米国の国内総生産(GDP)統計にはいくつかの項目があります。その中で最大のウェートを持つのが個人消費です。個人消費は米国のGDPの70%ほどを占めます。その次にウェートが高いのが政府支出で17%ほど、設備投資が13.5%ほど、純輸出(輸出-輸入)が−3%、住宅投資が4%です。
この中で住宅投資は乗用車購入を除く耐久財消費財との相関が高い投資です。住宅は景気との相関のサイクルがあります。不況になると政策金利が引き下げられますから、長期金利が低下して住宅ローンの金利も低下します。そうなると家賃を払っているよりも住宅を購入する方が有利になるので、住宅購入を考える人々が増えます。そのことを住宅のディベロッパーは知っていますから住宅供給が増えてきます。住宅着工件数や住宅建築許可件数が増加してくると、住宅資材の発注が行われ、木材、レンガ、セメント、配管などの多くの業種が潤ってきます。このサイクルが繰り返されています。
そして、好況が続くと金利は上昇しますし、住宅価格も上昇しますから住宅建築はやがて減少していきます。住宅を取得することは米国の人にとっては夢であり、一種のアメリカン・ドリームですが、おいそれとは手が出ない高額なものです。米国にはいくつか住宅に関する指標があります。今回はこの米国の住宅に関する仕組みをご紹介します。
住宅ローンの仕組み
住宅を購入しようとする人や、住宅ローンを借り換えようとする人は銀行などで住宅ローンを申し込みます。これらの住宅ローンを貸し出した金融機関は多くの住宅ローンの中からローンの金利、期間、債務者のクレジットスコア(個人の信用状況を点数化したもの)などが似ているものを集めて、政府系機関を通じて証券化を行い市場で売却します。
政府系金融機関(GSE)は実は連邦の機関ではありません。このためにGSEが発行する債券は政府保証がついているわけではありません。しかし、市場では暗黙の政府保証があると信じられています。信用力が高く、流動性も高く、米連邦準備制度理事会(FRB)による日々のオペレーション(市場から資金の供給や吸収)の対象になっているので、米国債に準じる扱いを受けています。
GSEには連邦住宅抵当公社(Fannie Mae ファニーメイ)、連邦住宅貸付抵当公社(Freddie Mac フレディマック)があります(画像①・②)。それ以外にも連邦住宅貸付銀行(FHLB)、農業信用制度(Farm Credit System)などがあります。
出典:ファニーメイ
出典:フレディマック
先ほどの小口の住宅ローンをまとめて証券化した債券は、「モーゲージ担保証券(MBS)」と呼ばれています。これらのMBSの中でGSEが保証するMBSは「エージェンシーMBS」と呼ばれます。エージェンシーMBSには、ローン金額、借り手の財務状況、必要書類の有無など一定の基準があります。さらにエージェンシーMBSの基準に満たないものは民間のMBSとなります。民間MBSは信用力の高さに応じてジャンボ、オルトA、サブプライムに分類されます。
2008年に起こったリーマンショックは、2007年のサブプライムショックが引き金になっています。世界中の投資家に売られたサブプライム級の債券の破綻が増加して、さまざまな債券にも信用不安が起こったことが発端となりました。
MBSの市場は1980年代に急成長して、1999年ごろに発行残高が米国債を上回り2007年に9兆ドル台でピークに達し、その後は低迷しています。2010年ごろに発行額も米国債に逆転されています。2008年以降、米国債の発行額が急上昇しており、今回の新型コロナウイルス感染症対策による経済支援策の財源で発行額が再び増加しています。エージェンシーMBSの発行額は2003年ごろに2.8兆ドルほどでピークを打ち、その後は2兆ドル前後で推移しています。民間MBSは2006年に1.5兆ドルでピークを打ち、その後は急低下しています。
住宅に関する指標
住宅着工件数
住宅着工件数は月内に建設が開始された新築住宅の戸数です。一戸建てと集合住宅別の数字が発表されます。また地域別(北東部、中西部、南部、西部)の数字も発表されます。住宅着工件数は天候に左右される数字です。特に冬の北東部など天候の厳しい地域では数字が大きく変動します。これは季節調整後でもかなり変動する数字のために3か月ほどの平均値などで比較することが重要です。景気循環との関連性を見ると、景気に大きな影響を与えます。住宅投資が増加すると家具や電気製品などの購入も増加するために波及効果があるからです。
住宅建築許可件数
住宅建築は住宅着工を行うに先立って地方自治体に許可申請を行わなければなりません。許可を受けた住宅の約98%がその後に実際に建築されます。許可を受けた件数のうち、大部分は月末中に着工していますが、月末時点での未着工の数字も発表されています(チャート①)。
