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「大人の経済」基礎講座

FXトレーダーのための「大人の経済」基礎講座|第5回 伝統的金融政策と非伝統的金融政策[雨夜恒一郎]

ファンダメンタルズ(分析)を体系的に学ぶことができる当企画。今回のテーマは、中央銀行の「伝統的金融政策と非伝統的金融政策」です。先進国の代表である日本のケースを中心に解説してもらいます。

※この記事は、FX攻略.com2017年10月号の記事を転載・再編集したものです

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金融政策の歴史と背景を理解しよう

今回の大人の経済基礎講座は、中央銀行の「非伝統的金融政策」についてです。2017年後半の最大の注目ポイントは米国がいつどれだけ利上げするかという点ですが、それと同じかそれ以上に重要なのは、米国がいつどうやって非伝統的政策からの脱却を図るのかということです。

これを機会に、非伝統的金融政策とは何か、中央銀行はどのような経緯で伝統的金融政策から非伝統的金融政策の領域に突入していったのかを理解しておきましょう。なお本稿では、論点を分かりやすくするために、非伝統的政策の先進国である日本のケースを中心に述べていきたいと思います。

伝統的金融政策とは

非伝統的金融政策について述べる前に、まずは「伝統的金融政策」とはどういうものかを理解しておく必要があります。金融政策とは、中央銀行(日本でいえば日本銀行、以下日銀)が行う経済政策の総称です(これに対して、政府が行う経済政策を財政政策といいます)。伝統的金融政策とは先進国の中央銀行が文字通り「伝統的」に行ってきたオーソドックスな金融政策で、教科書的にいうと以下の三つの手段があります。

① 公定歩合の操作
② 公開市場操作
③ 預金準備率の操作

このうち①の公定歩合とは、中央銀行が金融機関に貸し出しを行う際に用いる金利のことで、かつては金融政策の中枢をなすものでした。金利が規制されていた1990年代前半までは、預金金利や貸出金利が公定歩合に連動していたため、公定歩合が変更されるとこうした金利も一斉に変更される仕組みになっていました。

しかし1994年に日本でも金利自由化が完了し、1995年からは短期金利を誘導することによって金融調節を行うスタイルが確立されました。この短期金利を誘導するためのオペレーションが②の公開市場操作です。これに伴って公定歩合による貸し出しは補完的なものとなり、政策金利としての公定歩合は形骸化していきました。

代わって政策金利となったのは「無担保コールレート翌日物(以下無担コール)」です。1998年からは日銀金融政策決定会合の決定事項として、「無担コールが平均的に○○%前後で推移するよう促す」という誘導目標が掲げられるようになりました。

③の預金準備率とは、法定準備率とも呼ばれるもので、金融機関が預金者から受け入れた預金に対して中央銀行に預けなければならない強制的預金(これを準備預金といいます)の比率のことを指します。この比率を引き上げれば、金融機関は中央銀行により多くの準備預金を置かなければならないため、間接的に金融引き締め効果をもたらすことになります。逆に預金準備率を引き下げれば、金融機関の資金繰りはそれだけ楽になりますので、間接的に金融緩和効果をもたらすことになります。

ただしこの理屈は金融機関が常に資金不足だった時代には有効でしたが、現在のようにカネ余りで超低金利の時代にあっては、金融政策としての効果はほとんど失われています。

ゼロ金利政策

さて日本経済が1990年代のバブル崩壊や金融危機を経て未曽有の不況にあえぐ中、日銀は徐々に非伝統的金融政策に突入していきました。まず1999年2月から2000年8月にかけて、上記の無担コールの誘導目標が「できるだけ低め」に設定されました。当時の速水優日銀総裁(在任1998~2003年)が「ゼロでも良い」と発言したことから無担コールはほぼゼロ%となり、「ゼロ金利政策」と呼ばれるようになりました。

