この不透明感の中での上昇は不可解［雨夜恒一郎］

FX攻略.com ズバリ！今週の為替相場動向 2020年10月12日号

先週のドル円相場は

トランプ大統領が退院し、米国株式市場が大幅に反発したことを受けて、ドル円も上値を試す展開となった。

トランプ大統領は追加経済対策をめぐる与野党協議の一時停止を発表したものの、1200ドルの特別給付金や、航空業界・小規模企業への的を絞った支援策は協議するよう議会に対して要請。これを好感して米国株式市場がさらに上昇すると、ドル円も一時106円を突破し106.11円まで上昇した。

前回の当コラムでは、トランプ大統領の容体の重篤化まで想定すべきとしたが、幸いにして容体は急速に改善。ニュース映像を見る限り、健康状態に問題なさそうで、選挙戦への早期の復帰に強い意欲を見せているという。

ただし、コロナを軽視し、ホワイトハウスをクラスターとした張本人であるトランプ氏の再選は厳しいことに変わりはない。各種の世論調査では、トランプ氏はバイデン氏に過去最大級のリードを許している。

コロナに感染したトランプ氏への同情票や、コロナから回復したご祝儀票は今のところ入っていないことになる。

米国の多くのメディアが反トランプのバイアスを持っていることや、いわゆる「隠れトランプ支持者」（世論調査ではトランプ支持と回答しないが、実際にはトランプに投票する人々）が多く存在することを差し引いても、選挙戦終盤でのこの差を挽回することは難しいだろう。

出所：realclearpolitics.com

しかも11月3日の大統領選でバイデン氏が勝利した場合でも、トランプ陣営は結果の無効を訴えて法廷闘争に打って出る可能性が高い。また結果が僅差だった場合、両陣営がともに勝利宣言を発して収拾がつかなくなる可能性もある。

最悪の場合、次の大統領がどちらなのかわからないまま年を越す可能性も小さくない。大統領選をめぐる不透明感は一段と高まったと言える。

NYダウは先週28500ドル台で引け、トランプ氏入院前の水準を大きく上回った。恐怖指数VIXも25.00と8月下旬以来の低水準で、市場参加者の不安感はむしろ後退している。筆者には、この政局不透明感の中での株高はかなり違和感がある。

民主党はより大規模な経済対策を要求していることから、バイデン大統領誕生なら景気にはプラスとの見方もあるが、さすがに気が早すぎる。年内に追加景気対策が実現するとしても、規模や分野は限定的だ。

結局のところ、先週の米国株とドル円の上昇は、トランプ氏のコロナ重篤化を想定したショートが、退院をきっかけに巻き戻されただけと考えるのが一番しっくりくる。

もしそうだとすれば、ドル円の上昇は長続きするとは考えにくく、むしろいつ急落に見舞われても不思議はない。

チャート上は、105.80円から106.00円にかけては強い抵抗帯があり、106.50円付近にはさらに強いレジスタンスがある。3月以来の緩やかな下落トレンド、高値・安値を切り下げる価格パターンは崩れておらず、106円近辺は戻り売りの好機ととらえたい。

106円以上は強い抵抗がある　出所：NetDania

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