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人工知能と相場とコンピューターと|第1回 プロローグ[奥村尚]

人工知能と相場とコンピューターと|第1回 プロローグ[奥村尚]

ボードゲームにおける人工知能の進化の歴史

 人工知能は人類の英知、ノウハウ、判断能力を機械で実現します。機械が自身で考えて判断し、行動できる技術です。その存在を世界に誇示したのは、なんといってもチェス、将棋、囲碁などのボードゲームでの圧倒的な成果でしょう。

 将棋とチェスはインドのボードゲームが起源とされています。どちらも相手の王を取ることを目的とし、駒の役割や動き方もそっくりです。駒はマスを単位として動きますが、チェスが8×8マス、将棋は9×9マスとなっています。将棋の方が行動範囲が広く、取られた駒は相手の駒として復活するのでルールが複雑です。囲碁は駒の動きや勝敗のルールが将棋やチェスとは異なり、さらに盤の大きさも19×19マスなのでさらに複雑とされています。

 こうしたゲームの人工知能化に関してはいずれ掘り下げてみようと思いますが、まず思い浮かべるのはチェスではないでしょうか。世界中にファンがおり、愛好家人口は推計5億人とされています。囲碁の場合だと愛好家人口はチェスの10分の1以下で推計4000万人、将棋は世界的にはあまり普及しておらず、囲碁のさらに数分の1で、推計1000万人です(愛好家人口はいずれも世界人口で重複愛好家を含みます。レジャー白書『公益財団法人日本生産性本部余暇創研』、その他の資料より著者が推計)。

 チェスは愛好家が多く、ルールが単純であるという理由も手伝って、最も古くからコンピュータによる解析や人工知能化の研究が進んでいたゲームです。

 ここで気づいたのですが、ある技術は人工知能であるか否かという議論がときどき起こります。この記事は情報工学の専門誌への寄稿ではないので、人工知能の細かな定義や分類は意識しないで、私が直感的に伝わりやすいと思った単語を使っていきます。具体的にはコンピュータ、人工知能、アルゴリズム、プログラムなどと、いろいろな表現で進めていくことにします。

 さて、コンピュータ上のチェスプログラムが、人間のチェス選手権に初参加したのが1967年のことでした。この当時から一定の完成度があり、アマチュアの中ではやや強いプレーヤーレべルの評価がされていました。初挑戦にしてこの実力は上出来でしょう。その後も人工知能は進化を続けますが、トッププロに挑戦しては破れ続け、1990年代後半まで勝てませんでした。

 変化が起こったのは、1997年です。この年、チェスで世界王者が初めて人工知能に敗れたのです。対戦相手はIBMの「Deep  Blue(ディープ・ブルー)」という名の人工知能マシンでした(画像①)。当時の世界チャンピオンであったガルリ・カスパロフ氏がディープ・ブルーに敗れました。カスパロフ氏は敗れる前年にはディープ・ブルーに勝利していたのですが、その1年後に負けたわけです。「コンピュータが人間を超えた」と大変な騒ぎとなりました。

IBM開発のDeep  Blue(ディープ・ブルー)

出典:https://www.ibm.com/jp-ja/

 将棋では、2015年の電王戦(日本)にてプロ5名とコンピュータ5台の戦いにおいて、実力が拮抗しました。そのときは、プロ側が機械処理のクセを見抜き、バグを誘発させるような意表を突く手を使い、3勝2敗でかろうじて勝ち越しました。しかし、翌年の2016年にはプロが連敗し、人工知能が圧倒的に強くなったことを見せつけました。

 囲碁でも2016年、Googleのプログラム「AlphaGo(アルファ碁)」が、世界最強といわれたプロ棋士の李世ドル(イ・セドル)九段に勝ち越しました。既に人工知能は人間の能力を超えた域に達したという証拠といえるでしょう。

 人工知能の能力を、もし投資の世界で生かすことができたら、お金をどんどん自動的に増やしてくれるのではないでしょうか。将棋やチェスで勝つよりも、お金を儲けることができるはずです。これは世界中の大資本、天才たちが挑戦している夢なのです。

 今回は、大昔からの人工知能の歩みをたどっていきます。人工知能はコンピュータで動くソフトなので、ハードであるコンピュータの能力も重要な要素です。ソフトの進化と合わせて、ハードの歴史も紹介していきたいと思います。FX、特にドル円の歴史も同時代性がありますから、FXの歴史も重ねながら、進めていきましょう。

コンピュータと相場が歩んできた歴史を見る

 コンピュータは電気で動きます。では、電気がない時代はコンピュータがなかったかというと、そうでもありません。最も古いコンピュータは、電気がない時代に生まれたアナログコンピュータです。

 当初は、現代のコンピュータと異なり、電気を使わない機械式のもので、17世紀に英国で発明されました。簡単に説明すると計算尺です。19世紀には、図形をなぞると車がコロコロ回転し、その回転量で複雑な図形でも面積を計算できる機構にまで発展しました(プラニメーター)。

 計算尺をコンピュータとするのは無理があるというならば、からくり人形はいかがでしょうか。からくり人形も17世紀に飛躍的な進化を遂げました。歯車、カムの技術とバネやゴム、水力などの動力を使い、太鼓を音楽的にたたく、酒を注いだ杯を人形が運ぶ、といった動きができるようになったのです。いってみればロボットの前身ですね。現代のロボットの頭脳は人工知能ですから、からくり人形はアナログとはいえ、コンピュータとして扱っても良いのではないか、と思います。

