追加交渉では歩み寄り見えず
6月末に英国が移行期間の延長はやらないと決定したため、泣いても笑っても今年いっぱいで、欧州連合(EU)との離脱交渉は打ち切りとなります。それまでに合意できれば問題ありませんが、EUも英国も歩み寄りを見せず、厳しい状況が続いています。
例年であれば夏休みのバカンス真っ最中の8月中旬。新型コロナウイルスのパンデミックによる移動制限もあり、今年はEUと英国それぞれの交渉関係者がブリュッセルに集まり、7回目の交渉を行いました(図①)。結果は、双方が主張を曲げず、合意ならずでした。

EUと英国、譲れないところ
いったいどんな問題が、合意を妨げているのでしょう? それについて調べてみると、四つありました。
LPF
日本人にとってなじみのない言葉ですが、LPFは「Level Playing Field」の略であり、EUの環境規制や公正競争規約を順守し、英国は離脱後もEUとは対等で平等な競争環境を築きあげるべきであると、EU側は主張しています。
例えば、英国がEUとの貿易で、できる限り関税をゼロにしたいのであれば、ギブアンドテイクで何らかのEU規制は受け入れるべきであるという見解。言い換えれば、「英国お得意の良いとこ取りは許しません」ということでしょう。
英国がEUと同じ土俵で戦わず、規制撤廃やルール緩和などを通してEU市場を傷めるのであれば、それ相応の対応をするという「EUの決意表明」とも受け取れます。それだけにEU側は、LPFでは一切の妥協も許していません。
Alignment
LPFと似ていますが、Alignmentとは「EU規制/ルールと完全な適合性」という意味です。英国はEUを離脱すれば完全な独立国になるので、EU規制とのAlignmentは一切望んでおりません。どうしてEUがここにこだわるのかといえば、お隣の英国がどんどん規制緩和をしてしまうと、EU内の企業が英国に移動してしまうリスクが出るからだと思われます。
税制と補助金支給
EUでは、税制や補助金制度などがしっかりと決められており、よほどのことがない限り、例外は許されません。英国はEU離脱後、独立国家として自分たちで自由に税制や補助金などを決めたい意向を示しています。しかし、EUとしては、英国が国内産業にEUよりずっと魅力的な補助金を支給したり、驚くほど低い法人税を導入したりして企業がEUから離れてしまうことを恐れています。
漁業権
EU加盟国は、他の加盟国の領域で漁業をすることが認められています。英国の領域にはたくさんの良質な魚がいるので、EU加盟国は英国が離脱した後も、そのまま英国の領域で漁業を行うことを望んでいます。しかし、英国は毎年の割り当て制に変更することを主張しており、平行線をたどっています。
EUの貿易担当責任者は、英国がEU各国の英国領域での漁業権を認めなければ、金融サービスに多大な制限をかける準備があると警告しており、かなり深刻な問題に発展してしまいました。
今後のスケジュール

図②は、欧州委員会が作成した年内のスケジュールをまとめたものです。9月末までに合意する前提で作成されているようですが、最悪の場合は10月中旬のEUサミットまでずれ込んでも大丈夫であろうというのが、英国での見解です。そのため公式ではありませんが、「10月中/下旬」が、本当の意味での合意最終期限と考えてよさそうです。
英国政府は合意なき離脱でもいいのか?
英国のボリス・ジョンソン首相率いる内閣は、全て離脱支持議員で固められています。そのため、閣僚の口からは「合意なき離脱でも大丈夫」という主旨の発言が飛び出ることがありますが、首相は合意したいと考えているようです。
それには理由があり、ロックダウンが大幅に遅れ多数の死者を出してしまったパンデミック対応の失敗や、学校教育に対する判断ミスなど、今年に入りジョンソン首相の「政策における失点」は多く、支持率もマイナス圏に突入しました。しかし、ブレグジット交渉で奇跡の合意となれば、支持率が回復するだけでなく、「絶対に無理だと思われていたブレグジット交渉で合意に持ち込んだ歴史に名前を残す偉大な指導者」になれるからです。
国のためではなく自分の名誉のためですが、それでも合意なき離脱で国家と国民が途方にくれるより、ずっとましなのかもしれません。
※この記事は、FX攻略.com2020年11月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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