トランプの制裁関税に中国が激しく反発
「米中もし戦わば」とは、トランプ政権発足時に新設された国家通商会議(NTC)の委員長、ピーター・ナバロ氏(現:通商製造業政策局長)の著書名です。トランプ政権発足2年目、世界はこの言葉を彷彿とさせる出来事を次々に目撃することになります。
トランプ大統領は1月の太陽光パネル・洗濯機への緊急輸入制限(セーフガード)発動、3月の鉄鋼・アルミ関税に続き、同22日には中国に対し知的財産権の侵害を理由に同国輸入品、最大600億ドル相当に25%の関税を適用する大統領令に署名しました。大統領令で米通商代表部(USTR)に15日以内の関税引き上げリストの取りまとめを求め、30日間の意見公募期間を経て、対象品目を決定するよう要請しています。関税導入は、早くて5月後半でしょう。
トランプ大統領が「多くのうちの初めの一手に過ぎない」と明言する通り、同時進行で財務省には中国企業の対米投資を制限する案を60日以内に提示するよう求め、同政権による中国貿易包囲網は狭まるばかりです。
黙っていないのが、中国流といえます。同国は、米国が3月22日に知財関税措置を発表した数時間後の翌23日、米国からの輸入品128品目に関税を適用する方針を表明。豚肉には25%、鋼鉄パイプをはじめ果物、ワインに15%を課すと発表しました。
トランプ大統領が中国に照準を当て、“不公平な貿易・投資慣行”の改善を推進する理由に、中間選挙や2020年の大統領選を思い描く方も多いでしょう。選挙要因もさることながら、トランプ氏の行動を振り返ると、自身の公約にいかに忠実かが窺えます。大統領選中の2016年9月にロス商務長官とナバロ氏が発表した“経済計画”が、その証左。経済計画の3本柱として、規制緩和やエネルギーより真っ先に挙げられた政策こそ、通商です。純輸出のマイナス寄与が成長を押し下げ、歳入にも悪影響をもたらしたと主張します。
例えば、“経済計画”によると2015年の貿易赤字は約5000億ドルでした。これは2015年の名目GDP増加分である6440億ドルの78%に相当し、ロス氏とナバロ氏にしてみれば貿易赤字こそGDPを押し下げた諸悪の根源に他なりません。また過去平均の成長率が3.5%で、2002年以降の同平均が1.9%のところ、成長率1%が120万人の雇用創出につながると仮定すれば、足元の就労者数は過去平均を少なくとも200万人下回る計算になると分析します。
ロス氏とナバロ氏いわく、貿易収支で過去と現在を分けたのは、
① 北米自由貿易協定(NAFTA)合意
② 中国の世界貿易機関(WTO)加盟
③ 韓国との自由貿易協定(FTA)締結
の三つであり、だからこそトランプ氏の重要政策は「貿易赤字の削減とそれによる成長押し下げの低減」が目標に掲げられました。そして、中国に照準が絞られたというわけです。
9月のFOMCで経済見通しを変更!?
トランプ政権が保護主義に傾く中、鉄鋼・アルミ関税発表後まもなく開催された3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備制度理事会(FRB)議長に着任したパウエル氏をはじめ、参加者は静観しています。パウエル新FRB議長は、記者会見で「足元の見通しに通商政策の変化を反映すべきでないと判断した」と明かす程度でした。むしろ経済・金利見通しを軒並み上方修正し、2018年の利上げ予想中央値が年3回で維持したとはいえ、あと1人で年3回から4回へシフトしていたほどです。
通商政策の見極めが現状、困難であるというのがFOMC参加者の本音でしょう。例えば鉄鋼・アルミ関税のうち鉄鋼だけを見ても、関税除外対象で米国向け鉄鋼輸出上位のカナダ、ブラジル、韓国を含めた2017年の対米輸出額は、産業財輸出額全体の7.8%に過ぎず、輸入全体では非常に規模が小さいです。
鉄鋼関連の雇用者も14万人で、しかも自動化や省力化が進む中、鉄鋼関税を通じた雇用増は限定的にとどまる見通し。関税対象外が発生した結果、米国内での鉄鋼価格が値上がりするかも不透明です。
もちろん、今後のトランプ政権の対応次第では貿易戦争が経済を下押しするリスクが残るものの、GDPへの影響を試算できるまで様子見を決め込むと考えられます。税制改革法も、経済・金利見通しに織り込んだのは成立直前の2017年12月FOMCでした。FOMCが鉄鋼・アルミ、対中関税措置を含め経済見通しを変更するのは、9月25~26日開催のFOMCの公算が大きいです。経済下押しにつながる大きなリスクが発生しない限り、6月12~13日開催のFOMCで追加利上げを行うのでしょう。
※この記事は、FX攻略.com2018年6月号の記事を転載・再編集したものです
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