※この記事は、FX攻略.com2021年2月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
強気の“役者”が出揃って市場はリスク選好へ傾く
既知のとおり、今回の米大統領選においては民主党のバイデン前副大統領が当選を確実なものとした。ただ、トランプ米大統領は政権移行の初期段階の手続きを進めることに関してはようやく容認したものの、執筆時においてはなおも「大統領選での敗北」を認めていない。
むろん、11月23日に米連邦政府一般調達局(GSA)のエミリー・マーフィー局長が政権移行手続きの開始を容認したことで、ひとまず無用な危機が生じる可能性は低下し、その点は市場でも大いに好感されている。
手続きが速やかに行われなければ、米国の政治空白が続く間に中国や北朝鮮、ロシアなどが挑発行動を仕掛けてくる可能性もあった。また、政権の引き継ぎが遅れれば、バイデン氏が重要視している新型コロナウイルス向けワクチンの供給に支障を来す可能性もあった。よって、当然のことながら市場は米政権移行手続きの開始を大いに歓迎し、米・日の株価は大幅に上昇した。
また、時を同じくして、世界の複数の製薬メーカーからワクチンの実用化に向けた前向きなニュースも伝わり、そのことも株高に拍車をかけることとなった。
さらに、バイデン次期米政権の財務長官にジャネット・イエレン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長を充てる人事が有力とされたことも、市場の期待感と安心感を一段と強める大きな要因となった。イエレン氏が財務長官に就任すれば、金融政策と財政政策の連携がグンと強まり、米国経済のコロナ禍からの回復がより確実なものになるだろうというのが市場の読みである。
「バイデン氏の勝利、ワクチン開発の進展&イエレン財務長官誕生の可能性」と、これだけ複数の“役者”が出揃えば、ついにNYダウ平均が3万ドルの大台乗せとなるのも道理である。
「イエレン氏ならドル安」と決めつけることなかれ…
長らくコロナ禍に苛まれ続けてきたこともあり、執筆時の市場のムードは一気にリスク選好へと傾いている。
その割に、米債市場の反応が鈍いように感じる点は少々気掛かりではあるが、そこは「感謝祭」を控えた時節柄(執筆時)ゆえという側面もないではない。
実際、感謝祭を目の前にしてドル円が103.60~70円あたりから104.60~70円あたりまで一気に上昇するという場面もあった。これもイベント前のポジション調整に伴う円の売り戻しが要因として小さくないものと思われる。
実際、ユーロドルや豪ドル米ドルなどは高止まりの状態を続けており、必ずしもドルを買い戻す動きが強まったわけではない。まして、次の米財務長官にハト派で知られるイエレン氏が就任するとなれば、市場の中にはそれをドル安要因と捉える向きも多い。米株高を横目に米債金利が低位に留まっているのも、そのことが影響している可能性はある。
ただ、少し前まで市場では、かつてオバマ政権で財務次官を務めたブレイナードFRB理事が有力と見る向きが多かったわけで、同じハト派でもイエレン氏はブレイナード氏ほどではないとの見方もできるだろう。
イエレン氏がFRB議長を務めていた当時(2014年2月~2018年2月)のことを思い起こすと、その間、必ずしもドル安一辺倒ではなかったこともまた事実である。むしろ、当時はユーロドルが2014年5月に1.3993ドルの高値をつけた後に反落し、そのままずるずると値を下げ続けて、2017年1月には1.0340ドルの安値をつけるに至るという展開も見られていた(チャート①参照)。
要するに、イエレン氏は単にハト派の姿勢を頑なに貫こうとしているわけではない、むしろ非常に現実的な人物であるということである。よって、いたずらに「ハト派でドル安主義」と決めつけることには慎重でありたい。ともかく、当面は米財務長官就任後のお手並みをしっかりと見定めることが重要となろう。
ユーロを取り巻く状況は一段と厳しさを増している
先に「ユーロドルは高止まりの状態」と述べたが、そうした状態が続いている現状は、筆者にとって不可思議でならない。
なにしろ、コロナ感染の再拡大によって執筆時の欧州では都市封鎖(ロックダウン)に踏み切る地域が後を絶たない状況となっているのである。当然、これだけ厳しい行動制限がかかれば、欧州における10-12月期の域内景気が再びマイナスに沈む可能性も大いに高まる。
その実、調査会社IHSマークイットの調べによるユーロ圏の11月の購買担当者景気指数(PMI)の「総合指数」は45.1と、前月比で4.9ポイントものマイナスに陥った。むろん、製造業、サービス業のいずれの指数も前月に比べて大きく落ち込んだ。
また、欧州連合(EU)の首脳が7月に合意した「欧州復興基金案」の成立がハンガリーとポーランドの反対によって遅れていることも、ユーロにとっては一つの気掛かり材料と言える。コロナ禍からの「復興」を実現するための重要な基金が、予定通り2021年の年初から稼働できないとなれば、欧州全体の景気回復は先延ばしになりかねない。
さらに、明日の欧州景気をも大きく左右する英国とEUの通商交渉の行方も、執筆時点ではなお予断を許さない状況にある。既知のとおり、交渉期限は年内であり、万一、交渉がまとまらなければ大混乱を招く。
