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欧州ファンダメンタルズ入門|第18回 平均インフレ率目標(AIT)[松崎美子]

金融政策の枠組み変更に動いた米国

 今回は米国の金融政策枠組みの変更について書いてみたいと思います。2008年の世界規模の金融危機以来、いくら中央銀行が金融緩和をしてもインフレになりにくい状況が続いています。このような新しい経済モデルへの移行に際し、中央銀行だけが従来の金融政策を継続することに疑問の声が挙がり、最初に金融政策の枠組み変更に動き出したのが米国でした。

 パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、2020年8月のジャクソンホール経済シンポジウムを発表の場と選び、そこで「平均インフレ率目標(Average Inflation Targeting、以下AIT)導入」を発表したのです。

 チャート①が発表直後からのドル円の動きですが、AITにより政策金利の引き上げが大幅に遅れる可能性を先取りし、ドルが急落しました。

2020年8月、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が「平均インフレ率目標(Average Inflation Targeting、以下AIT)導入」を発表した直後のドル円1時間足チャート

AITとはどんな政策か?

 AITについては、先月号でも書かせていただきましたが、復習の意味も含め繰り返します。この政策を導入している中央銀行はなく、米国がかじ取りを間違えれば大きな混乱を招く政策なだけに、しっかり理解してください。

 AITは従来のインフレ目標とは違い、「インフレ率がターゲットを下回る時期が一定期間続いた場合、景気が回復し物価がターゲットを上回る時期が来ても、政策金利の引き上げを見送り、しばらく様子を見る」という考えです。

図1 サンフランシスコ連銀が作成したAIT

出典:米サンフランシスコ連銀

 図①はサンフランシスコ連銀が作成したもので、従来のインフレーション・ターゲットは紺色の線、AITは水色の線で描かれています。

 違いを説明すると、従来のインフレーション・ターゲットであれば、紺色の線が2%に限りなく近づいた時点で、インフレのオーバーシュートを避ける意味でも、先手を打って政策金利の引き上げが実施されました。しかし、AITでは赤丸部分の2%を超えた局面でも政策金利は据え置きのまま、ひとまず様子を見守るということです。

 そのため、このAITの導入により、米国では超低金利政策が長期化し、結果として実質金利のマイナスも長期化する可能性があるため、マーケットではドル安というコンセンサスが出来上がったとも考えられます。

 もう一度整理をすると、米国のAIT導入により、①少なくとも今後数年は、米国の利上げはなさそう②ドルの実質金利は低いままで、場合によってはさらに低下するかもしれない—これでは、ドルを買う気になりにくいのも当然かもしれません。

年初からの米長期金利の上昇

 このようなバックグラウンドの中、今年は年初早々予想外に米国の長期金利が上昇し、ドル高となりました。長期金利上昇の背景には、①米議会がBlue Waveとなったことを受け、より大規模な財政支援が予想され、景気回復が期待される②イールドカーブのスティープ化(※)により、景気回復期と捉えられた(図②参照)③ワクチン接種の開始による集団免疫達成期待④ドルのショートの炙り出し—などが考えられます。

図2 イールドカーブのスティープ化

出典:米財務省

※ 景気回復期に見られることが多い。その場合、金融政策は緩和気味となり、その影響をより大きく受ける短期の金利の低下幅が長期よりも大きく、その差が拡大し勾配が急となる。将来と足元を比較して、今はまだまだ好調といえないけれども、徐々に将来の見通しが明るくなってくるような状況ともいえる。

 ①の大規模な財政支援の財源は赤字国債となるようですが、「財政の崖問題」は回避できるのでしょうか? 調べてみると、2019年8月に「2019年超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2019)」が成立し、政府予算に設定される法定歳出上限を2年分引き上げることに加え、政府債務残高に設定される法定債務上限の適用を2021年7月31日まで2年間停止することなどが決定されていました。

 この予算法の成立により、少なくとも今年の夏までは財政の崖問題が浮上しないことになります。もしこの問題が再浮上することになれば、バイデン新政権は新規借り入れができなくなったり、財政運営資金が枯渇し米国債への返済が滞るなど、デフォルト状態に陥る可能性もないとはいい切れないでしょう。

 このように2021年の相場は、どのタイミングでどの「ショック」が起きるか分かりません。2020年のコロナショックよりもタチの悪い相場にならないことを祈るばかりです。

※この記事は、FX攻略.com2021年4月号(2021年2月20日発売)の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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ABOUT ME
松崎美子
松崎美子
まつざき・よしこ。スイス銀行東京支店でトレーダー人生をスタート。1988年渡英、1989年よりバークレイズ銀行ロンドン本店Dealing Roomに就職。1991年に出産。1997年に同じくロンドン・シティにある米メリルリンチ投資銀行に転職。その後2000年に退職。現在はFX取引に加え、日本の個人投資家向けにブログやセミナー、YouTubeを通じて欧州直送の情報を発信。著書に『松崎美子のロンドンFX』『ずっと稼げるロンドンFX』(共に自由国民社)。2018年より「ファンダメンタルズ・カレッジ」を運営。DMMで「FXの流儀」のオンラインサロンも始めた。 スクール:ファンダメンタルズ・カレッジ オンラインサロン:FXの流儀 ~ファンダ・テクニカルを語ろう~
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