ゼロ金利政策は、銀行間の金利をゼロ%に誘導するという究極の金融緩和策でしたが、当時はあくまで緊急避難的・非常時の政策と位置付けられ、早期に解除するべきものとされていました。

量的金融緩和(QE)と時間軸政策

2000年にITバブル景気がやってくると、ゼロ金利政策は一時解除されますが、翌年ITバブルが崩壊すると事実上復活。さらに日銀は2001年3月に「量的緩和(QE)」を導入し、政策目標を金利からお金の「量」に変更します。

当時は名目金利をマイナスにすることはできない(いわゆる「ゼロ制約」)と考えられていたため、金利がゼロ%になるとそれ以上の金融緩和はできません。そこで窮余の策として「金融市場に資金を大量に供給する」という奇策が採用されたのです。非伝統的金融政策はここからスタートしたといって良いでしょう。

具体的には「日銀当座預金残高(市中銀行が日銀に預けている預金の残高)が〇〇兆円程度(当初は5兆円程度)となるよう金融市場調節を行う」という政策目標が掲げられました。同時にこの量的金融緩和政策の枠組みを「消費者物価指数(CPI)の前年比が安定的に0%以上となるまで継続する」ことをコミットする、いわゆる「時間軸効果」という概念を初めて導入しました。

量的緩和は実務的には日銀による市中銀行からの国債の買入れによって行われました。日銀がA銀行から国債を買い入れ、代金を日銀にあるA銀行の当座預金に入金することにより、日銀当座預金残高が増加することになります。このお金は日銀が新たに生み出したもの、いわばお札を刷って作ったものであり、日銀が資産を買い入れた分だけ市中にあるお金の総量が増えたことになります。

ただし、量的緩和はあくまで札束を日銀の当座預金の中にうず高く積み上げただけであり、景気や物価にどれほどの効果を及ぼすことができるかは未知数でした。そういう意味ではかなり実験的な政策だったといえるでしょう。当座預金残高目標は2001年3月のスタート時には5兆円程度でしたが、2005年5月には30~35兆円まで膨らみました。

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リーマン・ショックと金融危機

2003年には福井俊彦日銀総裁が就任。2006年には金融危機がおおむね収束し景気がある程度回復したため、量的緩和は解除され政策目標は再び無担コール(おおむねゼロ%)に戻りました。同年7月にはゼロ金利政策も解除され、無担コールの誘導目標は2007年2月には0.50%まで引き上げられました。

しかし2007年8月のパリバ・ショック、2008年9月のリーマン・ショックをきっかけに世界的な金融危機が発生すると、無担コールの誘導目標は段階的に0.10%まで引き下げられました。

なお福井日銀総裁はリーマン・ショック直前の2008年3月に退任しており、後任には白川方明副総裁(~2013年)が昇格しました。白川総裁は非伝統的金融政策に消極的で、ここから2010年までは思い切った緩和策は打たれず、のちに「Too little, too late(金融緩和が小さすぎ、遅すぎた)」と批判されることとなります。

資産買入等の基金

2010年10月になると、日銀もようやく「包括的な金融緩和政策」と称する政策パッケージを打ち出し、無担コールの誘導目標を0~0.10%に引き下げると共に、新たに設立した「資産買入等の基金」を通じた資産の買入れ(長期国債、短期国債、CP、社債、ETF、J-REITなど)=量的緩和が始まりました。

資産買入等の基金は当初35兆円でスタートしましたが、東日本大震災や欧州債務危機を経て、2013年には101兆円まで膨らみました。日銀による国債市場の寡占化はここから始まったといえます。

物価目標と量的・質的金融緩和(QQE)

2012年11月、自民党の安倍晋三総裁は、インフレ目標2%を達成するまで無制限な金融緩和をすべきと選挙公約し政権を奪取。ここからいわゆるアベノミクス相場がスタートします。

