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米国の人口動態の変化から見受けられること[岩本沙弓]

オバマ再選で変化なし

前回に続いて今月も大統領選の話を続けさせていただこうと思う。

本誌が出る頃には、すでに選挙も終了し、新しい大統領が決まっているはずであるが、原稿を書いている10月20日現在、第1回目の討論会では、これまでの4年間の経済政策についてのロムニー氏の指摘に対して防戦一方のオバマ大統領だったが、バージニア州での第2回討論会では、攻勢をかけたかたちとなっている。

司会者を遮ってまでも発言するオバマ大統領の様子から、1回目の討論とは様相がずいぶんと違っている。

その結果を受けた世論調査をみても、再度オバマ氏優勢となっている。

選挙ばかりは水ものであるので、また、最後となる第3回目の討論会も残っているため、この期に及んで選挙の行方を予想するのはいかがなものかとは思いつつ、やはり、現職大統領強しということで、以前から申し上げている通り、オバマ氏再選で変化なしと見ている(その際の相場展開については、前月お伝えした通りであるが、実際には、来年1月末に控えている一般教書演説の中身を吟味したい。第1期目では輸出倍増計画を打ちたて、ドル安戦略を推進してきたわけだが、その姿勢に変化があるやなしやは、一般教書演説のなかである程度の方向性が示され、明らかとなろう)。

新生児の白人比率が50%以下になった影響

さて、今回のテーマは4年後、8年後、あるいはもっと先の大統領選を見越しての、少々長期的なスタンスに立った話である。

本年の5月のことになるが、非常に興味深いデータが米国で公表された。

これまで新生児における白人とそれ以外の比率について、実は白人以外の人数が逆転をしているのではないか、そんな話が何度となくされてきた。しかしながら、実際には米国政府からそうした公的見解が発表されたわけではなかったために、噂の域を脱していなかったのである。

ところが、今年の5月17日、米国の国勢調査局(Census Bureau)がとうとう、米国における新生児の白人比率が50%以下になったことを公式に発表した。

より具体的な数字を申し上げると、昨年生まれた白人以外の新生児の人数は201万9176人、それに対して白人は198万8824人であった。比率でいえば、白人以外が50.3%であり、白人が49.6%となり、逆転が確認されたということである。

これがなぜ大統領選と関わりがあるのか。実は、今後は長期的にみれば、白人以外の投票者の意向がより反映される選挙になるだろうとういう点で、共和党にとってはあまりよろしくない展望なのである。

カリフォルニア州は共和党から民主党の地盤に

以前お伝えしたように、米国の各州は民主党の地盤であるブルー・ステートと、共和党の地盤であるレッド・ステート、そして、そのときどきでどちらにも転びうるスウィング・ステートにわかれている。

米国の最新のデータによれば、全米の人口は3億874万5538人。米国の州のなかで、人口の多い順に並べると、1位はカリフォルニア州の3725万3956人、2位はテキサス州で2514万5561人、3位はニューヨーク州の1037万8102人、4位はフロリダ州の1880万1310人、5位はイリノイ州の1283万632人である。

各州の人口比によって選挙人の数が決まってくるのも米国の大統領選の特徴であるが、州では最大の人口を誇るカリフォルニア州の選挙人の人数は、当然のことながら最大となる。

そのカリフォルニア州は、今となっては典型的なブルー・ステートで、民主党の最大地盤であるが、何を隠そう、かつては強力な共和党の地盤だったのである。

日本人にとってもっとも馴染みの深い大統領の一人であろうレーガン大統領であるが、彼も元々はカリフォルニア州選出の共和党議員である。

それよりもさらに時代はさかのぼるが、金本位制を停止したニクソンも同じくカリフォルニア出身のバリバリの共和党議員であった。

このように、かつてはカリフォルニアといえば、共和党というイメージが定着していたわけであるが、その様相が変化してきたのは1990年代に入ってからである。

実際の選挙結果を見ると、1968年から1988年までの大統領選では、カリフォルニア州は共和党支持になっており、1992年以降はすべて民主党となっている。

ドリーム法案が左右する選挙

なぜ最大の選挙人を抱える州で、このような共和党から民主党への露骨な変化が起きたのか。それは共和党の政策と大いに関係がある。

民主党のオバマ大統領が初の白人以外の大統領ということで話題を集めたことが象徴するように、民主党はより白人以外の支持を集めやすい。

移民政策に関して取り沙汰されているのが、「ドリーム法案」といわれるものである。

この法案を端的に説明すると、正規の書類をもたずに家族と共に米国に16歳未満で移民し(すなわち、不法移民の子供として米国に移り住んで)、米国で教育を受けた若者に対して、ある一定の条件を満たせば永住権を得ることを可能にする内容となっている。

