新型コロナウイルスの被害が拡大しています。世界各国で2900人を超える死者が確認されています(2020年3月1日現在)。この予測不可能な事態に、為替市場が動きを見せました。10か月ぶりに円安ドル高水準となり、円相場は2月21日時点では1ドル110円台から112円を挟む展開となっていました。これによって、マーケットの関心は「有事の円売り(円安)」に向かっているのでは?と考えられました。しかし、2月21日以降は円高が進み、3月2日時点では107円台と、数日で約5円も動くボラティリティの高さとなっています。
ドル円の日足に、相場のトレンドを把握できるローソク足の高値同士と安値同士を結んだトレンドラインを引いてみます(チャート①)。左上から右下に下がっている青色のトレンドラインが示しているのは「下降トレンド」と呼ばれるものです。一方、チャートの右側には緑色のトレンドラインが示す「上昇トレンド」が発生しています。この上昇トレンドは、2019年4月の高値に迫る値動きを見せていました。一時、緑色の上側のラインをブレイクしたことから、大きなトレンドに発展する可能性もありましたが、再び下落して青色の下降トレンドの中に留まる形となっています。
次に、ドル円の週足を見てみましょう(チャート②)。週足は一時、大きな三角もち合いを上抜ける動きが見られましたが、こちらも三角もち合いの中に押し戻されてしまいました。今後も、トレンドラインと三角もち合いのブレイクする動向を追っていく必要があります。
中国の「金融緩和」で株価下支えが起きる
上海総合指数が大きく下落した場合、為替や日経平均にも影響が出る可能性は限りなく高いといえます。現在、中国はコロナウイルスの感染拡大に伴う金融市場の混乱を避けるため、1兆2000億元もの資金供給を行い、さらに株式の空売り規制も実施しました。こうした中国当局の対応により、上海総合指数は値を戻しています(チャート③)。さらに、中国では現在「一段の金融緩和」が期待されています(*)。
*先日公表された2月分の中小企業の資金調達コストの低下のために、最優遇貸出金利である「ローンプライムレート」(事実上の貸出基準金利)を下げましたが、市場では現状の緩和は不十分とする声も上がっています。ただ、資金供給に伴う過剰流動性による相場と実態経済の乖離が広がりすぎる点には注意する必要があります。
米国の利下げが決まれば株価上昇が起きる
円高、世界同時株安の中で、一番安全な米国の国債に資金が流れています。私たちは、2月21日時点の不可解な円安の動きと米国の金利低下を見たときに、株から債券への逃避資金の流れを予測するべきだったのです。
米連邦準備制度理事会(FRB)は、2019年秋以降、月に約600億ドルの資金を市場に供給しています。これによって米国は、ダウをはじめとする世界の株高を支えてきました。これを「隠れQE(金融緩和)」と呼びます。しかし、コロナウイルスの経済への影響懸念からダウが大幅な下落を見せています(2月24日時点)。隠れQEは、コロナウイルスの影響によって延長される可能性もあります。これによって起きるのは、利下げによる緩和マネーの資金流入です。中国やその他の国でも利下げを行っていますが、今後、米国ではさらなる金融緩和により、利下げが再開されるのでは?との観測も高まっています。日米の金利差が縮小すれば、円高圧力が高まる可能性がありそうです。
日本はどうでしょう?
最後に、日本はどうなるのか考えてみます。前述した米中が金融緩和、買い支えをしている一方、日本は打ち手が少ないのが現状です。さらに、2020年は日銀の金融緩和の資金供給量が減少するといわれています。日銀が過去に買い入れた国債が満期を迎え、大量に償還されるのが今年と重なるのです。大量の償還に対して、国債の購入を増やしたいところですが、購入を増やすと過度な金利低下を招いてしまうため、さらなる資金供給の拡大は難しいと考えられます。
金融緩和されているマーケットには世界の資金が流入するのが常です。各国が追加利下げ、金融緩和、資金供給を行う中で、日本の金利政策深掘りの“限界”を投資家は見ているのでしょう。コロナウイルスの感染被害対策と同様に注視しておきましょう。
第2回まとめ
日本の金利政策深掘りの“限界”。米中の金融緩和・利下げに注目せよ!
※チャート①~③はいずれも2020年3月2日時点のデータです。
※この記事は、FX攻略.com2020年5月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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