ドルの強さが試されるマーケット
日本人投資家の中では、ドル円やクロス円といった円絡みの通貨ペアの取引が人気を集めています。しかし、為替取引の中の王様はやはりドルです。ドルの動きが為替全体に大きな影響を与えますから、普段は円絡みの通貨ペアの取引しか行わない投資家の皆さんも、ドルの動きにはぜひとも注目しておいてください。今回からしばらくは、ドルについていろいろなことを書いてみたいと思います。
最近はドル安の流れが続いています。ドルの強さを示す指標にドルインデックス(DXY)という指数があります(チャート①)。先進国の主要通貨バスケットに対するドルの強弱を示すもので、特定の通貨に対する強弱を示すものではありません。先進国の通貨に対するドルの価値を算出するため、1973年に米連邦準備制度理事会(FRB)によって開発されました。
DXYを構成する各通貨のウェイトは、ユーロ57.6%、円13.6%、ポンド11.9%、カナダドル9.1%、スウェーデンクローナ4.2%、スイスフラン3.6%となっています。ユーロのウェイトが大きいため、ユーロドルの動きがDXYに大きな影響を与えます。
DXYを見ると、ドルの強さが分かります。1980年代のレーガン政権では、発足当初から強い米国を旗印にしており、ドル高政策をとっていました。米国はドル高、高金利、あるいは高金利だからこそドル高になっているという状況でした。
金利が高かった理由として、インフレ率(消費者物価指数)が高かったことが挙げられます。1980年ごろのインフレ率は年率で約15%になっていました。1970年代前半は5%ぐらいでしたが、1974年に12%付近まで上昇。その後1976年には5%割れまで低下しましたが、1970年代後半から1980年にかけてインフレ率が急上昇しました。
もともとインフレ率は世界的に現在よりかなり高い時代が続いていました。1970年代に世界的にインフレ率が上昇した要因はエネルギー価格で、とりわけ原油価格の上昇が影響を与えました。
中東戦争によって原油価格が上昇
ちなみに、今でこそイスラエルとアラブ諸国は大規模な戦争をしていませんが、1970年代までは頻繁に戦争をしていました。第一次から第四次までの大戦争を繰り広げており、第一次中東戦争は1948年5月14日に勃発しました。イスラエルがこの日に独立を宣言すると、それまでパレスチナ地域の内戦だったものがイスラエルという国家対アラブ諸国という国家間の戦いに発展。イスラエルの独立宣言の翌日には周辺のアラブ諸国であるエジプト、サウジアラビア、イラク、トランスヨルダン、シリア、レバノンがパレスチナに軍隊を送りイスラエルと戦いました。戦争はイスラエル優位のまま、1949年6月に双方が国連の停戦勧告を受けて停戦となりました。
しかし、1956年にエジプトがスエズ運河の国有化に踏み込みました。スエズ運河の運営会社の株主で、石油の輸送ルートとして利用していた英国とフランスはエジプトの国有化に対抗するためにイスラエルをたきつけて戦争を起こさせ、自分たちも仲裁という名目で介入しました。
この第二次中東戦争は、10月29日にイスラエルのシナイ半島侵攻によって開始されましたが、国際的な非難の声が上がり、また支援が期待された米国が非難したこともあり、11月6日に国連の停戦決議を受け入れました。
第三次中東戦争は、1967年6月5日にイスラエルの先制攻撃で始まりました。イスラエル優勢のまま6月8日にイスラエルとヨルダン、エジプトが停戦。6月10日にシリアも停戦し6日で終了しました。
第四次中東戦争は、1973年10月6日に開始されましたが、国際社会の調停を受けて10月23日に停戦が成立しました。第四次中東戦争が起こると、10月16日に石油輸出国機構(OPEC)加盟6か国は原油の公示価格を1バレル3.01ドルから5.12ドルに引き上げました。そしてOPECは原油生産量を段階的に削減し、イスラエル支援国である米国などに対して経済制裁として原油禁輸を行いました。さらに、1974年1月からは原油価格を5.12ドルから11.65ドルに引き上げました。こうした原油価格の上昇を受けて世界的にインフレが進行したのです。
双子の赤字が拡大しドルの信用が低下?
