みんなが利上げイコールドル上昇と思っているときこそ危険。大事なのは、利上げがあれば市場がどう動くか、利上げが見送りならどうなるかを冷静にウォッチすること。データに基づいてこんな警鐘をならす敏腕ディーラーの井口喜雄さんと、カリスマトレーダー鳥居万友美さんが、ディーラー、トレーダー、それぞれのスタンスからアメリカの動向まで語り合った。(対談収録日:2015年8月5日)
注目すべきは利上げ後の動き
鳥居 FXで今関心の的がアメリカの金利。私の周囲でも、金利が上がるとどうなるのか知りたい人が多いですね。
井口 金利が上がるとドルが買われるというのが基本ですが、利上げはある程度織り込んで動いていると思います。大事なのは、利上げのタイミングとその後の動きですね。
鳥居 私はファンダメンタルズが苦手で、チャートだけでトレードしているんです。だから、井口さんにこういう話を聞けるのが嬉しいです。ディーラーの方は、こういう経済情勢とか指標とかをメインにするんですか。
井口 ディーラーによってさまざまですが、ファンダメンタルズというのが根本になければ、やっていけないと思っています。
でも、実際にディールをしていると、ファンダメンタル分析ではトレードが間に合わないことがあります。市場の急変時にはその局面、その瞬間で対応しなければならないので、テクニカルを使って短期で売買することが多いです。
鳥居 じゃあ、長期でポジションをもったりはしないんですか。
井口 そうなんです。長期間の展望は頭に入れておく必要がありますが、実際にトレードするのは短期になります。各社のルールに違いはあると思いますが、一般的に、ディーラーはポジションを長期保有ができないので、もちたくてももてないですね。
そのため、ルールに縛られないという点では、個人投資家のほうが有利な部分がありますね。個人投資家の場合、今は0.3Pipsという狭いスプレッドで、「米ドル/円」もできますし、300ロットをドカンと1回でトレードできたりします。
鳥居 そういう意味では、個人投資家はいい環境にあるということですね。
海外の投資家にはスプレッドの恩恵はない
井口 そう思いますよ。海外業者は日本でビジネスをするのが難しいという声をよく聞きます。日本のスプレッド競争が激しさを増しており、海外業者が新規参入しても儲からないってことなんですね。海外の個人投資家は、日本のようなスプレッドの恩恵はありません。
鳥居 ディーラーが注目するチャートのポイントってどんなところですか。
井口 直近でもみあったところとか、前日の高値や安値を超えるようなところでのサポートやレジスタンスというのをかなり見ます。ブレイクポイントをいちばん気にしますね。
そのあたりがとにかく動くところですからね。ブレイクポイントで損切りするのかホールドするのかを決めておいて、そこに到達するまでの値動きを見ながら、先読みをしていきます。
鳥居 勢いとかですか。
井口 ブレイクポイントまで一気にいったり、緩やかだったりしますが、一気の場合はどこかが仕掛けているな、っていう目で見たりします。個人投資家でも、チャートをしっかり見ていれば、ブレイクポイントやレジスタンスやサポートを見ることで、いろいろなことがわかります。
利上げしてもドルは下がった
編集部 この本が出る2015年9月に利上げになったら、どう対応すればいいでしょうか。
井口 実は、その話をしたくてきたんです。朝のニュースを見ていたら、ある大手証券は強気で、9月の利上げがあれば、「米ドル/円」は140円、150円を目指すという話がありました。
しかし、ネガティブな要因もあることから、私としては、利上げ後は下がる可能性が高いと思っています。利上げ前は買い優勢の展開が予想されますが、利上げ後に関しては、かなり弱気になっています。
過去アメリカの利上げ局面は何度もありました。直近では、2004年から2006年が利上げの局面で、確か、2004年の6月30日に利上げをしました。
FOMC(連邦公開市場委員会)が年8回開催され、2年にわたって17回連続で利上げをしました。5.25%まで金利が上がりましたが、そのときですら、利上げ直後半年はドルが下がったんですよ。
鳥居 そうなんですか。
井口 利上げするぞ、するぞということで、利上げ前には105円から115円まで上がったものの、実際の利上げ後の半年で101円まで下落したんです。
そして、そこからは利上げ効果がじわじわと波及して、ファンダメンタルどおりに上がっていき、まさに、バイ・ザ・ルーモア、セル・ザ・ファクト(噂で買って事実で売る)を地でいったような展開でした。
鳥居 驚くべき事実ですね。
井口 連続利上げを17回したにもかかわらず、そんなことになったんです。1999年から2000年の利上げ局面も同じようなかたちでした。
当時は、日本株を買うときの為替ヘッジとかもなかったので、まったく同じ条件ではないですが、ある程度、利上げ織り込みの反動の調整が入ると思います。
利上げがない場合は?
