投資の対象として、早い人はすでに取引を始めている仮想通貨のビットコイン。海のものとも山のものともつかぬ、といった印象をお持ちで、一歩引いたスタンスを取っている人も多いでしょう。しかし、世界的に流行の兆しがあるのも事実ですから、情報収集が重要です。
ここでは有識者の一人、グレン・ランバートさんに、世界におけるビットコインの法規制についてまとめてもらいます。果たして、世界はビットコインをどんな存在だと位置づけているのでしょうか。
※この記事は、FX攻略.com2016年5月号を転載したものです
成長するにつれ法規制へ懸念が
ここ12か月から18か月の間でビットコインは大幅に成長し、注目されるようになりました。しかし同時に法規制について懸念が出てきています。
ビットコインのコミュニティの中でも、厳しすぎない適度な規制がかけられると、ビットコインが合法的なものになり安心して事業を行える上に、業界が成長すると考えて、これを歓迎する企業もあるでしょう。
ですが、そもそもなぜビットコインに法規制が必要なのでしょうか。少し複雑な問題ですが、懸念されている主なポイントを見てみると、より明確に状況が見えてくるかもしれません。
懸念されている主な点は、ビットコインのデフレ傾向、違法な送金と犯罪に関わる可能性、投資家の保護、経済をコントロールする中央銀行の役割への影響などです。
では、これらの問題について詳しくみてみましょう。
中央銀行の役割への影響
現在のビットコインの市場規模はおよそ66億ドルで、2015年末には1日の平均取引額が2億ドルでした。一方、FXの1日の取引額は5兆ドルです。
現在の規模ではビットコインが、日銀やFed(連邦準備制度)、欧州中央銀行などの金融政策に影響を及ぼすには小さすぎます。しかし、ビットコインが大幅に成長すると、その影響力は世界の中央銀行、特に金融政策が安定していない発展途上国では大きな懸念要素となるでしょう。
このため、今の段階から規制が作られているのです。
ボラティリティ
2009年にビットコインが誕生してから、ビットコインの価格は急激な上昇と下降を繰り返しており、それが仮想通貨の典型的な相場の変動だと考えられてきました。
例えば、2013年の11月、1ビットコインの価値は269ドルでしたが、その月の23日には1242ドルにまで上昇、その数週間後にはまた600ドルにまで下がりました。
この変動性の高い相場は、需要の高まりではなく、投資家に影響されていると考えられます。しかし、2015年はビットコインにとって価格が最も安定した年で、原油のような他の伝統的な資産クラスよりも変動性が低いものとなりました。
2016年には、アメリカで認められているitBitやGeminiのような取引所がさらに成長すれば、ビットコインに興味のある投資家に安全なものだと再認識させてくれるかもしれません。
投資銀行やヘッジファンド、個人投資家からの仮想通貨への投資が増える可能性もあり、そうなるとさらに価格は安定すると思われます。
違法な送金と犯罪
ビットコインはマネーロンダリングや違法な送金といったような犯罪を行うのに適した通貨ではないでしょう。その理由は、ブロックチェーンという誰にでも閲覧できるオープンな台帳に取引が記録されるからです。
もちろんCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)、欧州銀行監督局といった機関もその取引履歴を見ることができます。ということは、誰かがビットコインを使って取引する際、完全に匿名ではなく、疑わしい送金があった場合には当局がビットコインの取引を追跡し、その人物のビットコイン利用情報を知ることができ、最終的には逮捕につながるかもしれません。
もしも犯罪組織が違法な送金をしようとするなら、現金を使った方がよほど安全です。
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デフレーションの可能性
政府はデフレに関することには敏感です。消費者が後で買った方が安くなるかもしれないと考えたり、ビットコインの場合長く保持していた方が資産の価値が上がると考えることでお金を使わなくなったりしてしまうため、デフレは消費意欲を妨げます。
通貨はGDP(国内総生産)の重要な要素である、短期的な消費を後押しするために、貯蓄や投資ではなく、常に利用されている必要があり、そうでなければ通貨としてのビットコインに疑問が持たれてしまいます。