民主党はドリーム法案推進の立場をとっており、一方の共和党は法案廃止を訴えている。当然のことながら、この法案への対応の違いにより、白人以外の票は民主党に流れやすく、共和党は保守層である白人票が頼りの綱だ。

実際に、今回の大統領選においても、共和党のロムニー氏はヒスパニック票を集めるのに苦戦しているともいわれている。

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ヒスパニック・ラテン系の人口が4割に

そこで、これまでのカリフォルニア州におけるヒスパニック・ラテン系の人口比を見てみよう。共和党と民主党の支持が逆転した1992年を境に、どういった人口動態の変化があるか。

グラフを見ておわかりのように、1990年まではカリフォルニア州のヒスパニック・ラテン系の比率は、州の人口のうちのわずか4分の1に過ぎなかった。ところが、年々その比率は拡大しており、2000年で3割を超え始め、2010年の段階では4割に迫る勢いとなっている(結果、白人比率は6割を辛うじて上回るような状況である)。

つまり、非常に単純に白人以外の人口が増えた結果、カリフォルニア州は共和党の地盤から民主党の地盤へと変化したということがいえよう。

白人の比率が低下するのは共和党にとって脅威

これはカリフォルニア州だけに見受けられる特異な例であると思わるかもしれない。そこで次に、全米の人口比率の円グラフを見てもらおう。

確かに2010年の比率をみれば、白人は64%であるのに対して、ヒスパニックは16%に過ぎず、現時点でヒスパニック票の影響が大きいとは言い難い(注意:円グラフでは白人・ヒスパニック以外として、黒人やアジア人などの区別がされているが、厳密にいうと、ヒスパニックというのは民族的な区別の仕方で、黒人やアジア人、イヌイットというのは人種上の区別である。人種と民族をこうしたグラフで並列に語るのは実は精確に欠く。実際には、アジア系ヒスパニック、黒人系ヒスパニックなどに分類される人たちがいるわけだが、今回はそうした人たちはヒスパニックとひとくくりにし、純粋なアジア系、黒人系などとわけてみた。白人とそれ以外の全体像をより視覚的にわかりやすく見てもらうために、あえてこうした分類の仕方を試みた次第である)。

繰り返しになるが、現時点では白人以外の投票行動が直接大統領選挙の結果へとダイレクトに結びつくことはないだろうが、先に述べたように昨年、新生児の人数は逆転したという事実がある。

今後も逆転した傾向は続くであろうし、年を追うごとに白人の比率も低下の度合いが増していくであると予想される。となれば、今後の大統領選では時代が進むにつれて、より白人以外の投票結果が選挙に影響するということがいえよう。

こうした状況を指摘して、たとえば、英国のファイナンシャル・タイムズ紙などは〃This election could be the Republicans’ last chance〃(今回の大統領選が共和党にとっては最後のチャンスとなろう)などといった記事を掲載していた。

今回が最後のチャンスとするのはいささか大げさとしても、たとえば、今後、共和党が移民政策に対して融和方向に動かなければ、あるいは白人以外の有権者に対して共感を訴えるような政策を提示して方向性を変えなければ、8年後、16年後の選挙で共和党が苦戦を強いられるのは明らかである。

象徴的な事実として、カリフォルニア州では共和党から民主党支持への変換はわずか3割のヒスパニック比率で起こった。

こうしたことを鑑みれば、「共和党にとって最後のチャンス」も当たらずも遠からずという事態になるかもしれない。しかも、決してそれほど遠くない未来に、そうした変化が起こりうるというのは、共和党にとっては脅威であろう。

そんなことが最近の米国の人口動態の変化から見受けられるのである。(月刊FX攻略.com 2013年1月号掲載)

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