2013年1月には政府と日銀が共同声明を発表し、日銀としては初めて物価安定の目標(CPI前年比+2%)を導入します。日銀の伝統的な原理原則にこだわり金融緩和に積極的でなかった白川日銀総裁は2013年3月に任期途中で退任し、黒田東彦・現日銀総裁が就任しました。

物価上昇率2%を2年程度で達成するため、2013年4月には「量的・質的金融緩和(QQE、いわゆる異次元緩和)」が開始され、金融政策の目標は無担コールから「マネタリーベース」に変更されました。

マネタリーベースとは、日銀が市中に供給するお金の総額で、流通現金(紙幣や貨幣)と日銀当座預金の合計です。金融市場調節方針は、「マネタリーベースが、年間約○○兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」と明記されるようになりました。2012年末で138兆円だったマネタリーベースを今後2年間で2倍に増加させるという、まさに異次元の量的緩和です。これまでの資産買入等の基金は廃止されたので、買入れの上限は事実上撤廃されたことになります。

ちなみに「量的・質的金融緩和」の「質的」とは、ETFやJ-REITなどのリスク資産の買入れを拡大することによって、日銀のバランスシートを質的に変化(劣化)させる意味合いが込められていました。

マイナス金利付き量的・質的金融緩和

しかしこれだけの金融緩和を行っても景気や物価はなかなか思うように回復しませんでした。そこで日銀は2016年1月、ついにマイナス金利の導入を決定します。具体的には日銀当座預金を三段階の階層構造に分割し、それぞれの階層に応じて+0.1%、0%、−0.1%の付利を適用するというものでした。

マイナス金利適用となるのはごく一部のはずでしたが、大規模な国債買入れによるイールドカーブ全体の低下と相まって、短期から長期にわたって幅広い期間の金利がマイナス圏に沈みました。

イールドカーブ・コントロールとオーバーシュート型コミットメント

2016年9月には、従来の「量的・質的金融緩和」「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を強化する形で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が導入されました。この政策の目玉は、短期金利だけでなく長期金利まで操作する「イールドカーブ・コントロール」。具体的には、10年物国債利回りがおおむねゼロ%程度で推移するよう長期国債の買入れを行うというものです。

かつては「中央銀行は短期金利をコントロールできても、長期金利はコントロールできない」といわれていましたから、これは非常に画期的な非伝統的金融政策です。日銀はこの点について、マイナス金利と大規模な国債買入れの組み合わせによって、イールドカーブ全体に影響を及ぼせることが分かったと主張しています。

もう一つのポイントは、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」です。2%を一時的にオーバーシュートしても量的緩和を止めないと約束することにより、市場の期待形成に働きかけることを目指しています。市場の「期待」という抽象的な対象にまで働きかけるという点において、画期的というか、なりふり構わない政策といえるでしょう。

本稿執筆時点では、この「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が最新の政策であり、日銀は、①マイナス金利 ②量的・質的金融緩和 ③イールドカーブ・コントロール ④オーバーシュート型コミットメント─という4種類もの非伝統的金融政策を実行していることになります。

しかし本来2015年に達成されるはずだった物価目標2%はいまだ達成されておらず、日銀は7月20日の金融政策決定会合で達成時期を2018年度中から2019年度ごろに先送りしています。果たして日銀は非伝統的金融政策という弾薬を撃ち尽くしたのか、それともまだやれることが残っているのか。今後の日銀の動向に注目が集まっています。

今回は日本の非伝統的金融政策の歴史やその背景について述べましたが、ここで紙幅が尽きてしまいました。次回は、米国やユーロ圏の非伝統的金融政策とその出口戦略について詳しく述べたいと思います。

第5回まとめ

① 伝統的金融政策は主に「公定歩合の操作」「公開市場操作」「預金準備率の操作」の三つ
② マイナス金利や量的・質的金融緩和など、新たな奇策を非伝統的金融政策と呼ぶ
③ 日銀は既に4種類の非伝統的金融政策を実行している

※この記事は、FX攻略.com2017年10月号の記事を転載・再編集したものです

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