もしビットコインが通貨ではないのなら、一体何なのでしょうか。株式でしょうか。コモディティでしょうか。ここ数年、各国の政府が対応を行っており、解釈も大きく異なります。ビットコインに対する政府の対応を、国や地域ごとに見てみましょう。
日本
2014年の前半に日本政府は、ビットコインなどの仮想通貨を、通貨や銀行法、金融商品取引法に規制される債権としては見なさない、と発表しました。
これにより銀行や証券会社はビットコインの取り扱いができなくなりました。その後の2016年2月24日、日経新聞は、金融庁が仮想通貨を「貨幣の機能」を持つと認定する法規制案を、国会に提出すると報じました。この法案が可決されると、仮想通貨が決済手段や法定通貨との交換に使えると、正式に位置づけられると考えられます。
既にヨーロッパと米国では、買い物などの日常生活で、ビットコイン決済の場所が増加しています。日本でもコンビニでの買い物にビットコインを利用する日が、近いうちにくるかもしれません。ビットコインの強みは少額での利用(例えば10円)、P2P、オンラインでの支払い、スマートコントラクト(効率的な契約システム)ですから、長期的に見てトランザクション数が上日本がっていき、その分ビットコインの価値も高まると想定します。
おそらく法案が可決された場合、ニューヨーク州のようにビットライセンス制の導入が予測されます。このような制度が導入されると、銀行、ヘッジファンド、機関投資家がビットコインへの投資や国内での新たなビットコインビジネスが可能になると思われます。
新たな仮想通貨ユーザーの増加、テクノロジーの進歩、バーチャルエコノミーの活性化、諸外国の情勢によって、ビットコインだけではなくEthereum、Litecoin、MaidSafeCoinなど、600以上の仮想通貨の将来が期待されています。
中国
公式にはビットコインの所有が違法だとはされていません。ですが、金融機関や企業がビットコインを取引したり決済に利用したりするには、ある程度の制限があります。
個人投資家に関しては、ビットコインを禁止する法律がない上に、土地のような資産クラスには全体的に規制の厳しい投資環境があるので、中国の投資家によるビットコイン取引量は世界全体の70%を占め、ビットコイン取引所上位三つのうち、二つが中国にあります。
インド
ビットコイン経済において、インドは巨大なパワーを持つであろう国の一つといわれています。インドではITを得意とする人が多い、もう一つは国外在住のインド人が多いため、海外送金に利用できるという二つの理由があります。
2015年半ばの時点で、インドに5万人のビットコインのファンがおり、3万人はビットコインを実際に所有していると推定されています。
しかし2013年にインドの中央銀行は、ビットコインの取引がFEMA(外国為替管理法)の違反にあたるとして、ビットコインには後ろ向きで、結果として多くのビットコイン取引所が閉鎖しました。
その後、政府はよりビットコインを受け入れる方向に向かい、正式に法規制の整備を行う前に、ビットコインやその他の仮想通貨をきちんと理解したいと発言しています。
アメリカ合衆国
アメリカでは州ごとに金融の規制や法律が定められており、ビットコインへの対応もさまざまです。アメリカの中でもニューヨーク州とカリフォルニア州は規制に関して積極的です。過去12か月の間に規制に関してさまざまな動きがありました。ハイライトに目を向けてみましょう。
ニューヨーク州には一般にビットライセンスと呼ばれる規制があります。この規制は2015年の6月にNew York State Department of Financial Servicesという機関によって作られました。
ユニークな点はビットライセンスが他のテキサス州やバーモント州のような、すでにある法律を当てはめるのとは違うという点です。現在ニューヨークで営業を認められているビットコインの企業はitBitとGeminiです。
2015年の3月、カリフォルニア州では、ビットコインの企業はライセンスのガイドラインに従わなければならないという法案が提出されました。この法案は州議会を通過し、今年カリフォルニア上院に再提出されます。