着工件数の先行指標になることで景気先行指数の評価項目に採用されています。ただ着工に関しては天候に左右されることが大きいので、その辺りには注意が必要になります。両方の指標は米商務省のセンサス局から発表されます。月次のデータで、発表されるのは翌月の第3週になり、過去2か月分が同時に改定されます。
新築住宅販売件数
新築住宅販売件数は、新築一戸建て住宅の販売数の統計です。所有権譲渡の契約書に署名を完了した数字で、景気変動に対する先行性が高い指標です。住宅の在庫件数、平均価格、中間価格も同時に発表されます。新築住宅販売の売り上げは住宅市場全体の15~20%を占めるとみられていますが、リーマンショック以降はその比率がかなり落ち込みました(チャート②)。
新築住宅販売件数が先行性があるといわれているのは、所有権譲渡の契約署名の完了時に数字がカウントされるためです。つまり住宅が完成する前に売買が成立するからです。中古住宅販売の場合は、実際にその家に移ってからの数字ですが、新築住宅販売の場合は契約段階の数字です。こちらも商務省センサス局より月次データとして翌月の25日前後に発表されます。
中古住宅販売件数
中古住宅販売件数は、全米不動産協会(NAR)発表の中古住宅の販売統計です。月次発表は翌月25日前後に発表されます。これは中古住宅がどれだけ売れたのかという販売数ですが、所有権の移転が完了した件数です。米国では中古住宅の販売が新築より多く、住宅市場の大部分を占めているので、米国の住宅市場は中古住宅市場が鍵を握っています。
発表される内容は一戸建て住宅の他に集合住宅も含まれます。その他に在庫件数、平均価格、中間価格なども発表されます。実は販売件数だけではなく、これらの数字が非常に重要な意味を持っています。住宅価格が上昇すれば住宅を保有する人たちの資産が増えるわけですから、ここで住宅による資産効果で消費に影響を与えることになります。自分の住宅価格が上昇すれば、利益を確定して資金を手にしているわけではありませんが人々の消費は増加します。これが資産効果です。一方で資産である住宅価格が下落すると人々は消費を控える傾向があります。また、新築・中古に関わらず住宅の販売が増加すると家具や電気製品の売り上げも増えますから、これらも経済をサポートする効果になります。
もう一つ住宅が景気の転換点になるか見極める数字としては「住宅在庫供給月数」というものがあります。これは現在売り出している住宅の在庫がどれくらいあるかに注目した指標です。在庫件数を販売件数で割った数字で、現在の在庫が何か月で一掃されるか(実際に住宅の在庫が一掃されることはありません)を表す数字です。この数字が減少して在庫の回転が速くなってくると住宅市場が上向きになってきていることを示します。こうなると景気も上向きになってきていると判断しても良いでしょう。
金利の低下が住宅市場を支える
住宅ローンの仕組みでも書きましたが、住宅ローン金利の動きと住宅市場の動向は非常に相関が高い関係です。当然ですが住宅ローンの金利が低下すれば総支払額は減少しますから、住宅を購入したいと思う人にとって金利の低下は住宅購入のチャンスです。
また、住宅の価格も当然重要な要素になります。住宅の価格が低い方が良いのですが、そのようなときは不況か経済が減速しているときです。
そうするとそのようなときでも住宅を買う人はある程度安定した仕事に就いている人たちです。経済が減速したり不況になるときは住宅価格が低下し、金利も低下しますから住宅購入者にとっては良い条件になります。しかし、住宅は多くの人がローンを組んで購入しますから仕事がしっかり安定していないと購入には踏み切れません。ですから雇用情勢も住宅の販売には影響を与えます。
住宅ローンは30年以上のローンが多いようです。フレディマックが9月に発表した30年物の固定金利は2.86%となり過去最低を記録しました。この住宅ローン金利は米30年国債の利回りに連動する形で決まります。現状の米30年債の利回りは1.65%ほどです。だいたい米30年債利回り+2%ほどが住宅ローンの固定金利になるようなので、30年金利の低下と共に住宅ローン金利も過去最低に低下しました。このことが最近の住宅市場が活況を呈している原因です。
もしバイデン政権が誕生すると、民主党の政策方針は「大きな政府」ですから、財政赤字が膨らむ可能性があり、そのことを懸念して直近の米債券利回りは上昇しています。そうなると、ここが最後の買い時と住宅購入が増加するかもしれません。政権の政策と債券利回りの動きが住宅市場に大きな影響を与える仕組みになっています。
※この記事は、FX攻略.com2021年1月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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