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強いドル・弱いドル、どちらがお得?トランプ新政権の通貨政策について考える[雨夜恒一郎]

FX攻略.comズバリ!今週の為替相場動向 2017年1月23日号

先週の米ドル/円相場は、トランプ新大統領の就任式を前にしたポジション巻き戻しの動きが続き、一時112.61円と昨年12月5日以来の安値をつけた。トランプ氏が米紙とのインタビューで「ドルが強過ぎるため、米企業は中国と競争できない」などと述べたことが背景にある。保護主義的な主張を掲げるトランプ新大統領がドルをトークダウン(口先介入)するとの警戒感は根強い。

一方で次期財務長官に指名されているスティーブン・ムニューチン氏は「強いドルは長期的には重要だ」と述べ、トランプ氏の発言は長期を意識した発言ではないと弁明した。これは歴代の財務長官が通貨政策として掲げてきた「強いドルが国益にかなう」という決まり文句を踏襲したものだ。果たしてトランプ新政権は従来の強いドル政策を維持するのだろうか。それとも転換するのだろうか。

米国にとってドル高・ドル安どちらが得なのか?

まず米国にとってドル高とドル安のどちらが得になるかを考えてみよう。ドル高は米国企業の国際競争力を弱め、貿易赤字を拡大させる…というのは実は一昔前の論理である。

米国の貿易赤字は意外にも過去10年ゆるやかな改善傾向にあり(2005年-7828億ドル→2015年-7626億ドル)、金融、知的所有権など貿易外のサービス収支では黒字が大幅に拡大している。

結果、貿易収支・サービス収支・一次所得収支・二次所得収支の4つの勘定の合計である経常収支は、2006年のピーク-8067億ドルから2013年の-3664億ドルへと大幅に改善している(2016年は推計-4693億ドル)。国際的な分業が進んだ結果、米国は消費財や日用品を中国などから輸入する一方、金融やITなどサービスを世界中に輸出し、莫大な利益を稼ぐというスタイルを確立したのである。

金融・IT分野では「強いドル」が望ましい

「弱いドル」は自動車産業や石油産業などにとっては追い風となるが、そうしたオールドエコノミー分野はもはや米国にとっての主戦場ではない。米国が世界中から人材や知的財産を呼び込み、今や文字通りドル箱となった金融・IT分野で圧倒的優位を維持するには、「強いドル」の方が都合がよい。

また世界一の輸入大国である米国全体の国益を考えれば「強いドル」のほうがお得であることは自明の理である。だからこそ歴代の政権は(少なくとも表面上は)通貨安競争を否定し、「強いドルが国益」というマントラを唱え続けてきたのだ。

トランプラリー第二幕に乗り遅れるな

おそらくトランプ氏はつい感情的にドル高(=人民元安)に苦言を呈してしまったのだろうが、巨視的に見れば「強いドル政策」を掲げていたほうが得であることを理解しているはずだ。ムニューチン氏が控えめながらすかさず否定を入れたのも、新政権が強いドル政策を堅持するというシグナルであろう。

「強いドル政策」はドルを一段と上昇させる政策ではないことに注意が必要だが、新政権が「弱いドル政策」に転換するとの見方が後退するだけで十分ドル買い安心感につながる。トランプ新政権発足に伴う材料出尽くしのドル売りも先週の112円台ですでに一巡したと思われる。今後はトランプラリー第二幕に乗り遅れないようにしたい。

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