数学者であるフランシス・ガスリーが、英国の地図を塗り分けているときに、4色あれば隣り合う国同士が異なる色になるように塗り分けることができることに気づき、4色あればどんな地図でも隣り合う国々を違う色に塗り分けることができるかとの問いを立てた。これを「4色問題」という。この問いは、1976年にケネス・アッペルとヴォルフガング・ハーケンによって可能であることが証明されている。
レバノンを知ろう
レバノンは、北と東はシリアと国境を接し、南はイスラエルと国境を接している中東の国である。その首都ベイルートで、不適切に管理されていた硝酸アンモニウムが引火して大爆発し、多くの犠牲者と負傷者を出す大惨事となったことは読者の皆さまも記憶に新しいであろう。
1975年、レバノンで内戦(イスラム教徒とキリスト教徒の衝突)が勃発するまでは、首都ベイルートは「中東のパリ」と呼ばれるほど華やかな街で、商業、金融、観光の主要な中心地であった。1982年、イスラエルがパレスチナ解放機構(PLO)を追放する目的で侵攻したことで、イスラエル軍はヒズボラ(イスラム教シーア派の武装組織)と軍事衝突を繰り返し、首都ベイルートは戦闘により破壊され、復興費用によりレバノンの財政は非常に厳しいものになった。
レバノンは、「モザイク国家」とも呼ばれている。その理由は、イスラム教やキリスト教など18の異なる宗教や宗派から成り立つ国だからである。政治体制は宗教および、その宗派に依存し、政治権力を分散している。慣例で大統領はキリスト教マロン派、首相はイスラム教スンナ派(日本語表記は、スンニ派)、国会議長はイスラム教シーア派から選出される。国会議員数も、マロン派は34人、スンナ派27人、シーア派は27人である。
イスラム教のシーア派は、開祖ムハンマドと血のつながりを持つべきものからイスラム社会の指導者を選ばなければならないと考えた宗派である。一方、スンナ派は血のつながりではなくコーランやハーディス(ムハンマドの言行録)を重視した宗派である。世界のイスラム教徒の約90%はスンナ派である。ただし、中東諸国ではスンナ派とシーア派の居住エリアの面積は拮抗している(画像①)。

出典:https://www.npr.org/sections/parallels/2007/02/12/7332087/the-origins-of-the-shiite-sunni-split/
スンナ派とシーア派の争いはなぜ起こるのであろうか。それは経済的な利権や政治的な闘争による理由が背景にある。例えば、サウジアラビアはスンニ派が多数を占める国であるが、シーア派は東部に居住し、その居住地区に油田の大半が集中しており、経済的に非常に重要な地域であるためそれらを巡った利権争いがある。また、中東諸国の覇権争いは欧州諸国、米国、ロシアなどいろいろな国々との結びつきにより、とても複雑なものとなっている。
レバノンの物価は?
ハイパーインフレーションとは何かご存じであろうか。ハイパーインフレーションとは、急激に進行するインフレーションの現象である。経済学者であるフィリップ・ケーガンは、ハイパーインフレーションについて「インフレ率が毎月50%を超えること」と定義している。経済学者であるトーマス・サージェントは、1984年の論文『The Ends of Four Big Inflations』で、第一次世界大戦後にハイパーインフレーションを経験した国々としてハンガリー(1922年-1924年)、オーストリア(1922年-1923年)、ポーランド(1921年-1924年)、ドイツ(1922年-1923年)を挙げている。そして、ハイパーインフレーションが生じた要因は、第一次世界大戦の賠償金支払いなどに伴う財政赤字の急膨張としている。
さて、スティーブ・ハンケ教授は、購買力平価(Purchasing Power Parity)とブラックマーケットでの為替レートを合わせた理論を用い、近年ハイパーインフレーションが何回起きたかを推計した。教授の2017年の論文によれば、1988年以降でも世界で40回ものハイパーインフレーションが発生したと結論づけている。
ここで、最近のレバノンのハイパーインフレーションの計算結果について紹介したい。レバノンは月間でインフレーションが50%を超え、中東・北アフリカ地域で最初のハイパーインフレーションを記録したとしている。そのインフレ率は年率388%である(画像②)。

確かに、レバノンの2020年5月の食料インフレ率は前年比で190%である。そして、レバノンの通貨はペッグ制を導入しているため通貨の危機は表面上起きていないが、ブラックマーケットでは「通貨危機」はもう既に起きている(画像③)。レバノン政府は、国際通貨基金(IMF)と数十億ドル規模の経済救済策について交渉している。

この議論をすると、すぐに日本銀行の資産購入や財政赤字からインフレーションを心配し、レバノンの経済状況を例えにして極端な通貨「円」や「日本国債」の暴落を議論し、日本の将来の経済についてやみくもに不安をかき立て、インターネットで商売をする悪いやからがいると聞く。しかし、日本のインフレ率が50%を超えたり、ドルと円がブラックマーケットで取引される可能性はあるだろうか。
最後に、通貨とは単純に売買をするための「貨幣単位」だけにとどまるものではなく、外交、文化、哲学、宗教などを含んでいる。レバノンの情勢を見て、経済だけでなくいろいろなことを読者の皆さまには考えてもらいたいものである。
※この記事は、FX攻略.com2021年1月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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