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人工知能と相場とコンピューターと|第14回 現在のAI、金融、そして今後[奥村尚]

人工知能と相場とコンピューターと|第14回 現在のAI、金融、そして今後[奥村尚]

機械学習と深層学習の違いとは何か?

 今までの連載では、AIの技術的な歴史や成果を、コンピュータや相場の同時代のトピックと合わせてその誕生から見てきました。今回は、現時点でAIがどこまで実用化しているか、金融業界を中心に見ていきます。

 現代のAIの特徴は、「ビッグデータを収集し、それを機械学習する」というものでしょう。どちらも20世紀からあったものです。

 機械学習は、深層学習(ディープラーニング)と区別なく使われることが多いのですが、領域が異なるものです。機械学習とは、機械、つまりコンピュータが広くデータから学ぶことを意味します。最も一般的な教師つき学習では、教師が正解や不正解を与えて教えます。公文式塾のように、ひたすら繰り返すことで効果を高めるのです。何を学ぶかはあらかじめ決められています。

 一方の深層学習は、教師つき機械学習の一分野です。人の神経細胞を模倣したニューロンの処理をすることで、複雑な人間の行動をいくつかの層で処理し、その層の重みを調整して回答を導き、その回答を教師の正解データと比較することで学習を進めます。この層が多層になっているので、「deep」という単語が使われるのですが、いわゆる深層心理(unconscious mind、心の奥)の「深層」とは異なる意味です。この技術は2012年に開催された画像認識大会(ILSVRC、スタンフォード大などが運営)で、トロント大学が多層ニューラルネットワークを用いた学習で圧倒的な成果を出して広く知られるようになりました。

7層ニューラルネット(NN)を用いた深層学習モデルを使った画像分類のイメージ

出典:https://papers.nips.cc/paper/2012/file/c399862d3b9d6b76c8436e924a68c45b-Paper.pdf

 1000種類120万枚の学習用画像データを使って10万枚の画像を正しく分類するなどが課題でしたが、他を圧倒する精度で優勝したからです。その後の研究に決定的な影響を与え、2020年時点でこの論文は5万5000もの引用がありました。深層学習の世界的なブームが始まります。

 深層学習に必要な演算はCPUではなく、グラフィクス用プロセッサ(GPU)が用いられました。GPU大手のNVIDIA社(本社カリフォルニア州サンタクララ)は2006年GPU向け並列処理プラットフォームCUDA( Compute Unified Device Architecture)を発表。プロセッサ能力を最大限活用した並列処理ができるようになり、それ以降パソコンの汎用GPUが深層学習に欠かせないデバイスとなったのです。

 NVIDIAはAIブームで会社価値を上げ、時価総額は2021年2月末時点で約39兆円、インテル(約27兆円)を超える世界最大の半導体会社です。

NVIDIAの時価総額推移

金融業界におけるAIの活用方法を見る

 相場への応用ですが、現状では価格変動を画像パターンに置き換えて画像処理として機械学習させること、そしてテクニカル分析を組み合わせて売買ルールを自動化する処理はできています。しかし、それで勝てていません。最後は資金が溶けてなくなるのみです。

 常に誰がいつ使っても確実に儲かるという夢のようなツールはまだ存在しないのです。人間が知らないことやできないことはAIでも予見できていないということになります。

 現在のAIで実用化できているのは、まずは古典的なエキスパートシステムを使った顧客サポート業務です。取引スタイルや取引データ、事前のアンケートから導いた顧客属性を基に思考を把握し、資産運用やポートフォリオの提案を行うものでしょう。しかし、これは単に少資産顧客を取り込む効率化にすぎません。

 同じ効率化でも、個人情報を利用した処理はAIとは無縁ですが浸透しています。例えば、SNS、TV番組、電子マネーの購買履歴を照合させると、「TV番組でバナナの効用が放映されSNSで広まったその日の午前に、この人はバナナを2房購入した」ことが分かります。その情報から、その人に合致すると思われる効用番組で取り上げられたチョコのクーポンを配るといったことが瞬時にできるのです。

