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中国人民元切り下げと主要株式指数の急落[松崎美子]

週明け早々、中国が事実上の人民元切り下げを発表しました。中国人民銀行(中央銀行)は今週火曜日の朝、毎営業日ごとに設定している人民元の中心レートを1.9%引き下げましたが、この引き下げ幅は過去最大だったそうです。

欧州時間に入ってからというもの、世界的景気減速懸念が高まり、典型的なリスク・オフ相場へ突入。ドイツだけでなくスペインやイタリアを含む各国の国債需要が高まり(国債利回り低下)、株価は下落でスタートしました。そしてニューヨーク市場が開いてからは、更に株価下落が加速しましたが、私が注目していたドイツの主要株式指数: DAXは、311.13ポイント下げて、11,293.65で終了、前日比マイナス2.68%となっています。

ECB相場の巻き返し

今年3月に、欧州中銀(ECB)は、国債購入も含む量的緩和策(QE)の導入に踏み切りました。年初よりQE実施は時間の問題と見られていたこともあり、欧州各国の株価指数は年明け早々大きく上昇しました。特に順調に景気回復を達成していたドイツまでもが、QEの恩恵に恵まれるということで、独DAXの上昇は群を抜いており、今年1月の安値である9382.82から12,390.75の高値を付けるまで、わずか4ヶ月間で32%の上昇を達成。

為替市場に目を移すと、QEによる流動性供給を先取りした形で、ユーロは順調に売られて、今年のECB相場は「株高/ユーロ安」という非常に判りやすい動きを見せてきました。

しかし、火曜日の中国の人民元切り下げのタイミングで、ECB相場が逆に動きだしました。つまり、今度は「株安/ユーロ高」です。

人民元の切り下げとドイツ株の急落と言われてもピンと来ませんが、ドイツ統計局がまとめた「2014年貿易全書」によると、中国はドイツの輸出先の第4位であり、輸出入総合では、第3位となっています。その中国が自国通貨を切り下げたとなっては、ドイツの貿易黒字にも影響が出るでしょう。特に自動車関連株の下げが厳しかったことも、それをよく物語っています。

(参照:ドイツ統計局 2014年貿易全書

中国が通貨切り下げに動いた理由

こればかりは、素人の私には判りませんが、最近の人民元がどのような動きをしてきたのかを調べるのが一番手っ取り早いと判断し、通貨の実力を表わす実効レートをチェックしてみました。月に一度づつですが、世界のあらゆる国の通貨の実効レートを公表しているのが、国際決済銀行(BIS)です。そのBISの実効レートを比較してみたら、驚く事実を発見したのです。

それは、中国人民元がメチャクチャ強くなっている事実でした。

これは、中国とトルコ+米英欧日の6ヶ国の過去5年半にわたる通貨の動きを表わしたチャートです。赤い線が人民元ですが、この期間に27%ほどの人民元高となっています。それに続くのが、緑線の英国と青線のアメリカとなっており、それぞれ15%前後の通貨高。それ以外の欧州・日本・トルコは総じて通貨安となっているのが判ります。

BIS 各国通貨の実行レート

データ:国際決済銀行(BIS)

次は新興国同士の通貨の動きを見たくて、中国・トルコ・ロシア・ブラジル・南アフリカを選んでチャートを作ってみました。予想はしていましたが、人民元以外全ての通貨は、「ボコボコの通貨安」となっているのが判りました。

BIS 新興国通貨の実行レート

データ:国際決済銀行(BIS)

通貨安戦争のはじまりか?

この問題に関しては、意見が真っ二つに分かれていますが、私は通貨安戦争は始まらないように感じています。

主な理由は、人民元は国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)通貨バスケットへの組み入れを目指しています。SDRは、会員国がIMFから資金を引き出す際に使う一種の基準通貨として知られており、IMFは5年ごとに編成基準を検討します。最後にこれが行われた2010年には、SDR通貨バスケットは「ドル45%、ユーロ36%、英ポンドが10%、そして日本円9%」で構成されることになりました。そして5年後の今年、中国は人民元の編入を強く希望しているのです。

この問題に関してIMFは、「今年11月に開催される執行役員会で人民元がSDRの通貨バスケットの構成通貨に採用されるかどうかが決める可能性がある。ただし、IMF内部では現在のSDR構成通貨を2016年9月30日まで維持すべきとの提案も出ている。」としており、中国が今後も通貨切り下げなどの荒治療に出た場合、バスケット編入資格がないと判断される可能性が出てきました。それもあり、中国は今回の切り下げに対し、「One-Off 一度限り」と最初から断っていると私は考えており、ここから中国発世界的通貨安戦争が始まるようには、感じておりません。

まとめ

今年に入ってからのユーロ/ドルのチャートですが、現在は右側の水色のレジスタンスを若干上抜けしている最中です。イメージとしては、5月からの大きなレンジである1.14ミドル~1.08の中間レベルである1.1125~50辺りが、レジスタンスとして機能すると考えています。

ユーロ/ドル チャート

ただし、水曜日以降も独DAX株価指数の急落が止まらず、今年上半期でやった「DAX高/ユーロ安」の巻き返し相場が長引くようですと、ユーロの上昇は1.1150を抜けて、1.12台Lowくらいまでは行ってしまう可能性が出てきます。

DAX株価を見ながら為替を取引するのは少し変だと指摘されそうですが、こういう関係が一度崩れると、思わぬ相場展開を強いられることにもなり兼ねません。夏休み相場で流動性が低いため、くれぐれも無理はしないようにしたいものです。

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