった。為替市場は、ドル円のレンジはざっくりいえば107円から115円であった。

エコノミストの多くは、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融政策の引き締めと日本銀行による金融政策の緩和継続を予想し、その金融政策の温度差から、金利差に注目してかなり大幅な円安を予想する声もあった。

しかしながら、ドル円はレンジ内での変動にとどまった。筆者はこのことにあまり驚いていない。FRBによる利上げのサイクルと過去のドル円の動きを分析していれば、FRBが利上げサイクルに入る前にドルは強くなり、実際にFRBが利上げを始めるとドルは弱含む傾向にあることは分析できたであろう。

過去を分析することは未来を予測するために絶対役立つとまでいえないが、2017年は過去の分析が、為替への投資戦略を立てるのに大きく役立った年であったと思われる。

2018年に考えることは 

多くのエコノミストは、2017年同様に2018年も金利政策、金融政策の温度差に注目し、それを投資戦略の軸に据えるであろう。しかし、金利政策、金融政策だけに注目することによって為替相場がどのように動くか予想するのは難しいであろうとするのが筆者の立場である。

確かに、経済を回復させたり、経済を持ち上げたりするための手段として、政策当局者は金融政策、財政政策などさまざまな政策を考える。そして、これらの政策の中で、一番即効性があり、最も効く薬は金融政策であることは疑うべきものではない。

しかしながら、各国が経済政策について話し合いをした結果、通貨安を誘発するため、これ以上の金融政策の乱用は慎むべきとするのが共通認識である。ならば、各国は自国経済を成長させるために何をすべきかが、2017年に引き続き政策当局者のテーマである。

米国の経済成長のための税制改革と利上げの見通し 

トランプ大統領の経済チームは、サプライ・サイド経済学を基本に経済政策を推し進めている。今までと大きく異なる経済政策は、税制改革である。12月に、ある大学が学者に税制改革がどれだけ経済成長に貢献するかサーベイをした。その結果、学者の間では、税制改革が経済成長に貢献するとするトランプ経済チームの見通しに対して懐疑的であった。

しかし、株式市場はこの税制改革をかなり高く評価し、株高の要因となっている。イエレン議長も、税制改革の影響により、需要が増加することで投資が刺激されサプライ・サイド(供給側)も強まるだろうと記者会見で答えていた。

この発言から考えられることは、サプライ・サイドが強まることで経済が成長した場合、現在と同じく緩やかなペースでの利上げが可能であることを説明したと筆者は感じた。同時に、イエレン議長の発言はパウエル新議長への遺言書のようなものとして記者会見で披露したのではないかと感じた。

税制改革の進捗具合  

15日時点であるが、米共和党は、法人・個人減税などについて税制改革法案をまとめた。それによれば、法人税率は2018年から21%に引き下げられる。また、為替に影響を与えるレパトリ(米企業が海外に滞留させている利益を米国に戻す際にかけられる税率)は、現金への税率が35%から15.5%に引き下げられる。

この税制の改正は、ドル買いの実需となるため、金利以上に為替に大きな影響を与えるのではないかと考えられる(どの程度影響するか、慎重に見定める必要がある)。 

巡り合わせ

イエレン議長は、利上げ、保有資産の縮小を進めながら景気失速をもたらす可能性があるため、慎重な金融政策を取りつつ、米国経済を成長させた。イエレン議長の業績に敬意を払いたい。

パウエル新議長も歴代議長と同じく立派に与えられた責務を果たすであろう。ただ、米景気拡大がいつまでも続くものではない。議長として、それをどのように回復させるかの責務について、市場から信任が問われる場面が任期中にあるのではないだろうか。

金利差はファッションと書いたが、米国の長期と短期の金利差(イールドカーブのフラット化)には注目すべきであろう。なぜなら、過去にならえば、フラット化後、1年半以内に景気後退が起こっているからである。しかし、イエレン議長は、FRBが政策スタンスを若干引き締め方向に動かすだけで、イールドカーブはより簡単に逆転し得る環境にあるとし、フラット化と景気後退の因果関係に否定的な認識を示した。パウエル新議長はどのような認識を示すか注目すべきであろう。 

※この記事は、FX攻略.com2018年3月号の記事を転載・再編集したものです 

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森晃(もりあきら)

エコノミスト。シンクタンク(アメリカ合衆国)に所属。専門分野は、為替政策、金融政策、マクロ経済政策、金融規制。市場関係者、金融当局者、政策当局者と交流し、多方面から為替の動向について分析を行っている。

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