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パラジウム異次元へ[佐藤りゅうじ]

短期的には上昇の最終局面入りか

 パラジウムの爆騰が止まりません。今年に入ってわずか10営業日超ですが、年初から既に26%上昇しています。ドル建て現物価格は一時2543ドルまで上昇し、先物の貴金属市場(金、銀、プラチナ、パラジウム)では、史上最高値をつけています。2020年1月号では、長期的に2000ドルを目指すと書きましたが、まさか4月号の執筆時点で2500ドルを超えるとは予想していませんでした。今回は、爆謄を続けるパラジウムの現状、そして今後の動きを考えていきましょう。

ドル建てパラジウムの推移

 まず、チャート①をご覧ください。今年1月からのパラジウムの価格上昇のすさまじさがご理解いただけると思います。昨年12月31日以降、1月17日まで陰線はありません。昨年末は1942ドルだったものが、1月17日には2543ドルまで水準を引き上げました。約31%の上昇です。今年に入ってからの値幅を見ると、一日の平均が75ドル、特に1月16日は113ドル、17日は220ドルと歴史的な上昇を演じました。

 これほどの爆謄となると、ファンダメンタルズうんぬんの話だけではありません。今年に入り、とりわけ1月13日以降に起きていることは、スクイーズでしょう。スクイーズとは、買い方が市場から現物を吸収して売り方を踏み上げに追い込むことです。ちょうど、1月13日辺りから、リースレートに異変が起きています。

 このリースレートとは、簡単にいってしまえば貴金属を貸し借りする金利です。市場への供給が少ないとリースレートは上昇します。パラジウムの1か月のリースレートは1月13日時点では11%台でしたが、14日には12%、15日には20%台に上昇しています。そして16日も20%台でしたが、17日にはなんと43%まで上昇しました。ちなみに、金の1か月のリースレートは0.5%くらいです。

 43%ものリースレートというのは、渡す気がないといってもいいでしょう。つまり、今年に入ってからの爆謄は買い方の仕掛けです。おそらく、1月17日の200ドル超の上昇場面ではオファーがなく、ほとんど約定できていないでしょう。スクイーズが起きると、多くの場合は急騰、それから暴落し、マーケットは沈静化します。その意味では、1月のパラジウムの爆謄は目先の天井が間近であり、その後は大幅な水準調整があることを示唆しています。2000ドルを割ってくる可能性もあるでしょう。

長期的な上昇は続く

 スクイーズが起きると、急騰した後に暴落、そして市場は沈静化すると述べました。しかし、パラジウムに限れば、暴落後は再び上値を探る展開になると考えています。それは、ここ数年のパラジウムの上昇は投機マネーによるバブル的な要因だけではなく、ファンダメンタルズに基づいた動きでもあるからです。

 過去にも説明しましたが、パラジウム需給について簡単におさらいをします。パラジウムの主な用途は、ガソリン車の自動車触媒です(ディーゼル車はプラチナを主な触媒とします)。調査会社のGFMSのデータ(表①参照)によると、2018年は総需要334.7トンに対し、自動車触媒需要は268.1トンと総需要の約80%にあたります。その他には、電子材料、歯科用材、宝飾品用材などの用途に使われます。

調査会社のGFMSのデータ 世界のパラジウムの需要と供給

 一方、供給サイドですが、主産地は同データによると、2018年は南アフリカとロシアの二国で鉱山生産量の約77%を占め、これに北米の鉱山生産量を加えると総生産量の9割を超えます。毎年210トン前後の鉱山生産量があり、これに使用済みの自動車触媒を回収したものと中古宝飾品を加えた数値が、パラジウムの総供給量です。2018年の総供給は281.9トンでした。ここから総需要の334.7トンを引くとマイナス52.8トン、つまり52.8トンの供給不足でした。パラジウムの供給不足は2010年から続いており、2019年も約57.3万トンの供給不足であったとみられています。

今後も供給不足は続く

 パラジウムの供給不足が簡単に解消しない背景として、各国の環境規制の強化により、ガソリン車におけるパラジウム使用量が増加していること、さらにはフォルクスワーゲンのディーゼルエンジン排出ガス規制に対する不正問題が、自動車メーカーにディーゼル車からの撤退やガソリン車の生産比率の上昇を促したことが挙げられます。

 その一方で、パラジウムの増産はなかなか進みません。これは、パラジウムが銀やプラチナを採掘した際の副産物としての側面が強いためです。もちろん、これだけの高値となれば、積極的にパラジウムの採掘を行うことになりますが、もともとの産出量自体も少ないので、急増する需要を満たすことは容易ではないでしょう。

 スクイーズから爆騰したパラジウムは、目先では暴落をするでしょうが、その後はファンダメンタルズから再び地合いを引き締めそうです。

※この記事は、FX攻略.com2020年4月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

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