10年債の利回り格差と為替相場の関連性[太田二郎]

米税制改革法案と利上げスピードに注目

最近のドル相場は米10年債利回りの低下でドル売りの流れが強まり、米2年債利回りが9年ぶりの高水準へと上昇してもドル買いに結びつかない傾向が強まっています。年末・年始に向け、円相場と米10年債利回りとの関連性がより強まる傾向に改めて注目したいと思います。また、長短利回りの縮小傾向は止まらず、2007年11月以来となる10年ぶりの水準となっています。関係性はないと思いますが、2008年の忘れようのないリーマンショックが脳裏に浮かんできます。

為替相場の変動要因は相変わらず多く存在しますが、米国では税制改革法案の行方と米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げスピードが重要となっています。米税制改革法案では、鍵を握る上院で争点の一つとなっていた個人医療保険加入義務の廃止を容認する意向を示し、法案の可決に近づいていると思われています。

米国の12月利上げ期待度は非常に強く、仮に米税制改革法が成立すれば来年に4回の利上げが必要になるという意見もあります。また、米国内総生産(GDP)成長率を2.5%と予想するなど、強気な見通しも変わっていません。ただ、FRBは11月22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録で雇用が拡大しているにもかかわらず、インフレ率がなぜ目標を下回り続けているのかを巡り困惑していることも事実です。

不安材料を抱える英国ポンド相場の行方は?

英国ではブレグジット・リスクを意識せざるを得ない状況に変わりありません。保守党議員多数がメイ首相の退陣を求めて署名しており、首相の信認が急速に低下しています。また、英政府は11月22日に英成長見通しを2017年2.0→1.5%、2018年1.6→1.4%、2019年1.7→1.3%と下方修正するなど、ポンドに対して不安材料も残ったままです。

イングランド銀行(BOE)は、ポンド安抑制の動きが続くとの予想を変えていません。11月2日に10年ぶりに政策金利を0.25→0.50%へ引き上げましたが、その後の早期追加利上げ期待度は弱く、カーニーBOE総裁も今後は非常に穏やかな利上げが必要と表明しています。

ブレグジット交渉では、欧州連合(EU)側が予算拠出の約束とEU公務員の年金など将来の義務的経費の負担を合わせて最低600億ユーロを英政府に求めているのに対して、メイ首相は約200億ユーロの予算支払い履行を約束していますが、直近になってさらに200億ポンドの上積みに応じるのではとの思惑もあります。いずれにしても12月と来年1月のEU首脳会議の行方は特に重要で、2019年3月29日のタイムリミットに向けて交渉を加速できるかがポンド相場の鍵になることに変わりありません。

ECBが資産購入額の減額と期間延長を決定

ユーロ圏では、ブレグジット・リスクに加えて独政局の不安が新なテーマとして付け加えられています。連立与党の独自由民主党(FDP)が、難民・移民と環境・エネルギー政策でメルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、緑の党との連立交渉を打ち切ったことは予想外の結果といえるでしょう。連立協議の先行きによっては、来年に総選挙の可能性もあります。少数政党との大連立を目指すか、FDPを説得させる以外に方法はなく、通貨ユーロにとっては不安定な状況が続くことになりそうです。

欧州中央銀行(ECB)は10月26日に政策金利を据え置き、資産買い入れ額を600→300億ユーロへ減額することを決めました。資産買い入れの期限を来年1月から9月末まで延長しましたが、必要があれば再度延長すると強調、直後からユーロ売りが強まったことは皆さんの記憶に残っていると思います。

ドラギECB総裁は11月20日の欧州議会の演説で、「ユーロ圏における景気回復の足取りはしっかりとしているが、賃金の上昇を支えるためにECBは金融刺激策を維持する必要がある」と発言。最近のユーロ圏経済の景況感は強さが見られ物価の緩やかな上昇に緩和縮小傾向は間違いないものの、積極的に動けるかは今後の課題となっています。

日本では、衆議院選で予想外の与党圧勝と株高の中でも、日米貿易摩擦の再燃を意識してなのか円安傾向を維持できずにいます。海外勢による株高と円安を期待した投機的な円ショートポジションの解消や本邦機関投資家の円売りも続かず、相変わらず大きなレンジ内での相場が続いています。

10年債利回り格差と通貨の変動が類似

さて、ここで10年債利回りの格差と為替相場の関連性を見てみましょう。チャート①は、「米日10年債利回りの格差とドル円相場(逆数)」「米2年債利回りの格差とドル円相場(逆数)」「米独10年債利回りの格差とユーロドル相場」「米英10年債利回りの格差とポンドドル相場」を2017年1月から週足で表したものです。

ご覧の通り、米10年債との利回り格差と通貨の変動が非常に似通っていることが分かります。中銀が設定する短期金利は量的緩和策の実施で既に12兆ドル規模に膨らみ動きが固定される反面、為替市場はより長期債の変動に敏感になっているように思われてなりません。一般的に為替相場は政策金利に連動し低金利通貨が売られ、高金利通貨が買われる状態が普通でしたが、最近の傾向としてはこの連動性が崩れていることがこのチャートからも理解できると思います。

※この記事は、FX攻略.com2018年2月号の記事を転載・再編集したものです

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太田二郎(おおたじろう)

FXストラテジスト。1979年にザ・ファースト・ナショナル・バンク・オブ・ボストン東京支店にてFX取引を始める。後にマニュファクチャラーズ・ハノーバー・トラスト銀行、BHF銀行、ナショナル・ウエストミンスター銀行、ING銀行で法人向けの為替取引に従事、その後、リテールFXに従事し、米国のGFT東京支店で営業、後にマーケット・ストラテジストを経験、現在は個人投資家として活躍。

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