1970年代からの米国は、インフレ率の上昇下での経済活動の減速というスタグフレーションに苦しんでいました。この状況を何とかしようとして、1979年にFRB議長に就任したポール・ボルカーは、同年8月より、のちに「ボルカーショック」と呼ばれる新しい金融政策を導入してインフレの抑制に努めました。
このときのフェデラル・ファンド(FF)金利はそれまで11%前後でしたが、ボルカー体制で引き上げられ1981年には20%ほどになりました。この政策で米国の成長率は鈍化して失業率は上昇しましたが、インフレ率の沈静化には成功しました。
米国の消費者物価指数は1980年ごろに一時15%ほどに上昇しましたが、ボルカー議長の政策を受けて1983年には3%台まで劇的に低下しました。このときの米国はレーガン政権で、レーガン大統領は1981年1月の就任早々に経済再建計画を打ち出しました。この経済政策は「レーガノミクス」と呼ばれました。
レーガノミクスは、①大幅な減税②軍事支出の増大③規制緩和④マネーサプライのコントロールによるインフレの抑制—が柱となりました。経済活動における規制の撤廃や緩和で自由競争を促進。通貨供給量のコントロールで金融を引き締めたり緩和したりすることや、軍事支出の増大、大規模な減税によって供給面から経済を刺激することを目指しました。
レーガン政権は強い米国を目指してドル高政策を行い、結果として強いドルとなりました。就任時に米国は高いインフレとなっていましたが、減税と大型の財政出動をセットとしたために財政赤字が拡大しました。インフレが上昇すると共に米国の政策金利も上昇し、経済が減速したことから米国の投資は減少したのです。
その一方で、米国は高金利だったこともあり、日本を含めた世界中の投資資金が米国債に向かい、ますますドル高になりました。このドル高によって米国の製造業はダメージを受け、輸出の減少と輸入の増加によって米国の貿易赤字が拡大しました。このころ米国への輸出は日本とドイツが多く、米国では日本車を破壊するなど日本に対して良くない感情が芽生え、それがドル安に向かわせる遠因になりました。
これら米国の財政赤字と貿易赤字は「双子の赤字」と呼ばれ、その後の米国政治や世界経済において大きな問題になりました。
なお、1970年代から変動相場制に突入したドル円は、米国の双子の赤字が拡大したことで一時200円割れまでドル安になっていたのですが、このときは貿易赤字や財政赤字を嫌気したドル安でした。
そこにレーガン大統領のドル高政策が打ち出され、ドル円は一時270~280円まで上昇。1985年のプラザ合意までは220~230円から270~280円のレンジで推移していました(チャート②)。
米国のドルは基軸通貨ですから、米国の通貨政策は為替相場に大きな影響を与えます。為替を変動させる材料はさまざまなものがありますが、その中でも「基軸通貨ドルをどうするのか」という米国の通貨政策は大きな材料になります。過去の大統領の政権と比べて、現在のトランプ大統領やその周りのスタッフは為替にはあまり興味がないようで、ドルに対する明確な政策がないように感じます。
もう一つ為替に影響を与えるのは、いうまでもなく米国金利の動きです。正確にいうと、2国間の金利差です。例えば、ドル円であれば米国と日本の金利差がドル円のレートに影響を与えます。教科書通りであれば、米国の金利は常に日本の金利よりも高いので、金利差が拡大すればドルが買われ、縮小すればドルが売られるという動きになります。実際の為替は金利差だけで変動するとは限りませんが、金利差はいまだに為替を動かす大きな要因の一つになっています。
このように、1980年代前半のドルはさまざまな材料からドル高の状況が続きました。このときのDXYは130ほどと高い水準で、ドル円も250円を中心として220~280円で推移しており、現在からすると信じられないようなドル高、円安が続いていたのです。
結局、このころのドルは最強通貨でしたが、それから40年たってドルはDXYで見れば40%以上減価(円に対しては43%ほど減価)しています。減価の最初のきっかけとなったのは、1985年9月に決定された前出のプラザ合意でした。プラザ合意に関しては、次回に書くことにします。
※この記事は、FX攻略.com2020年11月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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