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FX力を鍛える有名人コラム

「ドルの王様の地位」は揺るがない[森晃]

 スイスのジュネーブにあるパレ・デ・ナシオンの国連会議場には、スペインの芸術家ホセ・マリア・セルトの壁画がある。戦争が終わり、群衆が喜んで銃を投げ捨て母と子の「希望」が平和という大砲にまたがって立っている構図や、病気の惨状から人類を解放する医師、鎖を粉砕する奴隷などが描かれている。天井には、大陸の寓話(ぐうわ)である5人の巨人が、握りしめられた手で世界中の人々を引き寄せている(画像①)。

「戦争」「憎しみ」「残虐行為」「復讐」「搾取」「不正」など人間を隔てるものは決して許されるものではない。特に世界は今、新型コロナウイルスによって多くの命が失われている。パンデミックを解決するには、「対立」ではなく「協力」が必要である。だからこそ、「グローバリゼーション」の考えを共有することは非常に大切である。

「ドル」の代替は「ドル」

図① World Pandemics Uncertainty index

出典:IMF(国際通貨基金)

 新型コロナウイルスによる経済への影響は、先の見通しがきかないため経済の不確かさが増した(図①)。パンデミック以前から、投資家はドルの代替手段として「金」や「ビットコイン」などに注目し投資を続けていたが、その動きが加速したことは価格の推移から否めないであろう。一部のエコノミストからも、コロナ禍によりドルが急激に下落することを予測するレポートが2020年の年末に出ている。

 確かに、2020年はユーロドルが1.171ドルから1.2217ドル(9.4%)の上昇、ドル円は108.54円から103.29円(4.8%)の下落と、ドルの下落方向に動いた(図②、図③)。FXトレーダーや為替アナリストは大きく変動したと解説するであろう。

図② 2020年のユーロドルの動き 図③ 2020年のドル円の動き

 しかしながら、破綻救済のための巨額の財政支出やパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が「crossed a lot of red lines(多くの赤線を越えた)」と述べた金融緩和政策にもかかわらず、長期的な視点で見ればドルの為替レートは安定していることが分かる。

 例えば、2008年のユーロドルに起こった激しい為替の動き(1.58ドルから1.071ドルの間で変動)と比較すれば、ドルの為替レートはこれまでのところ非常に安定している。

 さて、為替レートが安定している理由はなんであろうか? 実際のところ、何が通貨の動きを抑制しているか、誰も正しい理由は知りえないところである。計量経済学を学んだ立場からも、エコノミストが為替レートの動きを説明するのは非常に難しい。もちろん、FRBによるドル・スワップ・ラインの提供、世界中で政府の大規模な財政出動、主要な中央銀行の政策金利が「ほぼゼロ」に凍結されたことで従来の伝統的な金融政策がまひしたことなどが通貨のボラティリティを抑制した理由ではある。ここで、将来の政策金利の展望について簡単な意見を加えたい。

 当面の間、コロナ禍の影響により各国中央銀行の金融政策は「超低金利」を余儀なくされるであろう。しかし、この超低金利の金融政策を各国の中央銀行は永遠に続けることはできない。加えて、インフレターゲットである2%を超えても過去の低インフレ率を平均化する意味ですぐに利上げを行う必要はないであろう。なぜなら、いずれインフレ率は上昇し中央銀行は利上げを行う必要性に迫られるからである(インフレ率は、上昇しないとの意見もある)。いずれにせよFRBの利上げは、他の中央銀行より先行すると予想されるためドルは上昇するであろう。

 このような将来予想される金融環境の中では、長期的にドルの価値が下がることはないであろう。そして、金やビットコインなどがドルの代替資産となることはない。

「CBDC」と「通貨システムの覇権争い」

 2020年10月、中国人民銀行(PBoC)は、中央銀行が発行するデジタル通貨「デジタル人民元」の実証実験を広東省深セン市で行った。抽選で選ばれた市民のスマートフォンアプリのウォレット(財布)にデジタル人民元を200元(約3200円)分ずつを無償で配り、商店やレストランでの支払いに使ってもらったのである。デジタル人民元は、中央銀行と商業銀行の2層構造となっているオペレーティングシステムが用いられている。もし中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency:CBDC)が2層構造でなく中央銀行が国民に対して直接口座を持った場合、民間銀行のビジネスを著しく損なうからである。

 CBDCは、単純に「支払い」や「決済の手段」だけの利便性だけにはとどまらない。CBDCをインフラとして活用する金融サービスの枠組みについても考える必要がある。

 例えば、ある巨大IT企業が自国の通貨を使って決算システムを外国に提供した場合、使われているサービスや経由する金融機関などの金融サービスという世界的なインフラを通じて「通貨システムの覇権争い」が起こることが考えられる。そのため、自国通貨を将来も使用するためには決算システムのプラットフォーム競争をどのように制するかという議論がある。

 この議論は、単純な経済の問題ではなくセキュリティの問題も含むことになる。それはドルの地位にも大きな影響を与えることになるであろう。このような議論を進めれば進めるほど、現在の「ドルの王様の地位」は揺るがないと筆者は確信する。

 最後に、何処かで何かの機会に読者の皆さまとお会いできることを非常に楽しみにしている。

※この記事は、FX攻略.com2021年5月号(2021年3月19日発売)の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

ABOUT ME
森晃
もり・あきら。エコノミスト。シンクタンク(アメリカ合衆国)に所属。専門分野は、為替政策、金融政策、マクロ経済政策、金融規制。市場関係者、金融当局者、政策当局者と交流し、多方面から為替の動向について分析を行っている。
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