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人工知能(AI)と為替(FX)|AI搭載型自動売買[Halu]

世界最大級の投資銀行ゴールドマン・サックスでは、2000年に600人いたトレーダーが、2017年にはわずか2人に。トレードする人間はAIに取って代わられている――という情報を見聞きするようになりました。そうした情報により、人間の能力を凌駕したAIが市場から利益を吸い上げる、そんな時代になったのだと想像する人も少なくないようです。果たして、現実はどうなのでしょうか?

この企画では、本邦ヘッジファンドでAIを開発する月光為替さんと、AI搭載型自動売買を完成させたHaluさんにご協力いただき、「そもそもAIとは何なのか」「市場で何をしているのか」といった、基本的な情報の整理を試みます。

<参考>
MIT Technology Review / As Goldman Embraces Automation, Even the Masters of the Universe Are Threatened

<月光為替さんの記事>
人工知能(AI)と為替(FX)|ヘッジファンドの最先端情報[月光為替]
【特別寄稿】AIの基礎と応用可能性|第1回 イントロダクションと決定木[月光為替]

自動売買システムの開発者から見たAIの現状とは?

Haluさんは、国内ナンバーワンの実績を持つ自動売買システムの開発者。インヴァスト証券が主催するシストレ24ストラテジーアワード2014にて全世界4位入賞、同2015で全世界8位入賞という経歴の持ち主です。そんなHaluさんは、自動売買システムにAIを組み込む研究に勤しみ、そしてMT4のAI搭載型自動売買システム「Trend Tiger」(以下トレンドタイガー)を完成させたそうです。ここでは、Haluさんから見たAIの現状と、トレンドタイガーについて教えてもらいます。

<Trend Tigerの記事>
約7年で約5.9倍を達成(年率84%)!! AI搭載型自動売買システムTrend Tigerとは?

Halu|国内ナンバーワン実績の自動売買開発者

独立行政法人理化学研究所のベンチャー、シミュレーション研究所で働きながらFXを始める。2007年からMT4での自動売買を研究し、2014年、2015年のストラテジーアワード(インヴァスト証券)で入賞。現在はあおのり学校と共同してAIを研究。


Haluさん(KLH社)が入賞したインヴァスト証券「シストレ24ストラテジーアワード」

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キーワードは定期的な学習とパラメータの最適化

編集部 FXの世界に、AIが入り込んでいるという情報を見聞きします。ただ、具体的な情報が乏しく、一般投資家はぼんやりとしたイメージを持つしかありません。そこで、まずは現状を教えていただけますか。

Halu 最初に、一般の方はAIに過大な期待を持っている傾向があるので、そこからご説明しますね。「人間と同じように思考し、賢くなっていく」というAIを想像している人も多いようですが、それは現実に即していません。AIは与えられた情報を学習し、何かしらの最適解を導くというものです。その学習のフィードバックや情報の追加を常日頃から行わない限り、リアルタイムで賢くなることはできないのです。それなので、人間のように自律的に思考してトレードをするという高性能なAIは、現実には存在しないでしょう。

次に、AIの定義に問題があります。クオンツファンドは、昔から数学的、統計的なアプローチで相場に取り組んできました。その過程で生まれたいわゆるロボトレーダー、取引執行ロボと呼ばれるものを、広義のAIと言う人もいます。その一方で、最近流行のディープラーニングを取り入れたものを、狭義のAIと言う人もいます。このように現在は、AIの定義がさまざまあって、一概にこうだとは言いにくい状況なんです。

編集部 一般投資家のAI観と現実には、大きな隔たりがありそうです。

Halu 定義の問題なんですよね。広義のAIであるロボトレーダーは既に数多く存在し、取引の意思決定から、取引の執行までを行っています。とはいえ、これはEA(自動売買)と変わりなく、あらかじめ人間が決めたルールに従ってトレードをするだけです。これをAIと呼ぶには抵抗があります。では何をもってAIと呼べるかというと、定期的に学習し、パラメータをチェンジできる、最適化できる、という点を備えているかどうかだと考えます。

編集部 最適化できるものが、Haluさんの考えるAIであると。

Halu そうですね。大まかに説明すると、何かしらのEAを購入し、相場に合わせて自力でパラメータを更新しながら使用している人がいるとしましょう。そのパラメータチェンジが、いわば最適化です。この工程を、人間に変わってEAが自律的に行う…というのが、私のAIのアイデアです。

編集部 では、ヘッジファンドなどの動向はいかがでしょうか。

Halu 米国のルネッサンス・テクノロジーズは、パターン認識や暗号解析のスペシャリストである創業者が率いているんですが、相場のパターンを見つけるのはお手のものらしく、約28年間で平均年利38%の利益をたたき出しています。その他、ツーシグマ・インベストメンツなどのクオンツファンドも好成績を上げていて、クオンツファンドは全体で見ても伝統的なヘッジファンドの成績を上回っていると伝えられています。

チャートの動きを関数で表現して値動きを予測

編集部 Haluさんの開発したトレンドタイガーは、どのようなものなのでしょうか?

