好材料でも買われないドル円!変化の胎動か?[雨夜恒一郎]

FX攻略.com ズバリ!今週の為替相場動向 2018年9月10日号

先週のドル円相場

先週のドル円相場は、110-111円台での上下動の末、結局111円ちょうど付近で週の取引を終えた。週前半は貿易問題を懸念したリスク回避のドル買いが他通貨に対して進行し、ドル円にも波及したことから、一時111.75円付近まで上昇。しかし週後半は「トランプ大統領が貿易問題で次に日本と争う公算」と報じられたことから、110.38円まで反落した。

本筋がノイズに負ける

驚くべきは、本筋であるはずの米国ファンダメンタルズが、ノイズであるはずのトランプ砲に負けてしまったことだ。先週金曜日に発表された8月の米国雇用統計は、非農業部門雇用者数が+20.1万人(予想+19.0万人)、平均時給が前年比+2.9%(予想+2.7%)と強い結果となった。発表直後にドル円は上昇したが、結局ドル買いは続かず、トランプ大統領が対中制裁関税で追加を用意している」と報じられるとあっさりと下落に転じた。

米国平均賃金(前年比上昇率) 出所:労働統計局

平均時給の前年比+2.9%というのは、リーマンショック後のボトムからの戻り高値を約2年ぶりに更新する数字だ。本来であれば、インフレ見通しが好転し、金利上昇・ドル高となるはずだった。筆者の感覚では、少なくとも7月下旬以降カベとなっている112円を上抜けしてもおかしくなかった。しかし結果はこの通り、直前のレンジすら抜け出すことはできなかった。好材料が出たにもかかわらず想定ほど買われない、あるいは好材料にもかかわらず売られてしまう……これは業界でいうところ変化の胎動、「相場の息吹」に他ならない。今のうちに下値波乱に備えておくべきだろう。

ドル円日足・一目均衡表 出所:NetDania

トランプ大統領による対中貿易戦争の本気度

もうひとつ気を付けるべきは、トランプ大統領の仕掛ける対中貿易戦争はどうやら本気であり、決して駆け引きではないということだ。米国は中国をグローバル経済における覇権争いだけでなく、安全保障上の脅威とみなしており、徹底的に潰しに行く意向ではないか。米国が本当に追い込まれたときには、どんな理不尽な要求でも本当に実行してくる。1980~90年代の日米半導体交渉や自動車協議がそれを実証している。日本はすでに米国にとって脅威ではないが、貿易黒字の中国を叩いて日本を叩かないのは中国からアンフェアといわれかねない。中国からの反論を封じる意味でも、トランプ大統領は矛先を日本に向けるのを厭わないだろう。

為替市場は、着地点が見えてきた米国の利上げサイクルにはもはや興味を失っている。今月のFOMCでの利上げは100%織り込まれているので、実現すればむしろ強気材料出尽くしの反応となるだろう。現段階では一見売買が均衡しているドル円相場だが、潜在的には下値の脆弱性を孕んでいると考えざるを得ない。今週もドル売りスタンスを継続したい。

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雨夜恒一郎(あまや・こういちろう)

20年以上にわたって、スイス銀行、JPモルガン、BNPパリバなど、大手外銀の外国為替業務要職を歴任。金融専門誌「ユーロマネー」における東京外国為替市場人気ディーラーランキングに上位ランクインの経歴をもつ。2006年にフリーランスの金融アナリストに転身し、独自の鋭い視点で為替相場の情報をFX会社やポータルサイトに提供中。

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