金融リテラシーが身につく YEN蔵の投資大学(アカデミア)|第9回[YEN蔵]

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日本はどうやって外貨を稼いでいるか

 私のようなおじさん世代は、社会科の授業で「日本は貿易立国で、原材料を輸入し製品を作って海外に輸出して外貨を稼いでいます」と習いました。たぶん今の教科書はそういうふうには書かれていないと思います。日本の貿易の体系は昔とはだいぶ変わってしまったようです。それでは、日本はどのようにして海外から外貨を稼いでいるのでしょうか。今月はその辺りを研究していきましょう。

 外国との取引を行うマクロ経済では国際収支という概念があり、これは企業の財務諸表と同じように複式簿記の方法で一国が海外と行った結果の収支を計算するものです。国際収支統計は2014年1月から改定されて経常収支、金融収支、資本移転等収支の3本立てから成り立っています。

経常収支って何?

経常収支の構成要素

 経常収支は一番有名なので、ご存じの方も多いかもしれません。日本と海外との取引を語る場合は、この経常収支が真っ先に出てくることが多いです。経常収支は貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の三つの項目からなっています。この中で割合が大きいのは、貿易・サービス収支と第一次所得収支です。物の輸出と輸入の差が貿易収支で、日本では長い間、この貿易収支が経常収支のほとんどの部分を占めていました。日本の貿易収支の年別推移を表①にまとめたのでご覧ください。

日本の年別輸出入総額

出典:財務省貿易統計

 日本は1964年までは貿易赤字が長く続きましたが、1965年に貿易黒字となった後はその状態が続きました。しかし、1973~1975年の第1次石油ショック、1979~1980年の第2次石油ショックのときには再び貿易赤字となりました。これは石油ショックで原油価格が急騰したためです。その後は貿易黒字が2010年まで続きました。

 日本の輸出が一番大きくなったのは2007年で83.9兆円。そのときの輸入は73.1兆円で、10兆円強の貿易黒字となっていました。貿易黒字に関しては、それ以前に1980年代後半から1990年代中盤で12~14兆円の貿易黒字を稼ぎだした年もありました。

 しかし、リーマンショックによって日本の輸出は急減少しました。2009年の輸出は54.1兆円と2008年の81.0兆円から大幅に減少し、輸入も2008年の78.9兆円から51.4兆円に減少しました。そして、その後の輸出は2016年まで63~75兆円で推移し、リーマンショック前のレベルを回復することができませんでした。

 一方で、2011年に起こった東日本大震災で状況が再び変わりました。日本の発電が火力にシフトしたことによって原油、天然ガスの輸入量が増加。それに伴い2011年以降、輸入が増加し2014年は85.9兆円と過去最大の輸入額となりました。

 2011年以降で貿易黒字になったのは、2016年と2017年だけです。黒字とはいえ、その額は3~4兆円ほどで、リーマンショック前の10兆円超の黒字額と比べるとかなり減少しました。

 このように日本の貿易収支は今や赤字になることが多いのですが、黒字でも赤字でもその額は昔の数兆円規模には遠く及ばず、貿易収支が日本の経常収支に与える影響は以前ほどではなくなってしまいました。

 続いてサービス収支を見ていきましょう。貿易収支は物の貿易によって得られた黒字あるいは赤字を表しますが、サービス収支というのは輸送代金、旅行代金、保険料、特許料などの支払い、受け取りを合計したものになります。

 日本は長らく、サービス収支が赤字でした。今でこそインバウンドという言葉が有名になり、海外からの旅行客が3000万人に達する規模となりましたが、もともと日本は海外旅行をする人数の方が多く、また特許料の支払いなどが赤字だったことも影響し、サービス収支がずっと赤字だったのです。しかし、サービス収支も年々赤字額が縮小し、1996年には6.7兆円の赤字でしたが、2019年には初めて1248億円の黒字となりました。

 このように、もはや貿易では稼げなくなった日本ですが、救世主が現れます。それは投資によるリターンでした。投資によるリターンは、経常収支の中では第一次所得収支と呼ばれています。第一次所得収支とは、日本が海外の金融商品などに投資して獲得したリターンから得られる収益です。

 日本銀行の資金循環表という統計があり、それによると日本の対外債権は1105兆円で、このうち証券投資は611兆円となっています。日本が海外に投資して獲得した2019年のリターン(第一次所得収支)は20.9兆円になっています。それに対して貿易収支は3812億円の黒字に過ぎません。