 少し日本に目を向けてみます。17世紀ごろといえば、日本では安土桃山時代から江戸時代初期の時代です。そのころはポルトガルから鉄砲を輸入するなど、外国との交易があったはずですね。さすがにFXはこの時代にはなく、金や銀の塊を通貨代わりに支払っていたそうです。

 FXの代わりに紹介できる歴史的な金融的イベントといえば、18世紀の大阪で生まれた先物市場でしょう。江戸時代最大の米(コメ)市場であった堂島米市場は、徳川吉宗が1730年、幕府公認の取引所として設立しました。コメの先物取引を世界に先駆けて実現したことは世界的にも有名です。

 市場といえば、欧州で1531年にベルギーのアントワープで世界初の証券取引所が設立されています。この取引所の成功をみて、オランダ、フランス、ドイツ、英国などの各国でも相次いで証券取引所を設立していきます。

電気誕生の歴史と日米の最初の為替取引

 電気は1752年に米国のベンジャミン・フランクリンが雷は電気であることを発見し、その存在が知られるようになりました。フランクリンが雷を人工的に再現することに成功したことで世界的に研究レベルでの広がりもみせました。避雷針は彼の発明です。

 ベンジャミン・フランクリンという名は、米国の政治家として有名な名前なので、聞き覚えがある方も多いことでしょう。米国の独立に多大なる貢献をし、特にアメリカ独立宣言の起草者5人のうちの1人として知られています。

 実は雷を発見したフランクリンと、政治家として有名なフランクリンは同一人物です。現在の100ドル紙幣は彼の肖像です(画像②)。1948年~1963年までのハーフダラー銀貨にも彼の肖像が使われました。2006年には、生誕300年を記念して1ドル銀貨も発行されました。

フランクリンが描かれた100ドル札

出典:http://www.benjamin-franklin-history.org/100-dollar-bill/

 フランクリンの電気発見の約半世紀後である1799年、イタリアのアレッサンドロ・ボルタは2種類の金属で電気を発生させることに成功し、人類最初の電池が発明されます。現在、電圧の単位をV(ボルト)と呼ぶのは、その業績に敬意を表してのものです。ユーロ導入前のイタリアで使われていた通貨はリラですが、1万リラ紙幣にはボルタの肖像が描かれていました(画像③)。

ボルタが描かれた1万リラ札

出典:http://gijyutu.com/ohki/museum/electr/electr.htm

 電池発明から80年後の1879年、米国の発明家のエジソンが白熱電球を発明します。そのわずか3年後、“あかり”を使ってもらおうと世界で初めて発電所も作りました。ニューヨークに「パール・ストリート・ステーション」という大規模な発電所を開設して「電気の時代」をもたらしました。

 この会社は、1892年にゼネラル・エレクトリック(GE)となりました。パール・ストリート・ステーションは19世紀のことなので、それまで世間にはいわゆる電気というものはなかったということになります。

 また、エジソンは世界で初めて株価電信表示機を発明した人でもあります。1869年までは株価を電信する際、数字しか送信・印刷できなかったので間違いも多かったのです。エジソンの発明は、企業名も同時に送信できるものでした。現在の株価ボードと同じ情報を送ることに成功したのです。

 世界一の発明家として有名なエジソンですが、紙幣とは無縁で、電球発明125周年の記念1ドル硬貨が2004年に発行されたということだけ、かろうじて知ることができました(画像④)。

エジソンが描かれた記念1ドル硬貨

出典:http://worldcoingallery.com/

 エジソンが電球を発明したころの日本は幕末でした。1854(安政元)年に日本に「黒船」が来て、日米和親条約を結びました。このときから、円とドルを交換する為替取引が始まりました。ただし、固定レートです。1856年9月9日、米国領事タウンゼント・ハリスと幕府との間で1ドル=0.75両(天保小判1両=1.33ドル)と定まりました。

 しかし、当時日本と欧米の金銀交換比率には大きな差があり、金の含有量で見ると1両=4ドルの価値があったため大量の小判が海外に流出しました。それを防ぐため、金の含有量を減らした万延小判が発行されました。

 1868年に明治時代が始まります。明治時代になってから、明治政府は太政官札という紙幣を発行しました。しかし、江戸時代の金貨、銀貨、銅銭がまだ普及していました。単位は「両」です。さらに、藩だけで流通する藩札と呼ばれる紙幣や幕末に伝わったスペイン・メキシコの銀貨も洋銀と呼ばれ流通していたらしく、かなり混乱していたそうです。その上、両・分という幕府の通貨は、4進法だったのです。

 明治政府は、あらゆる制度を近代的に体系化しながら旧幕府軍との戦争も並行して行っていたので、通貨にまで手が回らなかったのでしょう。ようやく1871年(明治4年)5月に新貨条例が公付され、円が誕生しました。このときに定められた交換レートは1円=1ドル=1両でした。円は10進数であり、「銭(せん)=1円の100分の1」「厘(りん)=1円の1000分の1」が補助単位として定められました。

 日本に最初の電力会社が設立されたのは1886年で、エジソンが発電を始めてわずか4年後です。実際の稼働までさらに時間がかかったようですが、我が国の発電事業が世界初の米国に遅れることわずか数年というのは驚きです。

※この記事は、FX攻略.com2020年4月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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