昨年6月にはニュージャージーの立法機関にNew Jersey Digital Currency Jobs Creation Actという法案が提出されました。免許を取得するかわりにデジタル通貨を取り扱う企業として州に登録するものです。これを行うと企業側は大幅に減税を受けることができ、運営を素早く行うことができるインセンティブもあります。
9月には米国商品先物取引委員会が、ビットコインは同組織の監督対象となるコモディティだと発表しました。だからといってビットコインを通貨として見なすことができないというものではありませんが、特にビットコインの先物取引については同委員会が監督することになります。
南米
南アメリカ大陸の中では、アルゼンチンの企業が最も多くビットコインを受け入れています。
ブラジルも仮想通貨を受け入れており、2013年の10月にはビットコインを含む電子通貨やモバイル決済を正規化できる可能性が見える法律が成立しました。2015年の終わりには、ブラジル衆議院で公聴会が開かれ、中央銀行にデジタル通貨を監督させる法案について審議しています。
一方、エクアドルではビットコインが禁止されています。独自の電子通貨システムを構築しようと試みており、それを保護するためでしょう。
ヨーロッパ
欧州司法裁判所は、ビットコインの売上げには付加価値税がかからないと判決を下しています。ビットコインの取引は「通貨および法定通貨として使われる紙幣と貨幣に関する条項により付加価値税を免除される」と発表しています。
この判決によってビットコインはお金として扱われることになり、ヨーロッパでのイメージと人気は、より強固なものになりました。
ロシア
仮想通貨に対し寛容な姿勢の国は少なく、むしろ反感的な国も多いのが現状です。ロシア政府もその一つです。
ロシア政府とロシアの金融機関がビットコインを反対し、2015年末、ロシア政府は全ての仮想通貨の所持、取引など一切禁止する法律の立法を検討していました。もしこの法案が立法された場合、ロシア国内で仮想通貨の使用が発見されると、4年間の重労働を科すという可能性もあります。
しかし2016年初めにロシア中央銀行は意見を変え、仮想通貨に対し前向きな態度を示しました。現在ロシア政府は調査グループを立ち上げ、ブロックチェーンテクノロジー、モバイル、ペイメントシステムなどの分析に力を入れています。
ロシアには約20万人の仮想通貨ユーザーがいますので、ロシアでの仮想通貨取引が認められるとバーチャルエコノミーに多大な影響を与えるでしょう。
イギリス
英国財務省は2015年の3月、他の金融業者と同じくイギリスのビットコイン取引所にアンチ・マネーロンダリングの基準を満たすよう求める計画を発表しました。
これは管理業務にのみ当てはまるもので、義務ではなく、オプトインです。これでイギリスではある程度ビットコインが合法になるでしょう。
ドイツ
ドイツはビットコインや仮想通貨の規制について、ヨーロッパで最も進んでいる国かもしれません。ビットコインやその他の仮想通貨はプライベートマネーとして見なされます。
オーストラリア
オーストラリアと仮想通貨は愛憎関係にあります。2014年の7月まではビットコインは課税の対象外でした。しかし、上院委員会はビットコインが無形資産とすることを決定し、1万オーストラリアドルを超えるすべての取引に商品サービス税が課されることになりました。
これは業界内の主要な新興企業が、もっと規制の緩やかな国へと拠点を移す結果につながりました。しかし、2015年10月には業界の競争力をあげるために、政府が同国の中央銀行と、証券監督機関がビットコインやその他の新しい決済システムを監督してきたかを見直すと明言しています。
ニュージーランド
ニュージーランドの中央銀行は「ノンバンクは(ビットコインのような)価値の保存や取引のスキームに関して、現物の通貨(紙幣と貨幣)の発行に関わらない限り中央銀行からの許可は要らない」と公表しています。
まとめ
ここから分かるように、多くの国で、政府がビットコインに寛容な姿勢を取り始めています。また、これからビットコインや仮想通貨に対する知識が深まると、その存在を無視したり一過性のものだと考えたりするのではなく、通貨として見なされ適切な規制がかけられるでしょう。
※この記事は、FX攻略.com2016年5月号を転載したものです
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