 第一次所得収支は1996年には6.1兆円ほどでしたが、年々増加を繰り返し2004年に初めて10兆円の大台に乗りました。そして2007年には16.4兆円に達しましたが、リーマンショックの影響は第一次所得収支にも表れて、翌年には14.3兆円に減少し、2009年には12.6兆円まで減少しました。しかし、その後は順調に増加を続け2015年には21.3兆円と過去最大の稼ぎとなりました。近年は19~21兆円台で推移しています。

 日本は1990年代に債権国としての地位を築き、着々と海外からのリターンを増加させてきました。第一次所得収支が貿易・サービス収支を上回ったのは1990年代からで、既に日本は貿易・サービスで稼ぐ国から投資で稼ぐ債権国に名実共になっていたわけです。

 それでも1998~1999年には貿易・サービス収支が第一次所得収支を上回ることもありましたが、2000年以降は貿易・サービス収支は一度も第一次所得収支を上回ることはなく、日本は投資で稼ぐ債権国になりました。第一次所得収支はほぼ毎年増加して1年で20兆円を超す収益になっていますが、貿易・サービス収支は赤字に転落することも多く、日本の稼ぎの源泉が投資に完全に移ったといえます。

日本が債権国になり為替にどう影響するか

 ここまで、日本の外貨の稼ぎ方の変化について書いてきました。それでは、この変化が為替の変動にどのような影響を与えるか考えていきましょう。

 為替取引全体の中で貿易に絡む取引が占める割合はごくわずかです。正確にはどのくらいのマーケットシェアを持つのかは不明です。取引量だけを見るとかなり少ないのですが、貿易に絡む為替取引は輸入であれば外貨の買い切り、輸出であれば外貨の売り切りで、トレードのように利食いや損切りの反対売買は起こりません。そのため、トレードであれば最終的には差し引きゼロになりますが、輸出入に絡む実需の為替取引は反対売買がない分マーケットに与える影響が大きい可能性もあります。

 かつて日本の貿易黒字が大きなとき、輸出によるドルを中心にした外貨の売りが円高方向の圧力になることはよくありました。しかし、現状では輸出の売り圧力は以前に比べて、だいぶ小さくなったのではないでしょうか。

 一方で輸入の外貨買いがプレゼンスを上げて、円高方向への加速を抑える効果が出ています。日本の輸出企業は円建ての割合も多いのですが、輸入企業は外貨建ての割合が多いです。特にドル建ての割合がかなり大きい状態がずっと続いています。日本の輸入の多くの部分を占めるエネルギー関連がドル建てでの決済なので、輸入の場合はドル円の買いが多くなります。特に輸入の場合、東京時間の仲値(9時55分)に決済を集中させる傾向があるので、東京の仲値はドルが上昇しやすくなるわけです。

 とすると、日本は海外への投資で20兆円も稼いでいるのだから、その分を円に換える円転の動きが出るのではないだろうか?という疑問が湧きます。皆さんは海外に投資して利子や配当が入った場合、すぐに円に変えますか? これは投資家によって異なると思います。

 通常、機関投資家は利子や配当を再投資します。つまり、外貨で支払われた利子や配当は再投資に回すケースが多く、あまり外貨売り円買いの円転は起きません。今はあまりありませんが、毎月分配するタイプやコンスタントに配当金を支払うタイプの投信などは円転の需要がありますから、少しは円高になる可能性もあります。

 米国債の利払い日は15日なので、15日前後に米国債の利金を円に換える円転の動きが見られます。特に2月、5月、8月、11月の米国債の発行量は多く、利金の支払いも大きいので、15日前後は円高に注意といわれた時期もありました。ただ、基本的には海外に投資する場合に利金にしろ配当金にしろ元本にしろ、すぐに日本に戻さなければならないというわけではないため、投資によるリターンが大きくなったからといって必ずしも円高材料になるとは限りません。

 貿易に絡む取引は、金額的に投資やトレードの資金に比べて圧倒的に少ないのですが、規模によっては確実に為替の需給に影響を与えます。最近は外貨買い、特にドル買いの需要が定期的にあり、その需給がドル円の下値をサポートする原因の一つになっている可能性があります。

※この記事は、FX攻略.com2020年10月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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YEN蔵(えんぞう)

米系のシティバンク、英系のスタンダード・チャータード銀行と外資系銀行にて、20年以上、外国為替ディーラーとして活躍。現在はトッププロトレーダーとして為替、日経平均、日経オプション、個別株の取引を行う。投資情報配信を主業務とする株式会社ADVANCE代表取締役。ドル、ユーロなどメジャー通貨のみならず、アジア通貨を始めとするエマージング通貨でのディーリングについても造詣が深い。また海外のトレーダー、ファンド関係者との親交も深い。

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