 こうした外部データは、オルタナティブデータといいます。Web上でのあらゆるものがオルタナティブデータであり、ビッグデータの重要な要素となっています。

 国家監視の分野でもAI処理が進んでいます。審査査定、脱税やインサイダーの発見という、政府や役所、警察という観点、特に不正検知は機械処理の得意とする分野です。東証を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)でも2018年から売買審査のノウハウを学習した処理が実装されています。例えば、「複数の証券会社経由で大きな買い注文が同時に出たが、手口から同じ人物と思われる」などのインサイダー特有のタイミングと手口を検知できるものです。これも古典的なエキスパートシステムです。

 国家レベルといえば、各国の中央銀行もFinTechの一環としていろいろな研究をしています。日本銀行は、2016年にFinTechセンターを設立していますが、そこでは欧州と「ステラ」というプロジェクトでデジタル通貨も研究しています。

 このデジタル通貨は円の電子化ですが、WAONやSUICAなどの民間の電子マネーには秘匿性がありません。何をいつどこで買ったかは、電子マネー発行元が全て把握できるからです。しかし、中央銀行が発行する日銀券(お札)は、いつどこで誰が使おうとも、そのお金を誰が使ったかは分かりません。取引の秘匿性があるのです。この秘匿性と、必要時に取引確認ができることの相反両立の研究が、国際間で進められています。

 そして、意外にも感情解析技術も金融で利用されています。人の表情を画像解析し、悲しい、嬉しい、だけではなく、ウソをついている、深い意味を持っているなどの感情を分析することは諜報機関では昔から使われる技術ですが、ディープラーニングで精度が上がりました。これを米連邦準備制度理事会(FRB)議長(あるいは財務省長官など)の会見や議会証言で利用するとどうなるでしょう。「現時点では金融政策に変更はない」と発言する表情にウソ70%、極度の緊張90%と出ると、近く利上げがありそうだな、などと推測できるわけですね。

 汎用的なAIツールも実用に入りました。SONYは、「Neural Network Console」という深層学習の開発基盤を提供しています。操作は簡単で入力は数値データであろうが画像であろうがかまいません。

SONYの「Neural Network Console」

出典:https://dl.sony.com/ja/

 Googleでは「Cloud AutoML」、マイクロソフトは「AzureML」で同様のサービスを展開しています。深層学習のツールは誰でも簡単に使える状況になっているのです。

 ところで、金融でAIというと、誰もが「安く買って高く売る自動取引」に興味あることでしょう。過去の学習から相場を予想するのはパターン認識技術で簡単です。しかし実際の市場データで動かすと使い物にならないのです。

 価格や取引量の過去情報だけを基に学習させても、それはテクニカル分析と同じであり深層学習で新たに得る事は今のところありません。学習しても結果が改善しないので過学習(オーバーラーニング)ともいいます。

 一方で、オルタナティブデータを使った検証は進んでいます。Blog、SNS、chat、掲示板、各種指標、中央銀行や政府のHP、世界中のリアルタイム市場を片っ端からスキャンして機械学習させると、既存の経済ルールでは気がつかない、なんらかの関係を発見する試みもテストされています。

 私もオルタナティブデータから、ポジティブな単語(例えばトヨタはカッコいい、利益が大きいなど)とネガティブな単語(例えば社員が事故を起こした、リコールがあったなど)を抽出し、ネガポジ比率で推奨銘柄を調整するロジックを開発したことがありますが、オルタナティブデータを考慮しない方がはるかに的中度が高かったのです。

 だからといってオルタナティブデータが無意味であるとは限りません。GoogleのBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)技術が使えるようになったからです。先ほどの例では、単語の単純な抽出でしたが、文脈を判断できると「トヨタは3年間も無事故だ。リコールも他社より1台当たりの比率は良い」という文章から、トヨタと事故(あるいはリコール)は無関係であったことが分かります。これはフリーでダウンロードもできます。2020年に京都大の研究チームが日本語版を公開しました。

