天才たちの素顔は親しみやすい人だった
井口 ノーベル経済学賞受賞のウィリアム・シャープ博士やイスラエルのモサド科学顧問であるミラー博士との共同開発など、情報工学・金融工学のスペシャリストであり、さらにファンドの運営など金融分野においてご活躍の奥村さんですが、経歴とそのときのエピソードを教えてください。
奥村 私は工学部出身で人工知能を学生時代に研究していました。私の原点はテクノロジーですが、テクノロジーと金融のつながりで金融の世界に入りました。
井口 金融は株式、為替、商品と幅広くやっていましたか?
奥村 証券会社にいたときはほとんどエクイティをやっていましたが、自己売買のトレーダー部門にも所属して為替や商品の研究、トレード案件にも携わっていました。
商品開発の一番最初にシャープ博士との共同研究に従事しました。最初に会ったのは1988年で、ノーベル賞受賞の前です。株式ではベータの概念を生み出した大先生でしたが、偉ぶるところがなかったですね。米国を訪れた際にはホテルまで車で迎えに来てくれました。一緒にオフィスに向かったのですが、高速道路を走っているのにオープンカーの幌を開けて、運転中におどけてくれました。こっちはヒヤヒヤしましたが(笑)。ひょうきんで明るく親しみやすいおじさんでしたね。一番驚いたのは、彼のオフィスを訪れると秘書がいて、お茶は出してくれるんですが、コップは洗わないんです。それで流しに溜まっていくコップをシャープ先生自らが洗うんです(笑)。
井口 それぐらい気さくな方なんですね。意外です。
奥村 さすがにびっくりしました。そして、米国ではそのようなことを女性にいわないんだなと知りました。
井口 日本とは違いますね。
奥村 本当に謙虚な方で、来日した際も自分でカバンを持っていました。私が空港に迎えに行きましたが、当時の上司から「カバン持ちは奥村君がしなさい」といわれました。でも、シャープ先生は大切なものは肌身離さず持っていたいので嫌がるんです。それで困って、シャープ先生に「上司の前だけでも私にカバンを持たせてください」とお願いしました(笑)。
ミラー博士も天才ですが、親しみやすい人です。イスラエル在住で、イスラエルから引っ越したいといっていましたが、奥さんがイスラエルが好きなので無理のようです。イスラエルの人は恐妻家が多いみたいですね。彼は酒豪で、スコッチをよく飲んでいました。
井口 天才のイメージにありがちな寡黙な変人という感じがしないですね。
奥村 普通の人ですよ。ただ、難しいことを簡単に説明してくれるタイプです。シャープ先生は私が1を聞くと本当はこれも聞きたいんじゃないかと10くらい教えてくれます。
井口 頭が良い人はそこまで考えてしゃべりますよね。
奥村 私の断片的な英会話を理解して本質を説明してくれたのでありがたかったです。米国人は自分のペースで話すことが多いですが、シャープ先生は相手がいいたいことを言外まで読み取って話してくれます。ミラー博士も同じです。
井口 頭の良い人は同じなんですね。
勝ち続けるためには基本を理解すること
井口 次の質問ですが、FXで勝つためにはどうすれば良いと思いますか?
奥村 いきなり核心部分に来ましたね(笑)。株式投資も同じですが、基本を理解することが重要です。株式の場合は企業の業績、FXの場合は金利だと思います。金利を知るためには中央銀行の動向を知る必要があり、中央銀行を知るためにはグローバル・マクロや世界の地政学を理解しておかないといけません。例えば、なぜ世界がマイナス金利になっているのかを把握するためには、レーガノミクスの時代にさかのぼる必要があります。当時は新自由主義が隆盛し、どんなものでも自由にするのが一番良いというやり方でした。そのメリット・デメリットを知っておくことが重要です。これらは基本なので、為替をやっている全員が知っておかなければいけないと私は考えています。
井口 ファンダメンタルズの核となる部分をしっかり勉強してからでないと、為替の世界に入るのは難しいということですか?
