FX力を鍛える有名人コラム

サンフランシスコの飲茶はチャイナ・タウンの飲茶[森晃]

人民元イメージ

 大昔、西海岸のサンフランシスコに滞在する機会があった。美しくてきれいで大好きな街である。そんなサンフランシスコで、丘の上にある立派なアパートを借りた。そのアパートの住人であり、大手銀行で住宅ローンの融資担当の仕事をしている女性と仲良くなった。家族ぐるみで付き合いが始まり、まだ小さかった娘は教会を挟んで前にある公園で、同じ年のお嬢さんと毎日遊んでいた。砂場で二人がスネーク遊びといって、砂の上を這いずっていたのをよく覚えている。娘の服が泥だらけになり、家内がブツブツいっていたことも覚えている。

 そんな思い出がいっぱいのサンフランシスコであるが、この夏にビジネスで成功している友人と空港に降り立った。そのとき、ふと懐かしいメロディーを思い出した。幼少期であるが、タレントの所ジョージさんが「サンフランシスコの飲茶(ヤムチャ)はチャイナ・タウンの飲茶」といいながら、小籠包を宣伝していた。有名なドーナツ屋のコマーシャルソングである。若い世代の読者の皆さまにこのソングについて説明しても、何のことかさっぱり分からないだろうが…。

特別引出権SDRから「上海合意」まで

 SDR(Special Drawing Rights)とは、国際通貨基金(IMF)加盟国の出資額に応じて割り当てられた国際準備資産の特別引出権である。この特別引出権は通貨危機(アジア通貨危機)など緊急時に外貨を引き出せる制度で、2018年のSDRの価値は米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、人民元の構成比率で決定される。計算式は、SDR=0.58252米ドル+0.38671ユーロ+11.900円+0.085946ポンド+1.0174人民元である。

 2015年、中国の人民元はSDRの構成通貨となった。非常に歓迎すべきことである。日本の一部メディアでは、世界第2位の経済規模となった中国が、人民元の影響力を拡大するために、SDR入りを熱望したと報道するものが目立ったことを覚えている。しかしながら、筆者の個人的な意見であるが、これは本末転倒な報道であり、SDRとはIMFによる仮想通貨であるため、実質的に経済活動への影響はない。

 2016年、上海市で20か国・地域財務相・中央銀行総裁会議が開かれた。どこで開かれたかを記憶していた読者は少ないであろう。これは非常に重要な会議となり、「上海合意」と呼ばれる暗黙の合意がなされた。この合意は、文面に残す合意ではなく騎士道の約束であり、連邦準備制度(FED)が利上げを進めていく中で各国中央銀行が金融政策によって「ドル高」を緩やかにするという内容であった。ドル高は新興国の通貨安を招き、キャピタル・アウトフローにより新興国での金融危機を発生させるリスクがある。そのため、そのリスクの軽減と世界経済の安定成長を維持するための騎士道の合意であった。

基軸通貨としての新しい要素

 基軸通貨としての機能を果たすためには、①軍事的に優位な地位にあること②財との交換が容易であること③通貨の価値が安定していること④高度に発展した金融市場を持っていること⑤対外取引が容易なこと—などが必要となる。

 これらに加えて、フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏は、基軸通貨になるための新しい要素を提案しているので紹介したい。その要素とは、「人口」である。この切り口は、非常に興味深い。

 中国の出生率は急激に下がっており、「人口ボーナス」は終わりつつある。そして、人口が高齢化することで人手不足がいずれ起きるので、その問題解決のために移民を受け入れる必要がある。人口3億人の米国は移民を受け入れることで問題解決を図れるが、13億人を超える人口を持つ中国ではそうはいかない。そうなると中国は経済の覇権争いに負けるので、人民元が米ドルに取って代わることはないとトッド氏は考えている。

人民元は基軸通貨となり得るか?

 経済面から、基軸通貨の役割としてグローバルな価値貯蔵手段・決済手段・計算単位が必要とされる。基軸通貨が国際取引の決済手段を海外に提供するためには、基軸通貨国の国際収支は赤字になる必要がある。しかし、それにより対外純債務が増大していき、基軸通貨の対外的な価値を維持することが困難になる。これを「トリフィンのジレンマ」と呼ぶ。

 昨年、あるレポートで「対外債務が増しているため米ドルの基軸通貨としての役割が1970年以降低下し、最近もその傾向がある」と主張していた。しかしながら、米ドルの基軸通貨としての役割は70%以上もあることが示されており、すぐにその地位が揺らぐものとは考えられない。少なくとも、基軸通貨地図(図①)からは、そのことがうかがえる。

基軸通貨地図

 このことは、昔読んだ論文の中からも議論できる。ポール・クルーグマン教授も、「基軸通貨の地位は保持され続けるという慣性(inertia)が存在する」と書いている。そのことは、本誌2019年5月号「第1の運動法則-慣性の法則(物理の教科書から)」でも取り上げた。この裏付けとして、米国経済が英国経済の規模を上回ってから、米ドルがポンドを追い抜き基軸通貨としての地位を築くまでにかなりの時間を要したことが挙げられる。

 一方で、数年前書かれた論文では米ドルが基軸通貨としての地位を築くまでの時間は、短かったとする意見もある。この意見に対して、米ドルが基軸通貨としての地位を築いた時点を、英ポンドと「競合するようになった」1920年代とするか、「取って代わるようになった」1945年とするかの解釈の問題だと指摘する意見もある。

最後に

 米ドル、ユーロ、人民元の3極が基軸通貨の役割を担うのが良いとする論文もある。意見は多種多様である。こういうときは、美味しい「ハンバーガー」「フレンチ」「飲茶」を食べたときに、どの通貨で払うかを考えるのも一興であろう。

※この記事は、FX攻略.com2020年1月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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