鳥居 じゃあ、利上げがなかった場合はどうでしょうか。
井口 利上げをしなかった場合は、もっと下がると思いますが、年内に利上げがなければ、来年は大統領選挙なので、マーケットは「もう利上げはないだろう」と判断し、やはり、ドルは下がるでしょう。どちらにしても、下がるというのが私個人の見解です。
もうひとつの要因として、利上げのペースが遅くなるということがあります。2004年から2006年までの17回の連続利上げと違って、今回はそこまでの連続利上げはなく、利上げしても、2、3回ぐらいだろうと思っています。
それは、イエレン議長があらかじめ緩やかな利上げになると公言しているので、それを読み解く限りは、従来のペースで利上げすることはできないはずなので、かなり緩やかになると思います。
そして、そのことがドル売りの原因になるのではないかと思っています。
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タカ派が消えたFOMC
井口 ちょっと細かくなりますが、FOMCで金利を決定するのは、理事や連銀の総裁ですが、イエレン議長は景気を重視するいわゆるハト派といわれる人で、FOMCのフィッシャー副議長やタルーロ理事は中立です。
今年の3月に物価重視の利上げ推進派で、いわゆるタカ派といわれる人がいなくなりました。これも、利上げのペースが緩やかになる要因だと思っています。
アメリカの経済にしても、2004年から2006年までのような回復状況ではないので、それがまたドルの下げリスクになると考えています。
ドル円の下げの目処は114円から115円
井口 それと、来年の大統領選挙は、共和党も民主党も今はピリピリしていて、GMなどの大手自動車メーカーからドル高警戒の声がありますので、その意味でも、介入が入る可能性もあります。また、現在、いき過ぎた円安になっていることにも警戒が必要です。
ほぼ調整なく円が安くなっていることで、日銀の黒田総裁も円安警戒の発言が出ているほどですので、そのあたりがネガティブですね。
具体的に、9月利上げのシナリオがあって、「米ドル/円」は、調整があればいくらぐらいまで下げるかということになると、2011年からの上昇に対しての押しが入るとすれば、114円か115円というのが、テクニカルで見たレベルだと思います。
鳥居 素晴らしい分析ですね。聞くだけでなんか得したような気持ちになりました。
井口 今利上げ期待で、140円とか150円とかの声が出ていますが、ちょっと警戒したほうがいいと思います。アメリカの金利が上がれば、ドルが上がるのは当たり前ですが、それは断続的利上げをしてこそのものです。
見せかけだけの、ちょっとした利上げなら、逆にマーケットから舐められてしまって、ドルが下がると思います。利上げのペースをしっかりウォッチして、警戒することが必要だと思います。
ポジションはすでに偏っている
編集部 これだけ利上げイコールドル高と喧伝されていると、個人投資家は利上げで必ずドル高になると思っているでしょうね。
井口 だからこそ、ポジションが買いに偏ると、かなり危険です。
鳥居 もうかなり偏っていますよね。
井口 個人投資家のポジションはロングに偏っています。これがいっせいに崩れたら、下げのスピードは速いし、どこまで下がってしまうのかということがあります。
鳥居 すごい説得力がありますね。
井口 利上げがあれば、利上げ後だけは警戒しておいてください。大きく下げて、投資家のポジションを消化してから上げるというシナリオもありますから、負け組にならないように気をつけてほしいですね。すごい長期で考えているならいいのですが、数カ月のレンジなら厳しいですね。
鳥居 今からポジションを外して、下がったところで買いなおしたほうがいい場合もありますね。
利上げの条件で雇用統計と物価ははずせない
井口 それには、利上げがあることが前提ですが、9月には雇用統計発表が2回あるので、もし予想より数値が悪ければ、利上げは12月に延長になるという話も出てくるでしょう。
それに、原油価格の下げが止まらないと、アメリカの物価も上がらないということで、利上げ見送りの要因にもなります。
鳥居 利上げの条件は、雇用統計と物価ということですね。
井口 そうですね。
鳥居 FOMCや経済指標に注目しなければいけないのがよくわかりました。
環境が好転するユーロ
井口 ドルもいろいろと気になりますが、ユーロの話も少しさせてください。ドルがポジティブで、ユーロがギリシャ問題などでネガティブなイメージになっていますが、実は、ユーロ圏の経済はいいんです。
特にドイツの改善が著しくて、それがユーロ圏に波及しています。金融緩和を早めにやったことで、ユーロ安がすでに進み、ヨーロッパ経済の向上に繋がってきているのです。だから、下落トレンドは終わったかなと思います。
ギリシャがユーロ圏を離脱したら、ユーロの健全化となって、ユーロが上がるのではないかなと思っています。新たなリスクがなければ、ユーロは出口戦略に向かっていくと思っていますので、ユーロについて私は強気ですよ。
強いポンドと弱い豪ドル
編集部 最近の傾向として、「米ドル/円」以外の通貨にも参加しやすくなった感じがしますが、どうでしょうか。
井口 昔は、当社のお客さまのポジションは「米ドル/円」が90%でしたが、現在では、ほかの通貨に分散してきています。
鳥居 豪ドルやニュージーランドドルも金利がいいということで人気があったんですが、今はどうですか。
井口 今も個人投資家には人気がありますね。しかし、豪ドルは利下げ局面で現在、金利2%ですし、コモディティ全般が安いので、豊富な資源を背景に買われる豪ドルには、まだまだ下がるリスクがあります。
今強いのはポンドで、年内はそれが続くのではないかと思っています。政局もしっかりしているし、来年の早い段階で利上げがあると思っているので、ポンドでは強気です。
鳥居 指標としても、月足で見たRCIがすごく強いんです。
井口 さすが鳥居さんですね。
鳥居 こちらこそ、井口さんのファンダメンタルズ分析には感動しました、ありがとうございました。
井口 ありがとうございました。
(対談収録日:2015年8月5日)
鳥居万友美さんのRCI手法を実行できるFX会社の口座は?
鳥居万友美さんのRCI手法をスムーズに実行するためには、実際に鳥居さん本人が日々トレードや分析に使われている、GMOクリック証券がオススメです。また米ドル/円やユーロ/米ドルなどのスプレッドも狭いので、有利な手数料でトレードが可能です。
※この記事は、FX攻略.com2015年11月号の記事を再編集したものです
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