奥村 そこまでではありません。為替の世界に入るのに勉強する必要があるとは思いませんが、実際に為替をやっているのであれば身につけましょう。例えば、米国を訪れるのに最初から英語が堪能である必要はありませんが、どこかできちんとした英語を学ばないとビジネスなどで恥ずかしい思いをします。そこに気がつくかどうかは、成功するかしないかに関係があると思います。為替も同じです。
井口 スタートは気軽に始めてもいいけれど、本気で相場に向き合うならば中央銀行の動向やグローバルな経済動向をしっかりと学ぶ必要があるということですね。
奥村 そうですね。個人的にはチャート分析だけでは不十分だと思います。
井口 現在はテクニカルだけという人が増えてきていると思います。弊社でもファンダメンタルズで腰をすえて中長期で取引をする人の割合は少なく、スキャルピングやデイトレードをする人が半分以上を占めています。テクニカルだけでは厳しいというイメージですか?
奥村 勝っている人はいますが、勝ち続けるのは難しいでしょうね。中には運よく勝ち続ける人もいると思いますが、基本的には運だけで勝ち続けられないと思うんです。それは、チャート分析だけでは勝てないことにもつながる気がします。
2020年中盤からは円高傾向になると予想
井口 今はコロナ相場が今後どうなるか気になる人も多いと思います。2020年中盤から2021年に向けての為替相場はどうなるとお考えですか?
奥村 円高に向かうのではないかと予想します。米連邦準備制度理事会(FRB)はマイナス金利にはしないといい切っていますが、日本と欧州がマイナス金利である以上、対抗上マイナス金利にせざるを得ないのではないかと思います。ということはドルは売られて安くなって、円が強くなると予想しています。3月くらいにドル円は112円と102円を行ったり来たりしたときがありましたが、おそらく市場の迷いがあったと思います。
井口 ありましたね。112円は今思うと楽観しすぎていたのかなという気がします。
奥村 私は為替よりも株式を先に予想する方がうまくいくことが多いです。
井口 2020年中盤から年末にかけての株価についはどう思いますか? 私は早いペースで戻ったなというイメージを持っています。アフターコロナで経済が元通りになることを現時点で織り込みすぎているのではないでしょうか。
奥村 同じ考えです。いずれ戻るとは考えていましたが、それは年末くらいになるかなと思っていたので、早すぎですね。これは米国の影響だと考えられます。日本が自律的に早く戻ったのではなく、米国の株価が早く戻ったから追従しているだけだと思います。どちらの株式市場も説明できない高値まで来ています。なぜ説明できないのかというと、株価は株価収益率(PER)が重要だからです。日経平均株価のPERは15倍が一般的ですが、今は25倍くらいです。新型コロナウイルスの影響で各企業の今年度の利益は非常に少ないです。それに対してPER25倍は圧倒的に割高です。日経平均は半分の1万円くらいになってもおかしくありません。もし今が1万円なら強気の予想を立てますが、2万円台なので弱気の予想を立てざるを得ません。稼いでいる企業の株価が上がるのは分かりますが、稼いでいない企業の株価が高いのはおかしいんです。株価は過大評価されすぎだと思います。
井口 これからロックダウン解除で経済が徐々に正常化する中で、第二波が来る展開がありそうということですね。
奥村 第二波は来ると思います。都内では多くの人が電車に乗り始めると確実に感染者が増えると思います。
井口 株価の二番底の前に新型コロナウイルスの第二波が来るということですか。
奥村 本当は株価の下落が先に来るのが普通だと思いますが、株価の方が楽観的なので新型コロナウイルスの方が先になると思います。日本だけですよ、満員電車に乗るのは。あれは感染者が増える大きな要因です。
井口 またロックダウンとなると一気に崩れるでしょうね。その観点だと経済的な面でリスクオフになりやすく、中央銀行の政策も考えると今後は円が買われやすくなるという感じですか?
奥村 購買力平価を信じるならドル円レートは100円を割って90円台が正しいわけですよね。その意味でも円が買われると思います。
井口 今年の中盤から円が強くなるイメージは私も持っていました。ちなみに、FXや株式以外に注目しているものはありますか?
奥村 商品です。原油は4月にマイナスになりましたが、FXを好きな人は勉強してみると面白いと思います。金は買いの一本調子でいけるはずです。史上最高値を更新するのではないでしょうか。
井口 やはり安全資産の受け皿として上がっていくということですか?
奥村 どちらかというと投機に近いのではないでしょうか。基本的に反対売買を前提にする投資がいいと思います。金は現物資産を積み立てるのもアリですね。
(対談は次号に続きます)
【後編はこちら】
・現役為替ディーラーが、話題のアノ人と語り尽くす Trader’s対談|ゲスト 奥村尚 後編[トレイダーズ証券みんなのFX 井口喜雄]
※この記事は、FX攻略.com2020年8月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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