 実は、ここまで踏み込んだ評価をしても、期待通りには結果が出ません。人間が分からないルールをコンピュータが発見することはやはり困難です。誰がやってもうまくいく「安く買って高く売る自動取引」AI手法は簡単には登場しないでしょう

今後のAIの展望

 今後のAIの進化ですが、理論は十分に成熟しているので、あとはコンピュータ能力次第です。

 1945年に作られた初期の真空管コンピュータ、ENIACは、0.005MIPSとされています。MIPSは、100万命令/秒の単位で、ENIACは5000回/秒の足し算ができます。この能力は、2年で倍になります(ムーアの法則)。2年で回路が1/2になり速度は2倍になり、集積度は4倍になり電力は1/2になるのです。

ムーアの法則 (年代とトランジスタ数の関係)

出所:IC Insights

 現代コンピュータの処理速度は、浮動小数点演算flopsで表示しますが、1975年に作られたスーパーコンピュータ Cray1は、160Mflopsでした。

 1989年の世界最高速度はNECのSX-3で、22Gflopsです。この能力は2010年のPCで採用されたインテルi7と同等です。スパコンの能力は20年後のPCで実現できることになりますね。

 なお、2021年2月時点で最速コンピュータは日本の富岳です。処理速度は415P(ペタ)flops、開発費用1300億円(消費電力30MW電気代は日1600万円)、大きさもダンボール大の筐体が432台あります。前身の京の30倍高速で、津波の浸水予想に1.5日かかっていたのが1時間で完了します。

 このムーアの法則も、幾度となく限界が指摘されてきましたが、まだまだ法則に沿って進化しています。CPUはシリコンウエハーの基盤にレーザーでパターンを印刷する方法で生成しますが、レーザー先端の微細さが3nmまで細められたものが2021年に実用化されます。この技術は世界で台湾TSMC社だけが持つウエハプロセス技術ですが、2023年には2nmが実用化される見込みです。2nmの長さに原子が20個しか並びません。この先は、縦軸(上層)に集積をする3D構造に進むでしょう。3D集積化も限界がいずれ来ますが、その先の解決に有望な分子コンピュータの研究は世界中で進んでいます。ただしハードウェア、理論共に決定打は出ていません。

 いずれ、半導体は分子コンピュータに代わる日が来るでしょう。人類はそのときに圧倒的なコンピュータ能力を手にします。体内で分子CPUを培養して脳をCPUで強化、自らを高性能コンピュータ化し、さらに体は画期的な増強剤で200年もつようになり、長生きできるかもしれません。

※この記事は、FX攻略.com2021年5月号(2021年3月19日発売)の記事を転載・再編集したものです。本文で書かれている相場情報は現在の相場とは異なりますのでご注意ください。

 

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「人工知能と相場とコンピューターと」連載記事まとめはこちら

ABOUT ME
奥村尚
おくむら・ひさし。1987年工学部修士課程修了。テーマはAI(人工知能)。日興証券で数々の数理モデルを開発。スタンフォード大学教授ウィリアム・シャープ博士(1990年ノーベル経済学賞受賞)と投資モデル共同開発、東証株価のネット配信(世界初)。さらにイスラエルのモサド科学顧問とベンチャー企業を設立、AI技術を商用化し大手空港に導入するなど、金融とITの交点で実績多数。現在はアナリストレーティングをAI評価するモデル「MRA」、近将来のFXレートをAI推計する「FXeye」、リスクとリターンを表示するチャート分析「トワイライトゾーン」を提供。日本の金融リテラシーを高めるため、金融リテラシー塾を主催している。 趣味はオーディオと運動。エアロビック競技を15年前から始め、NACマスター部門シングル9連覇、2016年シニア2位、2014~2016年日本選手権千葉県代表、2017~2018年日本選手権 マスター3準優勝。スポーツ万能と発言するも実は「かなずち」であり、球技も苦手である。座右の銘は「どんな意思決定でも遅すぎることはない」。
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