仮に、年内に合意がまとまったとしても、年明けからの物流には間違いなく波乱が生じる。通関作業が物理的に手間取るうえ、企業も当分は対応に苦慮し続けることとなろう。
問われる!ワクチンへの市場の「期待」の「持続性」
むろん、英国やユーロ圏でもワクチンへの期待は大きい。それどころか「コロナの感染拡大が深刻な地域だからこそ、余計にワクチンの話題はポンドやユーロの買い材料として強い」との声まで市場の一部では聞かれる。
なかには「世界景気の回復期待が高まれば、(リスク選好ムードの高まりで)ドルが売られてユーロが買われやすくなる」と見る向きもある。
ただ、現状ではユーロに数々の下方リスクが厳然とあることも一応は押さえておかねばなるまい。少し振り返れば、ユーロドルは7月下旬に1.1900ドル台に乗せる動きを見せてからずっと、基本的には1.1900~1.2000ドル処で上値を押さえられ続けている。
そもそも、足下で高まり続けているワクチンへの市場の「期待」には、一体どの程度の「持続性」があるのだろうか。市場の盛り上がりに水を差したくはないのだが、バイデン氏は米国のファイザー社が開発中のワクチンについて「承認されても数か月間は幅広く利用可能にならない」と述べている。自身が米大統領に就任する時までに、事態が大きく改善する見込みは低いと考えているようなのだ。
また、仮に幅広く利用可能になったとしても、当面は安全性を懸念して「摂取したくない」とする向きが多いと見込まれている。米国では、ことに共和党支持者がワクチンに懐疑的であるとされ、なかでもトランプ支持者はマスクの効果にも懐疑的であるという。ワクチンもマスクも拒否では、感染拡大の終息もままならない。
思えば、世界の株価が連日の上値追いを続けている一方で、欧米中銀の政策方針は一段と緩和的になっている。それが株高の一因にもなっているのだが、それにしても欧米中銀の慎重さはかなりのものである。
既知のとおり、12月10には欧州中央銀行(ECB)の定例理事会で追加緩和実施の決定が下されるものと確実視されている(執筆時)。果たして、政策実施の決定によって「弱気材料はすべて出尽くし」といった運びになるものかどうか。
もちろん、本稿が読者の皆様の目に触れる頃には、ECBによる追加緩和の内容や、それに対する市場の反応も明らかなものとなっているだろう。
仮に、市場がECBの政策決定を「織り込み済み」とした場合には、年内にもユーロドルが再び1.200ドル台を試す可能性はあるのかも知れない。しかし、やはり年末から年明けにかけては波乱含みの展開となる可能性も十分にあると見る。
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いずれドル円は105〜107円のレンジへ?
一方、ドル円については、やはり米大統領選が最終決着を見ないことには少なくとも上値を取りに行きにくい。
とはいえ、時が経過するにつれ追加経済対策やワクチンの効果への期待が現実となり、結果的に米債利回りが大きく上昇する可能性も十分にある。むろん、バイデン次期米政権が大掛かりな財政出動に踏み切った場合には、将来の財政不安が「悪い金利上昇」を演出する可能性もあるし、米景気が急速に回復すれば、そこに「良い金利上昇」が共存する格好となる可能性もある。
なお、米連邦議会の上下両院議員選は、ひとまず民主党が下院を制する結果となった一方で、上院については年明けに行われるジョージア州の決戦投票で決着することとなっている。ここで民主党が残る2議席を確保した場合には、上院議長を務める副大統領の1票で決まる運びとなり、民主党が上院でも主導権を握る可能性は残っている。
仮に、民主党が上院をも制することとなった場合には、これまでバイデン氏が掲げてきた増税方針が現実味を帯びるとの見方が市場の一部にはある。しかし、バイデン氏が最優先課題に位置づけているのはウイルス対策なのであり、その意味では増税の先送りも「対策」の一環と考えるのが自然であろう。一つのシナリオとして、1月20日の就任式で行われる宣誓において、バイデン氏自らが増税先送りに触れる可能性は高いと見られる。
その意味でも、やはりドル円の下値は自ずと限られ、遅くとも年明け1月下旬以降には再び105~107円のレンジに戻る可能性があると考える。
なお、本欄の前回更新分でも触れたように、近年は国内投資家による外国債券への投資が拡大傾向を辿っている。
財務省が公表している「対外及び対内証券売買契約等の状況」によると、11月1~14日に国内投資家は海外の中長期債を2兆4000億円近く買い越している。同期間に、海外勢が日本の中長期債を1兆1600億円余り買い越していることも事実だが、これは主に目先筋の手口に因るものと推察される。
対する国内勢の外債買いは恒常的なものとなりつつあり、中長期的な日本の資本収支はマイナスの状態が続く。そのぶん、趨勢的には円安になびきやすい状況が醸成されていると考えていいものと思われる。
※この記事は、FX攻略.com2021年2月号の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。
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