Halu 私はもともとMT4のEAを開発していました。その中から、インヴァスト証券のストラテジーアワードで入賞したものと、それとは別の富裕層向けに開発していたものを融合させつつ、AIを組み込んだのがトレンドタイガーです。売買ロジックとしては、フォースインデックスというインジケーターでブレイクアウトを狙うのが一つ、移動平均線でトレンドフォローするのが一つ、その両方を組み合わせています。

編集部 AIは、どの部分に、どう関わるのでしょうか?

Halu 少し専門的にいうと、ニューラルネットワークという機械学習で、教師あり学習をしています。このニューラルネットワークが優れているのは、関数近似能力を備えているということなんです。相場にあてはめて説明すると、チャートの波形を関数で表現できるということになります。価格変動の動きに限りなく近い関数が表現できれば、次の値が予測可能になる、つまり上がるか、下がるかが分かるということになりますよね。この関数を自律的に推測して、なるべく早くブレイクを感知しよう、トレンドフォローしようという設計をしたのがトレンドタイガーなのです。

編集部 波形から数式を作り、次の動きを予測する。それをニューラルネットワークで行うと。

Halu そうですね。先ほどは概略の説明にとどめましたが、ニューラルネットワークは入力に対して「重み」と「バイアス」を調整しながら、出力の「誤差」を減らすよう計算を繰り返します。これこそAIの得意とする作業なんです。

編集部 何やら難しい処理が行われているようですが、トレンドタイガーは一般的なパソコンで使用できるのでしょうか?

Halu MT4のEAと変わりませんので、どんなパソコンでも、そしてMT4を採用しているFX会社であればどこでも使用できます。ただ、アヴァトレード社のスプレッドを基に最適化の計算をしていますので、他社で使用した場合はスプレッドが異なる関係から、成績に差異が生まれる可能性があります。

編集部 ところで、Haluさんはトレンドタイガーを一般のEAと同じように市販されておられます。その意図を教えてください。

Halu もともとEAの開発が好きでしたから、そのEAの魅力を皆さんに知ってもらいたいし、その上でAI搭載型のトレンドタイガーを資産形成の一助としてもらえれば嬉しいです。それと、開発者の性といいますか、やはり開発の成果を公表したいという想いもあります。

編集部 いろいろなポジティブな想いが良い方向に結びついているんですね。では、今後はどのような取り組みをする予定でしょうか。

Halu 現行のトレンドタイガーは、あくまでもMT4の環境に合わせて設計しているものです。このMT4という制限の中ではできないこともあり、その枠を越えたところでの開発にも取り組んでいます。別環境において、利食い幅や損切り幅、トレーリングストップの値などは、相場に応じて最適化したいところですし、また複数の通貨ペアやロジックも搭載させ、相場状況によって切り替えるというアイデアも試したいです。

<Trend Tigerの記事>
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ポイント① ニューラルネットワークの学習

人間の脳でニューロン(神経細胞)が電気信号をやりとりする様を、アルゴリズムで表現しています。入力された学習データが、重み付けなどを経て、最適な値として出力するよう、教師データとの評価を繰り返しながら調整されます。

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ポイント② 値動きを関数で表現

ニューラルネットワークの関数近似能力を利用して、チャートの値動きを関数で表現しようというのが、Haluさんの発想。この関数により、「近い未来の値」が推測できるようになります。

人工知能(AI)用語解説

ロボトレーダー

取引の意思決定、取引の執行を、コンピューターのアルゴリズムにより実行するもの。 〈参考文献〉櫻井豊(2016)『人工知能が金融を支配する日』東洋経済新報社。

パラメータ

計算結果に影響を与える値のこと。単純な例でいえば、y=2xという関数の、「2」という直線の傾きを決める値のこと。機械学習でデータから任意の関数を作ろうとするときには、何度もパラメータの調整を行い、最適なものを探します。

最適化

入力と出力の結び付きを関数で表現する際に、パラメータの微調整を行うこと。この微調整を行う方法を最適化問題と呼びます。最適化問題では、誤差関数の最小化を目指して、微分などの計算をします。

ルネッサンス・テクノロジーズ

ジェームズ・シモンズが率いるヘッジファンド。クオンツファンドの先駆け的存在で、数学、物理、コンピューターの一流の専門家を集め、典型的なクオンツ運用を用います。投資手法について、徹底的に秘密主義を貫いているのが特徴です。

ツーシグマ・インベストメンツ

クオンツファンドに所属していたジョン・オーバーデックとデビッド・シーゲルにより設立されたファンド。設立後わずか15年で運用資産を350億ドル(4兆円近く)まで急拡大させ、大手ファンドの一角と数えられるまでに成長しています。

ニューラルネットワーク

脳機能に模した情報処理システムのこと。ディープラーニングを支えるアルゴリズム。多層構造のニューラルネットワーク(ディープニューラルネットワーク)を使った機械学習が、ディープラーニングと呼ばれます。

教師あり学習

機械学習の手法の一つで、 学習データと教師データ(=正解のデータ)を与えて、それらをもとに学習します。それの対となるのが、教師なし学習で、こちらは正解を与えられない条件下で、何らかの特徴を見いだすよう学習します。

関数近似

ある関数を、別の関数で表すこと。ニューラルネットワークにおいては、重みの値などを変更することにより、入出力関係を近似的に実現可能。要するに教師データに近付けることができます。

※この記事は、FX攻略.com2017年7月号の記事を転載・再編集したものです

【人工知能(AI)と為替(FX) 関連記事】
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